(旧)十億分の一の魔女 ~ナノウィッチ~

田所舎人

7

 二人は気を取り直し、古着屋ガーメントでフォノンから商品を受け取り、セイはその場で着替えた。見た目には落ち着きのある少女さながらである。
「そういえば、セイはいくつなんだ?」
『今年で十六になりました』
 ナノの一つ上だった事実が発覚したわけだが、かといってナノはセイに対する呼称を改めることもなかった。
「少し喉が渇いたな。どっかで腰を下ろしてお茶でも飲もうぜ」
『かしこまりました』
 再びセイはナノの手を握り、喫茶店へと案内した。そこでは多くの人がお茶を楽しんだり、軽食をつまんだりしていた。店内に入ってみると茶葉の香りだけでなく、甘い香りも漂い、ナノはお腹を空かせた。二人は空いた席に腰掛け、ナノは店内の雰囲気を楽しんでいた。
「これが喫茶店か」
『はい。マスターは何をご注文なさいますか?』
「えーっと、とりあえず熱いお茶だな。セイも好きな物を頼んでいいからな」
『ありがとうございます』
 セイは手を上げると女性の店員が注文を受けた。そして二人は注文が届くまでこの後はどうするかと話し合っていると、店の奥にいる全身を黒い装いで覆う二人組の男女がナノの視界の隅に引っかかった。
 男の方は鍔広の黒い帽子を頭に乗せ、墨で染めたような黒く長い髪に細く切れ長の黒い瞳を持ち、背はナノより高く、やや筋肉質。特異な形状の柄を持つ武器を両腰に下げていた。
 その向かいに座る女は紫色の長い髪に冷めた新緑の瞳を持ち、身体のラインを強調するようなタイトな黒いローブを羽織っていた。見た目は魔女らしく、二人は戦士と魔女というパートナーの関係なのかもしれない。ナノはそう推測した。
 男の下に紅茶が運ばれ、男は角砂糖を紅茶に一個、二個、三個と次々に入れ、最終的には十個の角砂糖を投入し、かき混ぜた。余程の甘党なのだろう。女の方は何も入れず紅茶に口を付ける。
『どうかしましたか? マスター』
「いや、なんでもない」
 黒の男と目が合った気がしたが、気のせいだったのだろう。ナノ達二人もまた運ばれてきたお茶に手をつけた。ほっこりと温まるお茶で気を鎮め、軽食に頼んだハムタマゴサンドはさっぱりとした味付けでついつい手が伸びてしまう。
 二人が座っている席の近くで三人のおばさんが噂話に興じており、その話がナノとセイにも聞こえてきた。
 近頃、街中で悪質な悪戯が横行しているというもの。昼夜を問わず奇妙な音楽と共に奇妙な格好をした人物が現れ、相手を気絶させては真っ赤な塗料をぶちまけて胸に短剣の柄だけを突き立てて去るという。それを発見した人間はあたかも殺人現場を目撃したと錯覚してしまうが、本人は生きているというもの。その奇妙な格好をした人物の目撃例は多数あるものの、奇妙な格好が目立つあまり、その下の素顔に関する報告が一切無いとのこと。
『奇妙な話ですね』
「奇妙な音楽かー。テラのあれとは違うんだろうな」
『ソーン・テラの音楽を奇妙と形容するのは違うと思います』
「だよなー」
 それでもナノの主観から見れば気持ちをざわめかせる音楽を奇妙と言えば奇妙と言えるし、人気のない場所に向かっていたテラ、そしてテラと一緒にいた誰か。その存在がまた気にかかった。あの二人の会話の内容も十分に理解できた訳ではない。それがもしもこの事件になんらかの関与があるとするならば……。
 珍しく険しい表情を浮かべるナノに対してセイは言葉をあえてかけなかった。






 その後、二人は市場で買い物をして学園に戻った。ナノが気に入った茶葉やセイが物欲しそうに見ていたかりんとう、肉切り包丁や薪割り用の斧を手入れするための砥石やナノ、セイ、ゼプトのそれぞれに見合う食器セットを占めて一八○エルグで購入して馬車で再び二人分の乗車賃の渡し乗り込む。今度はテラと同じ馬車ではなかった。他の同乗者の四人はナノとセイの二人をジロジロと見ては「あれってナノ君よね?」「そうそう、噂の」「彼ってミリアさんと付き合ってるんじゃ?」「私はパスカルさんと付き合ってるって聞いたわ」「隣の子は誰だろう?」「もしかして、あの二人とは遊びだったのかしら?」「小さな少女が趣味だと聞いたことがあるけど本当だったのね」等と言われていた。隣に座るセイは他の学生から見れば寡黙で利発そうでナノに従順な召使のようにも見えれば、ナノが心を許す親しい友人にも見えた。
