(旧)十億分の一の魔女 ~ナノウィッチ~

田所舎人

10

 三日目の朝。ルクス・ユーロから光魔術を学ぶ日である。
「やっほー。皆、おはよう!」
 長いブロンドの髪をふりふり振りながら元気いっぱいという形容が似合う挨拶を教室にこだまさせる。その挨拶に対して皆な尻窄みに返していく。
「みんな、元気がないぞー? ほらほら、みんな立ち上がって元気に明るくやっていくよ! だってほら、光魔術だからさ」
 何を言っているのだろうとナノは澄んだ瞳を向ける。
「およよ、そんな澄んだ目を向けられちゃ涼しさを通り越して火照っちゃいますよ」
「……」
 マイが嫌そうな顔をしている。マイの担当教師はこのルクス・ユーロである。
「ほらほら、マイちゃん。そんな怖い顔しないで元気にやっていきすよ! 光魔術ってみんな分かるかな? 分かるよね? 太陽が光るのも月が光るのも星が光るのも光魔術のおかげなんだよ? 嘘だけどね! 光魔術は暗い人を明るくしたり、明るい人を暗くできるような魔術でもないんだけど、夜でも明るくしたり、昼でも暗くできる不思議な魔術なんだよ? dɑ':rknis/darkness」
 ホルダーに収めている杖を一瞬で抜き詠唱を完成させる。ルクスの杖先を中心として闇が生まれ全てを飲み込んだ。ナノの視界に映るものは何もなく、隣のミリアの息遣いだけが聞こえ、ナノがそこにいるのを確かめるようにミリアはナノの袖を掴んでいた。
「これが光魔術のダークネス。光魔術といっても照らすだけじゃないんだよ。こうやって相手の視界を奪うことだってできるの。じゃあ、誰か反魔術で闇を払ってみてくれるかしら?」
「……bríljəns/brilliance」
 暗闇の中透き通るようなマイの声。マイを中心に光が溢れ、いつの間にかルクスがマイのすぐ隣まで移動していた。
「こうやって闇に乗じて好きなあの子に接近! なんてこともできる便利な魔術だから皆も覚えてちょうだいね」
 そう言いながら教壇に引き返すルクス。
「マイ、すごいよね」
「確かに凄いな。マイ、あの暗闇の中、ルクスが近寄ってることに気づいてたみたいだ」
「ナノも見えたの?」
「いや、マイの衣擦れの音がして、ルクスの身体が少し傾いてたからたぶんマイがクルス先生を押しのけようとして身体のバランスを少し崩してたから」
「ナノは目も耳もいいんだね。だけど、先生の名前はルクスだよ」
 ミリアはえへへと笑みを浮かべた。
 ルクスは黒板に何かを書き始める。
「本当なら、私の教育方針に則って自習にしてマイちゃんと一緒に遊び、もといお勉強がしたいところだけど、最初の授業ぐらいはきちんとしなさいってデシベル先生に言われちゃってるから皆もしっかり勉強してね!」
 ナノ達に背を向けて、愚痴をこぼしながら書き終えた。それは五色の帯だった。
「光は赤、黄、緑、青、紫といった色を持つの。本当は赤や黄色に橙色、黄色と緑の間に黄緑とかあるんだけど、そんなことは気にしない。とにかく、光には色々な色があるの。そんな色々な色の光が混ざり合うと白い光になって明るくするの。実際に見てもらったほうが早いわね。シャノン先生、ダークネスで一度部屋を暗くしてもらえますか」
「あ、はい。分かりました。dɑ':rknis/darkness」
 シャノンを中心に闇が生まれ室内は真っ暗になる。
「じゃあ、見ててね。láit/light」
 暗闇の中、赤く照らされた本来は白いはずの壁。
「次はデシベル先生、私の光に緑の光を当ててください」
「分かりました。láit/light」
 そうすると赤く照らされていた壁が黄色に照らされた。
「このように赤と緑の光を合わせると黄色になります。次はケルビン先生、青の光をお願いします」
「分かったわ。láit/light」
 そうすると黄色の壁が白く照らされた。それが壁の本来の色だ。
「この状態で私の赤の光を消してみるわよ」
 そういって杖を収めるルクス。すると白く照らされていた壁が水色に照らされた。
