神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と魔術

  俺は今、ノギスの東側の郊外でキリスさんと一緒にルゥさんを待つ。
 広い草原地帯で、広々とした空間。魔術の練習としては丁度いい。
「ルゥさん、何してるんでしょう?遅いですね」
  待ち続けること15分。いい加減待ち疲れた。
「きっと、圭介君のために相応しい魔具を選んでくれているんですよ」
「そうでしょうか…」
 あのちびっ子が化粧やらする必要は感じない。服を選んでもいるのか?
 思いつかない理由を考えて、自分を納得させようとする。
 すると、
「あ、ルゥさんが来ましたよ」
  キリスさんが門のほうへ顔を向ける。
  長身の美女がやってきた。
  長くスラッと伸びたきれいな足がスカートから延びている。髪は後ろで縛り、色は紫でルゥちゃんと同じだ。華美な装飾品を身に付けて、ベルトには6つのポーチを身に付け、両腕にはブレスレットを大小合わせ6つ前後を身に付けている。顔は、切れ長のつり目に眼鏡をかけ、こちらの様子を伺っているようだ。
「キリスさん、もしかしてアレって…」
「ああ、圭介君は当たり前だけど初めてだよね。あの姿がルゥさんの本当の姿だよ」
「え、じゃああの小さいのは?」
「あの小さいルゥさんは魔具だよ」
「え、幻術とかじゃなくて?」
「ルゥさんは幻術も使えるけど、幻術は物に触れられないから接客には向いてないんです。最初会ったときはルゥさん寝てたましたよね?あの状態が、ルゥさんと繋がってないときの状態なんです」
(なるほど、あのロリさん=魔具で傀儡みたいなものなのか)
  スタスタとスタイルの良い過飾美女が近づいてくる。
「じゃあ、始めるわよ!」
  開幕一言、ルゥさんは地面の一部をくり貫き、直径1メートルの土塊にして
俺達めがけて、投げる。
(やば…)
  瞬間、ああ、これは骨折で済まされるかな?と思った。
「ん!」
  眼前に滝が現れた。土塊は滝によって、地面に落ちその場だけが湿地の如く泥沼化した。
「まだまだ!!」
 今度はビー玉大の大きさの歪な何かを俺たちへと投擲する。
「圭介君!下がって!」
 眼前の沼が滑らかに動き出す。そして、泥のようなそれは壁へと姿を変える。