 そしてセイに向けられる視線は車内からだけではなく、並列する他の車からも向けられていた。
 やがて馬車は動き出す。数十分の後、学園に戻りナノとセイは男子寮に向かった。
 男子寮の中からは女性の声がする。どうやらゼプト以外にも誰かいるらしい。
「ただいま。ゼプト」
 扉を開けると香ばしい匂いと煙で部屋を満たしていた。
「どうしたんだろ」
『火事ではなさそうですね』
 二人がそんなやり取りをしているとキッチンからゼプトがひょいと顔を覗かせた。
「二人ともお帰り、夕食は今準備してるところだから待ってろ」
「おじさん、お酒はどこ!」
「今出すよ」
 そういってゼプトは再びキッチンへと戻る。ナノは荷物を下ろそうと居間に向かう際、ちらりとキッチンを覗き込むと、中では赤毛の少女がやたらとでかい鍋を火力限界まで引き上げその辣腕を振るっていた。
「何やってんだ、パスカル」
「帰ってきたわね。約束通りあたしの手料理を食べさせてあげようとしてるのよ!」
 料理をしているパスカルは嬉々としており、どこか狂気じみていた。鍋を振るうことが何よりも楽しいといった雰囲気だ。
「パスカルのお嬢ちゃんが急にやってきて『厨房を貸しなさい』って言ってきたんだよ」
「ああ、そういうこと」
『料理というとあの決闘の約束のことですか?』
「ああ、よく知ってるな」
『私も見てました』
「なるほどね」
 そんなやり取りをする三人、そしてパスカルはちらりとセイのことを見るが、何も言わず再び鍋に向かい合う。
「俺はパスカルの嬢ちゃんの手伝いをしているから二人は街で買ってきたものを置いてこい」
「そうだな。砥石は倉庫に置いておくとして、セイは手でも洗って待ってろ」
『かしこまりました』
 ナノは倉庫に砥石を置くため外に出て、セイは暖かい水で手を洗う。
「セイ」
『なんでしょうか? ゼプト』
「可愛らしい服を買ってもらったじゃねぇか。良かったな」
 ゼプトに真っ直ぐに褒められたセイの白い頬には朱が差した。セイはつい顔を背け、
『ありがとうございます』
 やや崩れた文字だけで応えた。


 ナノとセイとゼプトとパスカルの四人が席につき卓を囲む。卓上にはナノやセイが今まで見たことがないような美味しそうに盛り付けがされた料理が所狭しと並べられており、そのどれもがパスカルの料理の腕前を誇示するようなものだった。
「いただきます」
 パスカルのワクワクとした視線を受けながらナノは初めに目の前にある野菜炒めに手をつけてみた。旨みを十全に活かした牛肉、飴色になるまで炒められた甘い玉葱、よく火が通った癖になる苦味のピーマン、歯応えが損なわれていないしゃきしゃきのもやし。そこにパスカル独自のタレを掛けた一品はそれぞれの良い部分を損なうことなく調和をもたらし、辛味がピリリと利き、このひと皿だけでご飯がいくらでも進みそうだった。
『では、私も』
 セイが料理に手を伸ばそうとすると、パスカルはセイの箸を静止させた。
「この料理はあくまで決闘に負けたあたしがナノのために作った物よ。あなたが食べるためじゃないわ」
「そんな細かいことは気にするなよ」
 そういってナノはピーマンと肉を箸で挟みセイの口元に運び食べるよう促す。ぱくり。
『美味しいです』
「……」
 パスカルは意地悪く食べるなと言ったにも関わらず、素直にセイに美味しいと言われてはパスカルも無碍にはできない。それが本当に美味しそうに笑みを浮かべて言われたなら尚更だ。
「さてと、俺もご相伴に与ろうか」
 今度はゼプトが箸を伸ばすが、パスカルは止めなかった。
「これは美味いな。長年生きてきたが、ここまで美味い料理は指折り数える程しかいないぞ」