「このように光は複数の色で別の色に見せかけることができます。お二人共強力ありがとうございました。私が何を言いたいかというと、光魔術は白を黒に黒を白にできる魔術だということがいいたいんです。欺くこともできれば騙すこともできる。人間は目に頼りすぎていますからね」
 そこまで解説するとすーっと息を吸って息を吐く。
「真面目に話したから疲れた」
 気だるげに教壇に突っ伏すルクス。
「もう疲れたから自習してください。マイちゃんは私のところに来てください。抱きしめさせてください」
 そう言って、ルクスは潰れた。担当教師達はそんなルクスのことを特に気にすることなく担当学生の元に向かい、マイはルクスを運び出した。
「なんか、とんでもない人ですね」
「やっぱり、ナノ君からみてもそう思うかしら」
 苦笑するシャノン。
「でも、ルクス先生は立派な人よ。どんな辛い時でも苦しい時でもあの人はあの人のままでいてくれるから」
「シャノン、ルクスのこと詳しいね」
「私だって少し前はここの学生でルクス先生の姿は見てましたから。ルクス先生は学園長に憧れていて、学園長と同じ綺麗な黒髪を持つマイさんのことが大好きなんですよ。それに同じ光魔術を使えるもの同士、どこか気になるんでしょうね」
「そういうもんか。そういえば、学園長の魔素系統ってどれなんだ?」
「学園長はミリアさんやテスラ先生と同じ電気系統の魔素を持ってるわ。学園の電灯に使われている魔素の一部は学園長のものでもあるの」
「へぇー、俺も知らないうちにお世話になってたのか」
「そういうことになるわね。さて、そろそろ光魔術の練習をしましょうか」
「おう」
「光魔術の基本はライトとダーク。周りを明るくする魔術と暗くする魔術よ。まずはライトからやってみてちょうだい」
「láit/light」
 ナノの杖先から小さな光が生まれる。やや青みを帯びた光だ。
「そうそう。いい調子よ。次はダークよ。発音はdɑ':rk/darkよ」
「dɑ':rk/dark」
 そうすると杖先は暗闇に飲み込まれ、見えなくなった。
「そうそう。上手上手。ナノ君はやっぱり魔術の才能があるわ」
「そうなのか?」
「そうよ。簡単そうにフォースやサウンドの魔術を使ってるけど、習得するにはもう少し時間がかかるのが普通なのに」
「でも、他の皆だってやってるじゃん」
「そう見えるでしょうけど、実は貴族は自分の子供が優れていることを示すため、学園に入学する前に基本的な魔術は既に習得していることが慣例となってるの。私は民間の出自だから当時は特に疑問を持ったわ」
「でも、十五歳まで魔術って学んだらだめって言ってなかったっけ?」
「そうなのよね……本来なら情緒豊かになるはずの時期に魔術を学ぶとどこかが歪んでしまうのよ。彼女達の内面にもきっと何かが生じていると思うの。だから、彼女達が誤った選択をしていると思ったらナノ君が止めてあげて。間違っていることを間違っていると言える人間になってちょうだい」
「おう、任せとけ」
「頼もしいわね」
 シャノンは笑顔を浮かべた。こうして午前の授業は終わり、昼食を終えた後、午後の授業となる。そして、シャノンに徹底的に光と闇を生み出す練習を繰り返させられた。


四日目。電気魔術を学ぶ日。教壇に立つのはテスラ・ルピー。クーロン・ミリアの担当教師だ。
「今日は一日よろしくお願いします。電気魔術を教えるテスラ・ルピーです」
 丁寧に腰を折り、授業を始めるテスラ。
「電気とは水のように流れる不思議な物。皆さんにとって電気といえば静電気が一番身近でしょう。こんな寒い時期に指先にピリッと走るあれですね。音は聞けば分かる、光は見れば分かる。そして、電気は触れることで分かります。それも痛覚という形で認識されます。つまり、戦争時には目に見えない死神とも言えます。金属製の扉に帯電させれば開くと致命傷を負わせるトラップにもなれば金属鎧を着た戦士を電気によって昏倒させることもできます。しかし、電気は見えないからこそイメージが難しいかもしれません。ということで早速電気の性質を学習してもらいましょう。皆さん、手をつないで輪を作ってください」
