神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と魔具

 ウリクは仕事のため席を離れ、今は圭介だけが取り残された。圭介は持て余した時間を例のメールについて割いていた。
 あのメールの送信元には『***』と表示されていた。しかし、圭介の携帯のアドレス帳には『***』という登録名は存在しない。
 圭介は試しにそのメールの送信者に返信を試みるも、ディスプレイには『圏外』と表示されているため送信することは叶わなかった。
 圭介は大きくため息を付き、メールの件は保留することに決めた。
  現状、圭介の宿泊する先は確保された。そのため圭介は少しばかり心の余裕が生まれた。 
「よお、待たせたな」
  そう言いながらユニは鎧を脱ぎ私服姿で戻ってきた。
「いえ、お仕事お疲れさまでした」
「それじゃあ、行くか」
  そう言うと、詰所を出るユニ。圭介もユニに続いて出る。
  外はすっかり日が没し暗い。城門をくぐった先には西洋風な街並みが広がっていた。煉瓦造りの一軒家がずらりと並ぶ。道沿いにあるのは、宿やよく分からない商品を並べた店、無造作に刀剣類を突っ込んだ樽を店先に置いた武器屋などがある。
(うわー、ファンタジーっぽい)
  圭介は胸にワクワクを抱えたまま、ユニについて行くと、美味しそうな匂いを漂わせる店の前で立ち止まった。
「まずは腹ごしらえだ、おごってやるから好きなのを頼みな」
  扉をくぐるユニ、そしてそれに続く圭介。
「おお、ユニじゃねぇか!なんか食うか?それとも飲んでくか!」
  大笑いしながら歓迎してくれる黄色いエプロンをかけたハゲた筋肉質なおっさんが出てきた。
(うわ、ゴリマッチョ…)
「いや、今日は飯だけでいい。席を二人分空けてくれないか」
「お?二人分?ってことは後ろの坊主はお前の客か!」
  ガハハと笑う笑えないゴリエプロン。
「まぁゆっくりしてけや、ココは飯屋『ネリウスの加護』だ。味も料金も他の店とは変わらねぇが、量だけならこの街一番だ!」
 そう言いながら筋肉質の店主は圭介の肩胛骨当りを殴られたと錯覚する勢いでバンバンと叩く。
「それでだ、何が食べたい?品目は壁にかかってるから、選んでくれ。オススメはシチューだ!」
「私はいつものやつで頼む。圭介は何がいいんだ?」
「せっかくだから、オススメをお願いします」
「おし!まかせておけ!」
  そう胸を張った店主兼料理長は厨房へと入っていく。
 圭介が注文したとき、客の一部がざわついたが、圭介は特に疑問を抱かなかった。
  圭介とユニは木製の椅子に腰かけると、ユニは切り出した。
「そういえば、まだ自己紹介がまだだったな、私はユニリアス・キニアリブ。皆はユニと呼ぶから、おまえもそう呼んでくれ」
「はい、ユニさんですね。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
 ユニは硬貨を手に取り箱に入れ、水を注ぐ。どうやら有料のようだ。
「圭介、お前の鞄を調べてる時に白い板のようなものがあったんだがあれはなんだ?」
「白い……ああ、ノートパソコンのことですね」
「なんだ?あれはノートパソコンというのか。初めて見たが綺麗なものだった」
「あれは電気で動く機械ですよ。何かを調べたり、書いたりするときに使う道具です」
「変な道具だな。魔具とは違うのか?」
 マグ…まぐ…馬具…はバグだし…マグネットの略か?…にしてはおかしいしな…。
「すみません、マグってなんですか?」
「ん?魔具を知らないのか?そうか、なら教えたほうがいいか」
  そう呟いたユニは辺りを見渡して、一人のローブを羽織った背の高い人物に視線を向けた。
「おーい!キリス、ちょっとこっちに来てくれ」
  そう呼ばれた男性と思われる人物が振り向いた。
(うっわ。イケメンや)
 白緑色の長髪に面長な顔に切れ長の目、涼しげな顔をした男がこちらを振り向く。 
「なんだいユニリア?」
  キリスと呼ばれた超絶美形男子がユニに近寄る。
「ちょっとコイツに魔具について教えてやってくれないか?」
「いいけど、魔具なんて誰でも知ってるんじゃないのかい?」
「こいつ、圭介って言うんだけど迷い人なんだ。おそらく魔具を持たない土地から来たんだろ」
「あ…お願いします」
「圭介にはしばらくウチに泊まってもらうことにしてるんだ。こっちの土地柄には慣れていなくてね。それで魔具についても知らないっていうから、キリスに教えてもらおうと思ったんだよ」
「そういうことですか、分かりました。では、不肖な私ですが、魔具について説明させていただきます」
 そういうとキリスは懐から小さな宝石をあしらった指輪を一つ取り出した。
「これが魔具と呼ばれる道具の一つです。では、このコップをお借りします」
 そう言うと、隣のお客のコップを手に取り、指輪を指に嵌めて暫くすると、
 チロチロチロチロ…と水が指輪から出てくる。
「おお!水が出てきた!」
 圭介はその光景に驚き、キリスは圭介がこれほどまでに驚くことに微笑んだ。水が入ったコップを元の持ち主に返し、ありがとうございました。と礼を言った。
「魔具とはこのように、『魔素』と呼ばれる全ての構成されている源を操って魔術を使用することを補助する役割があります。魔具を用いずに魔術を使うこともできますが、その場合、起こる現象を明確に想像する必要があります。そのため、詠唱や術式構築を行う必要がありますが、魔具はそのような手順を省略することができます。それ以外にも魔具に予め、明確な目的を込めた魔素を編み込むことによって、複雑な現象を起こすことができます。商人同士の契約書などでは、魔具を用いた契約を行うことも通例化しているんですよ」
 そういったキリスは指輪を懐に仕舞うと、
「何かご質問はありますか?」
「えーっと、魔素を持つ人なら誰でも魔具を使えるんですか?」
「そうですね。この世にある全ての動植物、大気、鉱物、つまりこの世界上のすべてが魔素を持ってはいます。しかし、大気や鉱物は意思がないため、魔具を使うことはできません。魔具を使用する場合、魔素の保有量にもよりますが、だれでも使うことはできます」
「じゃあ、さっきの指輪はキリスさんが作ったんですか?」
「お恥ずかしいですが、私は魔具製作ができません。これは既存の物を偶然手に入れました」
「そういえば、キリスさんは何をやっている人なんですか?」
「ギルドに所属していて、クエストをこなしていますね」
「ギルドですか?」
「そうだ、このあと街を案内してやるからついでに登録してみろよ」
  そして、ユニが言い切るタイミングで、
「お待たせしました!」
  と若い女性、少女と言っていい声が響いた。
「こっちが、ユニさんの分。こっちが黒髪君の分だよ」
  と茶髪におさげ髪、泣き黒子が特徴的な女の子が料理を持ってきた。
「さて、料理も運ばれてきたし、食べよう。キリスもありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
 そして、この世界に来て初めて食べたシチューは、


―――とても不味かった。



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