 ドスッ!ドスドスッ!!
 壁に衝突したであろうそれらが鋭い音を立て、突き刺さる。
 そして、泥は再び動き出し、ルゥさんを飲み込もうと迫る。
 俺はそれを見ながら、キリスさんの身に着けている杖の先端の石が光っているのを見る。
 おそらくそれは魔具であり、キリスさんが魔素を流している証拠でもあるのであろう。
 ルゥさんは素早い速度で沼の動きに合わせ避けていく。合間に歪な何かを投げるが、どれもが泥の壁に飲み込まれる。
 凝視すると、沼の波に淡い薄黄緑の光と一緒に圧倒的な閃光と形容するのが正しいのか、そんな小さな赤い光がいくつも内在している。
「キリスさん!ルゥさんが投げてるアレ、なにか魔素が込められてますよ!」
「本当ですか!?」
 俺がキリスさんに忠告し、キリスさんが反応すると同時に感極まる声が聞えてきた。
「もう遅いわ!!」
 沼の光が一瞬揺らめいたかと思うと、瞬間沼が弾けた。と同時にルゥさんの足元も弾けた。
 一瞬で間を詰められるキリスさん。
 俺はこの瞬間、キリスさんが死ぬと思った。
「不合格、また今度頑張ってね」
 そういうルゥさんは笑顔でキリスさんの頭を撫でる。
 長身なルゥさんは手を伸ばして、更に長身なキリスさんの頭を撫でる。不思議な光景にも見えるが、先生と生徒のようにも見えた。
「だいたい分かってくれたかしら?魔術というのはこういう風に使って戦闘をするのよ」
 ああなるほど、実戦形式っていうのは俺がやるんじゃなくて、キリスさんとの模擬戦を見ることだったのか。
「もしかして、ルゥさんが身に着けているのは全部、魔具ですか?」
「ええ、もちろん」
 しかし、先ほどの戦闘ではキリスさんの杖のように光っている装飾品は無かった。
「さっきの魔術はどの魔具を使ったんですか?目につく限り、魔具を使ってなかったように見えるんですが」
「あらあなた、そんなことまで分かるの?」
 そういうルゥさんはポーチから一つの鉄塊を見せてくれた。
「これがさっき投げていたものですか?」
「ええ、これにはいくつか魔素を編み込んであるの。私が考えた使い捨ての魔具よ。これに熱を急激にかけると簡単に弾けるの。だから、さっきの”流沼りゅうしょう”は弾けたのよ」
 まさか、あそこまで大きな爆発になるなんてと笑って言ってくれた。
「じゃあ、不合格の罰として後片付けをしなさい。その間、この子に色々と教えてあげるから」
「はい、わかりました。ルゥさん」
 そういうキリスさん。その流れは自然で、いつものことなんだろうなと思わされた。この時でもいつものスマイルは忘れておらず、すごいなと思わされた。
「はい、これ」
 手渡されたのは一つのペンダント、開いてみると魔石が一つ入っていた。
「これはなんの魔具ですか?」
 俺は疑問に思ったのことを素直に聞いてみる。
「それは土を操る魔具よ。さっき私が土塊を投げたでしょ?あんなことができるのよ」
 俺はそれを首からぶらさげ、なんとなく魔素を操るような空を切るような感覚で魔具を発動させる。
 目の前にニョキッと土が突き出てきた。
 俺はもう少し集中して魔具を意識する。
 ニョキニョキッと突き出た土が膝ほどの高さになる。
 このとき、俺はなんとなく何かが薄れていくような削れていくような、なにかが減っている感覚を覚えた。
 俺はさらにその感覚を鋭敏に感知するため、さらに魔具にそれを注ぐ。
 ドッ!と俺と同じぐらいの高さまで土が突き出てきた。
「おお、すげー」
「あら、最初からここまでできるね。あなたには結構な魔素保有量がある可能性があるわね」
「そうなんですか?」
「そうよ」
「なるほど…。そういえば、魔素保有量ってなんなんですか?」
 魔素のことは憶測も入ってるけど、結構分かったつもりだ。魔素保有量というのも頭の中では感覚として理解できる。
 しかし昔、先生が言っていた。『当たり前と思っていても意外な意味があるかもしれないから、積極的に辞書を使え』と。


 熱心な英語の先生だった。


「魔素保有量っていうのは、体内で蓄積される魔素のことよ。あなたは魔素が体のどこにあると思う?」
「えーっと…、(だいたいエネルギー系は丹田にあるって聞くから、お腹かな?)胴ですか?」
「ちがう!」
 ペシッ!頭をはたかれた…。
「魔素は頭に蓄積されるのよ」
「頭ですか?」
「頭”だけ”ではないけどね。ほとんどが頭に蓄積されるわ。私が一瞬でキリスとの間合いを一瞬で詰めたでしょ?あれは頭の魔素を使ったんではなく体の魔素を使ったのよ」
 ???よくわからない???
「頭に蓄積される魔素と体内にある魔素の二種類があり、体内にある魔素で人間は活動することができるのよ」
 ああ、『魔力』と『気』の違いみたいなものか、精神力と体力に近しいどこかの漫画で読んだような設定だ。
「なるほど、わかりました。その体内魔素は簡単に操れるんですか?」
「ええ、魔具に通す感覚に近いけれども少し違うかな。練習次第では2~3週間で使えると思うわ」
「なら、魔術の後はその練習も付き合ってもらえませんか!」
「いやです」
 はやっ!間髪入れずかよ!しかも笑顔で!
「そういうことは一人でやりなさい、私があなたに教えるのは今回限りよ。質問ぐらいなら答えてあげるけど、手取り足取り教えるつもりはないわ。早くと魔術を使えるようになりなさい。そして私を楽しませなさい」
 そういって直径10㎝の土塊を俺に向かってなげ俺はそれを消す。
 なんなく俺はそれを消す。そして、少しだけ魔術を使って減った魔素が回復する。
「そうそれよ。もっと楽しませなさい!」
 さっきより一回り大きい土塊を再び投げつける。
 俺は消す。回復する。
 さらに大きい土塊をさらに投げる。
 消す。回復する。
 投げる。消す。回復する。
(やべ…このままじゃ保有量が飽和するんじゃ…)
 投げる。消す。回復する。投げる消す回復する。投げ消す回復。投消回。…。