 テスラのその言葉にテスラ以外の教師陣は嫌そうな顔をする。あれをやるんですか? とやや批難気味な声をシャノンが上げる。しかし、お構いなしにさぁさぁと促す。
「では、ナノ君。これを持ってもらえますか?」
 そう言ってナノはテスラから金属線を受け取る。
「では、シャノン先生。ここに触れてみてください」
 テスラは柔和な笑みを浮かべたままシャノンにナノが持っている金属線と同じ物を手渡す。
「電気とは流れるものです。どこかが途切れると流れません。そして、今の皆さんはがっちりと手を握って繋がっています。つまりこういうことです。Iléktrik/electric kə':rənt/current」
 直後、針に刺されたような痛みが手を貫き、全員が思わず手を離し床に突っ伏す。
「電気とはこういうものです」
 テスラは笑みを浮かべたまま授業を進めた。
「電気は魔術の分野の中では最も科学と相性が良いことも特徴の一つです。電気は灯りにもなれば熱にもなるという特徴があり、電気魔術は生活水準を上げたといっても過言ではありません。では、皆さんに電気魔術の基本であるチャージの魔術を練習してもらいましょう。この魔術は物体を帯電させることができ、触れれば電気が身体に流れ先程のように強い痛みを与えます。戦闘時には石を帯電させてから相手にぶつけることで無力化するといった使い方もできます」
 そして自習となる。シャノンとナノは二人で実際に電気魔術を使ってみる。
「さっきはビックリしたよね。ナノ君」
「あのビリッて来たのが電気なんだよなー。でもイマイチ分かんないんだよな。電気って何なのか」
「そうだね。たぶん魔術の基本五系統の中で一番イメージするのが難しいのが電気だと思うな」
「そうなのか?」
「私だって全部は分かってないんだよね。それでも少しでもイメージが現実に近ければなんとか魔術は発動するの。でも、イメージが無かったり、あまりにも現実離れしてると魔術は発動しないの。だから、何度も何度もイメージをして、どのイメージが現実に近いのか探る必要があるの。そうすると自然と分かってくるわ」
「そんなもんなのか」
「そうだよ。それでチャージの魔術の発音なんだけど、ʧɑ':rʤ/chargeが正しい発音だから間違えないでね」
「分かった」
 ナノは自分の中を駆け巡った電流をイメージした。
「ʧɑ':rʤ/charge」
「どうしたのナノくん!?」
 ナノの瑠璃色の髪が逆立っていた。重力に喧嘩を売るように逆立っていた。それは雄鳥が雌鳥にアピールをするように見事な逆立ち方だった。
「なんか、髪がおかしいんだけど、どうなってるんだ」
「ちょ、ちょっと待ってね。今から魔術をかけるけど抵抗しないでね。discharge/disʧɑ':rʤ」
 シャノンはナノに目掛けて放電の魔術を放つ。するとナノの髪は少し乱れたが、元に戻った。
「そっか。今のも電気のせいか」
「気を付けてね。自分を対象にして魔術をかけるは危険な場合もあるから」
「危険って?」
「例えば熱なんかを自分に向ければ一歩間違えれば蒸し焼きになるし、力の魔術だって面の力じゃなくて点の力で自分に向ければ致命傷になるし、とにかく不用意に魔術の対象を自分にしちゃだめだからね!」
「そっか。分かった」
 素直なナノはこの後、シャノンと一緒にチャージとディスチャージの反復で一日を終えた。


 五日目。熱魔術の日。教壇に立つのはケルビン・バーツ。パスカル・ピコの担当教師。橙色のローブが目に痛い。
「さぁ、今日は私が受け持つ熱魔術の授業よ」
 快活でルクスとはまた違った明るさを持つケルビンの授業だ。
「熱魔術はつまるところ熱するか冷やすの二択よ。単純だけど、それをどう使って面白い魔術に仕上げるかは貴女達次第よ。例えば鉄を熱すれば柔らかくなり更に熱すれば液体になる。逆に冷やせばある点を境に脆くなる。熱を与えるか奪うかは貴女達の思いのまま。雪山でも暖かく、砂漠でも涼しくいられる。環境の寒暖すら貴女達の詠唱一つで変えられるわ。hí:t /heat」