 料理が上手で年長者のゼプトが断言する以上は確かな評価なのだろう。パスカルは嬉しそうに頬を染めながらその豊かな胸をえへんと張った。
 食後、皿洗いはゼプトが引き受けたためナノ、セイ、パスカルの三人で食後のお茶を楽しんでいた。
「ナノ、ずっと気になってたんだけどその子は?」
「セイだよ。昨日からこの男子寮に滞在することになったんだ」
『初めまして、セイです。パスカル・ピコ』
「あら、あたしのこと知ってるんだ」
『はい。マスターの周囲を調べていた折、知りました』
「あたしはついでってわけか」
「セイは俺の暗殺の依頼を受けてて紆余曲折あって俺に仕えることになったんだ」
「……まぁいいわ。その紆余曲折ってのがどんなものか知らないけど、従者に愛想を尽かされないようにしなさい。それと約束は果たしたわ。決闘の再戦をいずれ申し込むから覚悟しておいて頂戴」
 そう言ってパスカルはお茶を一息に飲み干し、ごちそうさまと口にし男子寮を出て行った。






 翌日。朝食を終えたナノの下に荷物を持ったシャノンがやってきた。
「ナノ君のためのローブと替えの杖が届いたから渡すわね」
 シャノンがナノに手渡したのは紺青のローブと新しい杖だった。
「ありがとう」
「いいのよ。それと、壊れた方の杖なんだけど、どうやらパスカルさんとの決闘の時に傷んだ可能性が高いの」
「ああ、決闘の時か」
 全身を高熱で蒸し焼きにされたことを思い出す。
「その時に杖の一部が傷んでいた可能性があるわ。そこで魔術を使おうとして一気に破損したという話よ」
「そういうことになるのか」
「だからナノ君自身には問題はないはずよ。少し外で試してみましょう」
 そう言ってシャノンは外に出て、ナノは紺青のローブを身につけてからそのあとに続いた。そして、ナノは手頃な石を見繕って魔術を試してみた。
「fɔ':rs/force」
 ナノは正確に強く念じ唱えた。石は地表を削りながら水平方向にゴリゴリと進んだ。
「おお! 動いた」
「やったわね!」
 石が抉った一条の地面の窪みはナノが起こした小さな魔術が確かに発動したことを物語っていた。
「これでナノ君も今日からきちんと魔術の授業をしっかりと勉強できるわ」
「おう! 今日も頑張るぜ」
 二人は授業が行われる教室に向かった。
 教室には既に既定の八人が集まっており、最後に現れたのがナノ達二人組だ。ナノは一昨日と同じようにミリアの隣に座る。座る際、テラは諦観をパスカルはライバル意識を眼に宿しており、今日も一日大変そうだとナノは思わされた。
 デシベルが教壇に立つ。
「今日は一般教養や魔術について基本的なことを学んでいくわ。魔術とは何か、魔素とは何か。既に知っている者もいるが、本来ならば魔術は十五歳から学び始めることが慣例となっている。理由は分かるかしら? ソーン・テラ」
 名指しされたテラは凛として立ち上がり答える。
「例えば小さな子供にナイフを持たせると危険なように正しい判断ができないうちから力を与えるとその使い方を誤ってしまう可能性が大いにあるからです」
「そうですね。魔術を学ぶには幼少期よりも青年期が正しいとされています。それでも魔術を正しく使わない者がいる。そんな存在をなんと呼ぶか分かりますか? カンデラ・マイ」
 マイはのっそりと立ち上がりゆっくりと答えた。
「……Vice(悪い) Witch(魔女)。……通称はVitchヴィッチ
「そう。ヴィッチは魔術を悪事に用いて時には人に危害を加え、時には奇蹟を騙り人を騙す者。ここでいう奇蹟とは何を指すか分かりますか? クーロン・ミリア」
 ミリアは慌てた調子で立ち上がり答える。
「えーっと、魔術や科学では実現できない神と神子だけが起こせる現象のことだったかな」
「合ってるので疑問形ではなく断定してください。奇蹟とは神と奇蹟種である神子が起こせる現象です。例えば命を創造したり、魂を捕らえたり、時空を操ったりすることを言います。さて、奇蹟種という言葉が出てきましたが他にどのような種が存在するか答えられますか? パスカル・ピコ」