(あっれー…おかしいな、、、魔人化もしないし倒れない…)
 それでもまだ魔素は回復する。
(まだ余裕はある感じだけど、このままじゃ保有量が飽和して魔人化してしまう…。こうなったらデタラメに魔術を使っちゃる!)
 回復させた魔素を全てペンダントに流し込むよう意識する。
「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 掛け声一つ、意識を一点に、魔素を一気に!
「奥義!抱土ほうど!」
 あたり一帯の土を動かし、ルゥさんに向かわせる。さっきキリスさんが使った魔術に近いがキリスさんが使った流沼は沼化したあの部分を起点に操っていたが、俺が使ったコレはあたりにある土を”全方位”からルゥさんめがけて襲い掛かる。
「なかなか面白いじゃない!」
 だん!と、ルゥさんは土を操り壁を作る。俺はその壁すらも飲み込もうとして意識を鋭敏化させる。


「ああ、まだ教えてなかったがな」


 そういうルゥさんに耳を貸さずに土で覆うように飲み込む。
「うぉっしゃーーー!」


「同じ物を操る場合、どれだけ操る対象に魔素を注いだかで決まるんだ!!」
「うぉ?」
 ルゥさんに襲い掛かった土は一瞬にして俺の意思から離れ、もとの土に戻った。
「ふぅ…なかなか魔素を込めてたわね。あなたの放出限界は既に一級魔術師並みだな。覚えが早いというより、先天的なものか才能かしらね」
「いやいやいやいや、込めた俺が言うのもなんですけど、あれって結構な魔素込めましたよ!」


 ルゥさんが込めた魔素以外にも投擲した土自体を還元したんだ。カナリの量だと俺は認識してる。


「ああ、それはね。私の魔素を還元して使ったんだから。どれほどの魔素かぐらいなおおよそ分かるわ」


「そんな…」


  それにしてもすごいな。実際に魔術を使ってみてわかったけど、操作対象が思う通りに動く。まるで神経がそれに伸びているみたいだ。今回やった魔術は規模こそ広いがやったことは土を一ヶ所(ルゥさんがいた場所)に集めるということだ。それに魔術を使った感じ、魔術というのは創造と言うよりも操作に近い。何もないところから何かを生み出し作り出すから操るより、もとからあるものを使うほうが合理的だ。キリスさんが使った水は大気中の水か作り出したか、土地の水脈から取り出したのか…。ともかくキリスさんは一度だした水を泥という形で操作した。つまり、創造魔術は非効率である。


  そういえば、


「ルゥさん、魔素ってどうやったら回復するんです?」


「普通は食事や呼吸で回復するわね。睡眠や瞑想なんかでも回復するわ。それ以外には魔素の塊の魔薬があるわよ」
「麻薬ですか…それって危険じゃないんですか?」


「確かにアレは摂取した瞬間にかなりの爽快感を得るらしくて、魔薬中毒になるらしいわ。適量なら問題がないらしいけどね」


「いや、それってカナリやばいでしょ!」


「そうね、あれは摂取しすぎると魔人化しちゃうから」


「いや、廃人化しますよ…」
「ハイジン化?なんなのそれは?」


  俺は気にしないでくださいと手を振る。


  つまり、麻薬は回復剤として使われているから危ないと…


  ん、待てよ?俺も還元してるときはカナリの違和感は感じたが、さっきはあんまり感じなかったな…。


  危なくないかな?




  まぁいっか♪


「そういえば、俺の魔術はどうでした?合格ですか?」


「不合格」


  ペシッ!また叩かれた…。


「ということで、あなたもキー君と一緒に片付けに行ってきなさい」


「あ…」


  キリスさんのこと忘れてた。


 辺りを見渡すとキリスさんが俺が操った土を片付けている。


「キリスさーん!すいませーん!」


  



  こうして俺の初めての魔術講習は終わった。


  追記、ルゥさんからペンダント型の魔具を貰いました。

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