 ケルビンが詠唱することで室温は上がり、真夏のように暖かくも空気は湿気を帯びていなかった。
「こんな風に思いのまま。逆にこんなこともできるわ。kú:l/cool」
 するとたちまち室内は寒くなり、身体がガタガタと震えだした。
「こ、こんな風に、へ、部屋を寒く、できたり、できたりするの」
 ケルビン本人も寒がっている。
「hí:t /heat。とにかく、熱魔術の基本はヒートとクールよ。熱くするか暖かくするかというのは術者の匙加減だけど、制御が下手な人はwɔ':rm/warmの魔術を使えばこんな風に熱する上限が決められるから使ってみて。さぁ練習よ!」
 そう言って教師と学生のペアができる。
「なんていうか、ケルビンってどこか抜けてるよね」
「そ、そうかしら?」
 シャノンの目が泳いでいるところを見逃さないナノ。
「締まらないというか、様にならないというか」
「でも、ケルビン先生は立派な人よ。貴族出身なのに実力があるなら身分は関係ないといった考え方の持ち主。良くも悪くも能力主義なところがあるから、成績の悪い人に対してはあまり良い印象を持たないわね」
「へぇー、能力主義か」
「あと、ケルビン先生って昔、学生だった頃にゼプトさんに命を助けてもらったらしいの。それでゼプトさんのことが好きらしいの」
「え……」
 ナノは絶句した。あのゼプトを? と思わずにはいられなかった。
「それにゼプトさんってああ見えて、というか見た目通りがっちりした身体で昔は戦士として活躍していたなんて噂もあるの」
「あー、そういえばセイが男子寮に忍び込んだ時に追い払ったって言ってたっけ」
「やっぱり、ゼプトさんって強いのかしら? 実力は知らないんだけど、学園長がわざわざ傍に置いてるぐらいだし何かあるとは思ってるのよね」
「俺からしてみれば気のいいおっさんだな。料理は上手いけど」
「ゼプトさんが料理? そういえば、ゼプトさんを食堂で見かけなくなったと思ったら寮で自炊してるのね」
「美味いぜ。俺の母さんの次に」
 その言葉に反応したのがパスカルだった。
「私があの用務員のおじさんより下手だって言うの!?」
 食ってかかるパスカル。料理に関してはプライドを持ち、かつ負けず嫌いのパスカルは誰かと比べられ劣っているという評価されるのは気に食わない。
「パスカルの料理も確かに美味かったんだよ。美味かったんだけど、ゼプトの味付けが俺好みだったんだよ」
「なによそれ!」
「なんていうんだろ。……そうだ。味付けが母さんに似てるんだよ」
「ナノのお母さん? なんでおじさんの味付けとあんたのお母さんの味付けが似てるのよ」
「たぶん、パスカルがノギスの人間で母さんとゼプトがこっちの出身だからじゃないか?」
「そんなの納得できないわ……」
 料理の上手い下手ではなくナノの舌の好みというそれだけの理由でパスカルの料理よりもゼプトの料理が好みだというナノに対してイライラを募らせる。そんなパスカルの肩に手を当てて嗜めるケルビン。
「それならパスカルがナノの味の好みを知ればいいのよ」
「……そう……ね。よし、決めたわ」
 何かを決断したパスカル。ナノは嫌な予感しかしない。
「ナノ、あたしと一緒にノギスに来なさい」
 唐突な提案である。料理からどうしてノギスに来いという話になるのか。
「なんで俺がお前と一緒にノギスに行かなきゃいけないんだよ」
「ノギスでしか食べられない料理がたくさんあるの。ナノ好みのノギス料理を私が作ってあげるって言ってるんだからいいでしょ!」
「分かった」
 ナノにとっては非常に魅力的な提案だった。断る理由が何一つない。
「分かったって言ったわね? 首を洗って待ってなさい!」
 まるで決闘をするようであるが、美味い料理が食べられるなら口元は綺麗にしておくに越したことはない。そうナノは思った。
「さぁさぁ、授業と関係ない話しはそこまでよ。私の授業でイチャチヤしないの」
「イチャイチャなんかしてません!」
