神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)とお買い物

  圭介はピリスが描かれた紙を折りたたみポケットに仕舞う。ライルとルルに見送られユニと一緒にギルドをあとにする。
「ピリス退治なら少し離れた森に行くことになるな。ピリスの角を剥ぐための刃物も必要だから、少し買い物に行くぞ」
「……はい。でも、俺、金ないですよ?」
「心配するな。私が払ってやる」
 ユニはそう言って、何度か細い道を縫うようにして進む。たどり着いたそこは、刀剣が突っ込まれた樽が表に置かれた一軒の店だ。
「ココがライルのオススメの武器屋『ノギスの鎚』だ」
  外見は樽が表に出ていること以外は普通の店であり、圭介が想像した武器屋に比べ、清掃が行き届いている。表札には金鎚の模様が彫られていた。
「ユニさん。この表札ですけど、ギルドのほうにもありましたよね? こっちは金鎚の模様ですけど」
「ああ。それはノギスの習慣だな。店にまつわる物品を彫って表に飾るんだよ。この店なら剣を打つ鎚。酒場ならジョッキ。食料品店なら麦や稲穂を掲げている。ギルドの表札が壷なのは……ノギスは良質な蜂蜜を取ることで有名だったんだよ。その蜜壷を輸送する商団を護衛したのが始まりとされているんだ」
「そうだったんですか」
 圭介が納得した様子を受け、ユニは店の中に入る。
「さぁ。なかに入って、好きなものを見繕いな」
  中に入ると、短剣や片手剣、両手剣や細剣、槍や弓、鎧に盾と綺麗に整頓された武具が並べられていた。
  これらは戦いのため、酷く言うなら命を奪うための道具だ。しかし、それでも言いようのない魅力が武具にはある。芸術的な形状、永い時をかけた技術の研鑽、機能美、それらが合わさりあってできた金属の美学。それらが並べられたココは圭介にとっては一種の美術館だった。
「いらっしゃいませ、ようこそ『ノギスの鎚』へ」
  出てきたのは営業スマイルを浮かべた若い女の子だった。
可愛らしい、十六歳程の少女。褐色の肌にアイボリーのポニーテール、瞳はカーマイン色で魅了されそうな、吸い込まれそうな魅力を放っていた。
「こいつに合いそうな物をひとふり頼めるか?」
「はい、分かりました!」
 少女は「失礼します」と断り圭介の体重を聞き、腕周りを触る。そしてトテトテと展示されていた鍛造、片刃の直刀を選出する。
「コチラなどはいかがでしょう? この方ならこれぐらいのものが良いかと思われます」
「少し素振りをしても構いませんか?」
「はい、構いませんよ。こちらに来てください」
 圭介は少女についていく。店の裏手にはちょっとした庭のような空間があった。
「ここなら誰の迷惑にもなりません。思う存分振っても大丈夫だと思いますよ」
少女から許可を貰った圭介は二人から距離を取り、軽く振る。重心は手前側にあるため、斬撃に重さはないが、振り出しが早い。
「うん。これにしよう。コレをお願いします」
  圭介はそう言って片手剣を少女に手渡す。
「こちらは、銀貨で13枚になります」
 銀貨…。どれほどの価値があるのか分からないが、きっと高価なものなんだろう。
「ユニさん。銀貨ってどれぐらいの価値があるんですか?」
「ああ、お前は金を持ってなかったから分からないか。そうだな……通貨の種類は鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・皇貨・神貨といった順に価値が高いものになるんだ。銅貨一枚が鉄貨百枚に相当し、銀貨一枚が銅貨百枚に相当する。こんな感じで百枚の硬貨があれば上位の硬貨一枚に妥当するんだ」
(一番低い貨幣が鉄貨だから日本円だと一円ぐらい? 銅貨が一枚百円なら銀貨一枚が一万円……ということは十三万円ぐらいなのかな……それにしても高い)
「銀貨十三枚だったな。これでいいか?」
「はい。お預かりします」
 少女は秤と重り、そして小さな石を取り出した。
「ユニさん。あれってなんですか?」
「あれは通貨が正しいものか判断するためのものだよ。異なる金属が混じっていると多少重さが変わるからな。そのための秤だ」
「あっちの小さな石は?」
「あれは呼応石。魔術によって作られた通貨を識別するものだよ。魔術によって作られた物品は微量な魔素を放出しているからな。それに反応するとあの石が放出された魔素を取り込んで仄かに光るんだ」
「なるほど。そういえば、鉄貨は鉄、銅貨は銅、銀貨は銀で造られてるってのは分かるんですが、皇貨とか神貨って何でできてるんですか?」
「皇貨は皇帝が特殊な方法で打刻した特別な硬貨だ。私も見たことはないが、希少な鉱石から造られているそうだ。神貨は神が作った硬貨らしい。神の遣いや神の子が地上に現れたときに使った貨幣らしい」
「そんなものがあるんですか」
少女は秤終え、圭介に何かを手渡した。
―――木片?
「これは割符と言いまして、木片を二つに割り、片方を渡します。コレで品物の予約や代金の支払いの時に提示していただきます」
「ということはあの剣は今すぐ持って帰れないんですか?」
「ええ、これから柄を付け替えなければいけません。明日には付替えが終わりますから、この割符を提示してくださればそのままお渡しします」
「わかりました。コレを明日持ってくればいいんですね」
「ええ」
  圭介はコートのポケットに仕舞う。
「では、また明日」
「ご利用ありがとうございました!」
  少女は店から出ていく圭介とユニに頭を下げる。



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