 パスカルは堂々と立ち上がり答える。
「まず、あたし達のような普通種。その次が普通種から稀に生まれる先天的な不老長寿種、一般的には長寿種。長寿種はどの生物にも誕生し、動物の中にも長寿種が生まれ、そのような存在は人間と同等かそれ以上の知恵を持ちます。三番目が動物の中から生まれた長寿種と人間とが交わって生まれた混血種。先天的に動物の肉体的長所を内包していることが特徴です」
「その通り、犬や猫といった存在は普通種であり、人間もこの中に含まれます。そしてそのような普通種から稀に生まれるのが長寿種。長寿種は普通種と同じように老化するが、ある程度の年齢になると老化が止まることが特徴です。見た目が二十歳かと思えば実年齢が八百歳といった存在が長寿種になりますね。そして混血種は長い年月を過ごした上で知性を獲得した動物が他の長寿種または人間と交わることで生まれる存在。犬の嗅覚を持った人間や猫の瞳を持った人間がここに当てはまるわ。最後は奇蹟種。奇蹟種は神が創り出した存在であり、生殖活動は一切せず長寿種と同様、老化をしない。奇蹟種の例を挙げられるか? ナノ」
 ナノは思い出しながら立ち上がり答える。
「確か天皇・人皇・地皇の三皇」
「そう。三皇は二六○○年以上も前から存在する奇蹟種である。決して折れず曲がらず朽ちない通貨を生み出したり、魔素を生み出したり、神の眼となり世界各地を回っていると言われている。他にも審判と呼ばれる罪を暴きと罰を与える奇蹟種も存在する。ここまでで何か質問はないかしら?」
「はい」
 ナノが手を挙げた。
「なんでしょうか? ナノ」
「二六○○って言えば今年の東暦が二六一四年だったけど、それと関係ある?」
「そうですね。そのことについても触れましょう。約二六○○年前、審判が奇蹟の力で一人の少女の罪を暴き、罰を与えました。少女は冤罪を主張したが審判の奇蹟の力は絶対のためその主張が聞き入れられませんでした。そのことについてある青年が異議を唱えたんです。証拠も無いのにどうして裁くことができるのかと。そんな些細な出来事が切っ掛けとなり神に対して疑問を持つ者が現れだしました。彼らは徐々に大きな集団となりクラウンと名乗りました。なぜクラウンと名乗るのかは分かりませんが、神の冠を奪うという意味だとか重税に苦しめられた者が王を倒すという意味だとか様々な解釈があります。そういった彼らは神の意思が宿る三皇の一人、天皇を捕らえ殺そうとしたのです。それを防ぐため多くの戦が行われました。長い激戦のため多くの魔術使いが倒れ、徴兵から逃れようとした魔術使いが研究資料を持ち出して失踪し、魔術文明は大きく後退しました。このとき魔術を使える男性がいなくなったのは何故か分かりますか? ソーン・テラ」
「魔女はより強い魔力を持つ子供を産むため国に残り、魔術師は戦場に向かう。そんな政策が始まった頃、魔力を持つ男の子が徐々に生まれなくなったと言われています」
「そうですね。それは神の意思によるものかクラウンによる工作なのか今ではもう分かりません。しかし、約二六○○年ぶりに生まれた魔力を持つ男性、それがナノということになります。そして二六一四年前が戦争が終焉された年です」
「へぇ」
 たいそうな話を聞いたナノの感想といえば二六○○年といえば二六○○回も秋が来るんだからたくさん米が収穫できる程度のものだった。そして、クラウンという名前をどこかで聞いた気がした。
「戦争の話のついでに魔女のパートナーである戦士についてもお話しましょう。戦士とは屈強な肉体を持ち、鍛え続けた者の肉体は鉄よりも硬くなり、どのような衝撃や電撃、光線を浴びても無傷でいられると言われています」
「その戦士ってのは強いのか?」
「強いですよ。戦士は肉体的な強靭さだけではなく武器の扱いにも長けており、魔女は彼らに守られることが常とも言えるでしょう。剣や槍、斧や弓、ダガーから素手までどんな武器でも使います。そして、君達もまた戦士と共に戦います。来週にはレスリックに到着するそうです。男性が四人、女性が一人と学園長から聞きました」