 ケルビンがパスカルをからかって授業を再開し始めた。二人共どこか抜けていて良いコンビといった感じでお似合いだとナノは印象を受けた。
「私達も演習をしましょう。ヒートとクールの反復をひたすらやるわ」
「オッス」
 気合を入れてナノも魔術を試みる。熱魔術は基本五系統の中で最も消費魔素が多いことが特徴だ。しかし、ナノはシャノンが課す反復の課題に対して息切れすることなく時間いっぱい応える。並の魔女ならば身体を維持する魔素すら手放しても使えない程の魔術の行使をナノが行っていることでシャノンは確信した。ナノの魔素は無尽蔵だということに。今はまだ放出する量が並の魔術師程度のため大事には至らないが、ナノが大成した時、世界のパワーバランスが崩れることをシャノンは予期していた。


 五日間の授業を乗り越えてナノはどの先生も癖のある人物であることが分かった。シャノンは異状な程にナノに反復を課し、デシベルは実戦向けの魔術の使い方をテラに高説し、ルクスはマイのことを溺愛しているのかべったりとくっついて嫌がられ、テスラはミリアの良い所と悪い所を見抜く眼力が凄く、ケルビンはパスカルと年の離れた喧嘩する程仲が良い姉妹といった具合だった。どの先生も善意的に授業を行っていたため、授業自体は苦痛ではない。
 そして、ナノはフォース、ストップ、サウンド、サイレント、ライト、ダーク、チャージ、ディスチャージ、ヒート、クールと基本的な魔術は一通り学ぶこともでき、使うこと自体もできるようなっていた。


 男子寮に戻るとセイが待っていた。寮の中は香ばしい匂いで満たされていた。
『おかえりなさい。マスター』
「ただいま。今日の晩飯はなんだ?」
『ゼプトが今日は良い豚肉が手に入ったから焼きそばだと言っていました』
 香ばしい匂いの正体は焼きそばのソースの香りだった。
「そっか。じゃあ上に荷物を置きに行くか」
 セイもどこかに出かけてきて帰ってきたばかりなのか服装は外出用のものだった。
『分かりました』
 一緒に二階へと上がり荷物を下ろす。セイは買い出しや事件の調査のためを度々街に行っていた。買ってくる物はゼプトから頼まれた食材や調味料や茶葉、それからかりんとう。お使いの駄賃として十エルグ分のかりんとう買えることが嬉しいようだ。最近では黒糖かりんとうから味噌かりんとうに切り替えたらしい。
 食後のお菓子にと大事そうにかりんとうを持ち出すセイ。
 一階に降りるとゼプトは皿から溢れそうな程の焼きそばを盛り付けていた。
「ほら、二人共さっさと手を洗ってこい。豚肉減らすぞ」
「あいよー」
 ナノとセイは仲良く洗面台で手を洗ってから食卓に着く。
 今日の献立は焼きそば。具材は焼きそば麺と小松菜、豚肉、もやし、人参だ。それらに芳しいソースを絡め艶やかに光っている。
「いただきます」
『いただきます』
 ナノとセイは両手を合わせ、焼きそばに箸を伸ばす。麺は良く解れており、カラッと焼かれている。麺を啜ればソースの香りが口一杯に広がり、噛めば噛むほど涎が出てくる。そして、豚肉はカリカリに焼かれており表面には脂がテカテカと光っている。食べてみれば豚肉本来の甘味とソースの甘辛い味が合わさり極上の風味を醸し出していた。輪切りにされた人参は程好く柔らかく火が通っており、火を通したときの人参の自然な甘味が良い。そして、火が通った小松菜はエグ味が少なく、口当たりがさっぱりとしていた。火が通ってなお食感が失われないもやしは麺を食べたときのアクセントとなる。
「旨いだろ? 豚肉は食堂のおばちゃんから貰ってきたもんだ。もやしやら人参やら小松菜は俺が育てたもんだぞ。しっかりと味わえよ」
「本当にゼプトが育てたやつなのか?」
「俺は剪定も任せられてるからな。勝手に家庭菜園の真似事をやってるんだよ」
「そうなのか。採れたてだから尚更美味いな」
 ナノは今宵の献立にご満悦だった。これならば明日の作戦もきっとうまくいく。ゲンを担いだナノだった。



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