神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と還元

―――輝く水を指差すユニさん。


「でも、その水、なんか光ってますよ?」


「光ってる?光が反射してるだけだろ?」


(もし、そうだとしてもここまで光るはずがないと思うんだけど…)


  水を入れたコップは光っているにも関わらず、周りを照らすことはなく、瞳孔が縮小するせいか、周りが暗くなった錯覚すら覚える。


  俺はその光る水に手を伸ばして指を突っ込むと


―――水が霧散した。


「「え?」」
  

  ユニさんと俺は間の抜けた声を上げた。






―――俺はこれと同じ感覚を味わったことがある。


体内に異物が入り込むような、あからさまな違和感。しかし、それが害になるのかと言われれば否。体内で明らかな違和感は時間をかけて、体内で混じり癒着していく。感覚をそれに向けると熱の籠った、病熱ではなく、活力や元気といった明らかな原動力とした熱。そんな変な感覚。確かこれは―――


(ああ、留置所で床石を霧散させたときだ――)


  今なら分かる。コレが皆が言っていた。魔素なんだ。
  なんて、ナンテ


―――キモチガイインダ。。


―――オカシナクライキモチガイイ。


―――モット、モットダ!


  本能の活性。弱者をいたぶる快感。他者を蹂躙し、支配する。圧倒的なまでの破壊衝動。今俺に牙と爪があったなら、目の前のメスを八つ裂きにできたのに―――。


「おい、圭介!しっかりしろ!おい!」


  聞き覚えのある音が耳を通る。




―――ウルサイ。


―――カッテニサエズルナ。


―――ミミザワリダ。






―――ダマラセヨウ。






  俺は目の前のメスに向かって手を伸ばす。
  勝手に鳴く喉なら、白百合の茎ようにその首を―――。


―――圧し折る!


  世界が回った。


  …いや、回ったのは俺か?


「どうだ?圭介、落ち着いたか?」


  既知感。


  組伏せられた俺と、俺の上で間接を極めるユニさん。


「ああ、えーっと…はい?」
  そう返事を返すとユニさんは手を放してくれた。


「心配したぞ、なんでまた魔人化なんか…」


―――?、魔人化?


「なんですか?魔人化って」
「いや、説明は後だ。お前、さっき何をした?」


  怖い顔をするユニさん。
「なにをって、水が光ってたから触ってそれで―――」


―――我を忘れてしまった。


  言葉が続かなかった。


  あれだけ良くして貰ったユニさんに対して、圧倒的なまでの負の感情を抱いた。まるで、理性や倫理、道徳が初めからなかったような。


「そうか、おそらく魔素を多く取り込んだせいだろ。さっきの質問だが、魔人化ってやつは動物が魔素を取り込んで魔物になる仕組みと同じなんだ。魔人化したやつは大概のやつが、破壊衝動に飲み込まれるんだ。さっきのお前がそれだ」


(魔人…俺が魔人?)


「下手な魔術師は魔素の過剰回復をしたり、意図的な暴走をしたときに魔人化が起こる。魔人化したやつは私がお前にしたように物理的な衝撃を与えるか魔素が尽きるのを待つしかない」
  ゲームでいうところのバーサーカーみたいなもんかな?


「この魔人化で怖いところはな、暴走ではなく中毒性にあるんだよ。魔人化になる時、快楽の波が押し寄せてくるらしい」


―――確かに感じた。
  あの圧倒的活力。なんでもできそうだという自信。
「まぁ初心者だから魔人化はあまり珍しくはない。魔素の操り方を覚えれば、魔人化なんてしなくなるさ。それよりも―――」


  そう言って、ユニさんはコップを持つ。


「―――なんで水が無くなったのか?圭介はどこから魔人化する魔素を手に入れたのか」


一拍置いてユニさんが言った一言は―――


―――お前、水を魔素に還元しただろ?

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