「ってことは、こっちと反対なのか」
「そうですね。パートナーは貴女達の相性で選んでいいのですが、ナノは女性のパートナーになるかもしれません」
「そういうことになるかな」
「女性は肉体の屈強さには男性に劣る傾向がありますが、靭やかで柔軟な肉体であるとも言えます。それに打たれ弱いならばそれを補うのもまた魔女たる私達の仕事でもあります」
「……そういえば、そいつらがこっちに来たらどこに住むんだ?」
「去年までは街に滞在してもらい、必要があるときにだけ同行するという慣例だったのですが、今では学園内に男子寮がある以上、戦士の皆さんには男子寮に滞在してもらう予定です」
 また居住者が増えるのかとナノは思うしかなかった。
「学園長から男子寮には既に女性が一人住んでいるとも聞きました。だったら女性も含めた戦士五名を男子寮に入れてしまえという決定を学園長が下しました」
 その発言によりナノとシャノンとパスカルとデシベル以外の全員が驚いた。
「ナノ、それってどういうことなの!?」
 隣に座るミリアが目を皿のように丸くして尋ね、ミリア越しに見えるマイもまた目を丸くしていた。振り向けばテラもまた目を丸くし、パスカルは嫌な笑みを浮かべていた。教師陣の視線もまたナノに注がれる。ルビンは少しはしたなく口を開け、ルクスは面白い話を聞いたと笑い、テスラは微笑ましいといった表情を浮かべた。
「マイは覚えてるだろ、一昨日の屋上の女の子。セイって名前なんだけどそいつが俺に仕えるとかなんとかで滞在してんだよ」
「……あの暗殺者ですか」
 マイの呟きが更にナノとマイとパスカルを除いた全員が驚く。デシベルもシャノンもそのような話を聞かされていなかったからだ。
「暗殺者がナノ君を殺しに来たというんですか?」
 シャノンが確認するため改めて訊く。
「ああ、セイがそう言ってた。クラウンっていう組織に依頼されたって……ああ、クラウンって聞いたことあると思ったらそのクラウンか」
「クラウンがまた活動しているのか!?」
 いつも冷静なデシベルが珍しく大きな声を上げる。
「でも、クラウンが活動してたのって二六○○年も前だろ? 別の組織じゃないのか」
 そんな途方もない昔のことなんて想像もできないナノはそう言うが、シャノンが補足する。
「ナノ君、クラウンが大きな集団になったってデシベル先生が話したわよね? その中には長寿種もいて完全に根絶やしているとは言えないの」
「……クラウンが再び集まれば、周辺諸国と同盟を組んでいない独立国は滅ぼされると言われる程度には恐ろしい存在」
 マイもまたクラウンについての知識は持っているようだ。
「お父様もクラウンの動向に関しては危惧していましたわ」
「そういえば、街で変な噂を聞いたな」
「変な噂?」
 ナノの呟きにミリアが聞き返す。
「奇妙な音楽と共に奇妙な格好をした人物が現れて悪戯をするって話」
「その話は私も聞いたけど、クラウンが悪戯なんてするのかしら?」
 テラもまたその話を街で聞いていたようだ。
「クラウンは烏合の衆ということで集団としての行動理念が読めないの。ただ馬鹿騒ぎがしたいって人もいれば権力者が気に食わないって人もいればクラウンを利用しようとする人もいるそうよ。百年の平和と百個の爆弾のどちらが手に入るかと問われれば迷わず百個の爆弾を選ぶような連中といえば分かるかしら」
 シャノンが独特の例え話をするがその意味合いは概ね分かる。
「今ではクラウンも分裂して神を殺すなんて当初の野望を抱いている輩はもういないかもしれないわね」
 ルクスが現在のクラウンについて話す。
「とにかくそのセイちゃんという子に詳しい話を聞かないことには分からないことが多いんじゃないかしら?」
 そうテスラが提案する。
「そうだな。セイなら家でかりんとうでも食ってるだろ」
 そう思いナノは席を立った。



「(旧)十億分の一の魔女 ~ナノウィッチ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く