異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第8節

 アマテラス本部は湾岸部に位置し、そこから徒歩圏内に能力者や職員用のマンションがある。総階数は五十二階で山口さんの説明によれば、暗黙の了解で上の階であるほど重要な職務を担っている。また、上の階ほど部屋が広々としているらしい。簡単に言えば下層部がビジネスホテルとすれば上層部がスイートホテルみたいなニュアンスらしい。
 大多数の職員と比較的平凡な能力者は二十九階以下に位置し、三十一階以上の階層は非凡な能力者やその能力者付きの職員に与えられる。
 俺とシルヴィに与えられた部屋の階層は三十九階。位置付けとしては非凡だそうだ。四十階以上ともなれば実績に優れた能力者にあてがわれるが、それだけの評価を受けてる人間はそれなりの報酬を貰っており、わざわざマンションのような集合住宅に住む人間も限られるため、半分程は空き部屋になっているらしい。勿体ない話だ。
 マンションに着き、マンションの出入りに関する細々とした説明を聞き流し、エレベーターで三十九階へ上がる。驚いたことにエレベーターが四つもあるのだ。内一つは家具類を運ぶための専用エレベーターだが、それを除いても三つもエレベータがあるのはちょっとしたカルチャーショックだった。
 少しばかり面喰いながら、山口さんの案内で角部屋に通される。どうやら鍵は予め持っていたようで山口さんがそのまま開錠した。

「部屋の間取りは3LDK。個室の方は広い方から順に黒の剣士さん、ポリグラフさん、そして私ですね」

「……ん?」

 当たり前のように山口さんが自分もここに住むという意図でそう口にした。

「待ってください。えーっと……担当者って別に部屋を用意してもらえるんじゃ……」

「普通だったらそうなんだけど、黒の剣士さんって自炊してないでしょう? その代わり、ポリグラフさんが身の回りの世話をしているみたいだけど、そのポリグラフさんだって私が担当するんだもの。基本的な身の回りの世話は私に任せて頂戴」

「……え。担当者ってそんな付き人みたいな役割なんですか?」

「全員がそうではないわ。データ採取さえできればあとは放任って担当もいるし、まるで恋人みたいに接する担当もいるわ。そこらへんは班長の許可がある範囲内で担当に裁量が任されてるの」

「……つまり、えーっと……山口さんが自主的に俺達と一緒に住むってことですか?」

「言い換えればそうなるわね。大丈夫、報告書にも目を通したけれど黒の剣士さんは間違いを犯すような人じゃないって信用しているわ」

 山口さんはそう言って部屋に入る。一体、あの報告書にはどんな風に俺が描かれているのだろうか。傍から見れば幼い少女達を連れ歩く犯罪者じゃなかろうか。
 まさか!? 俺が少女趣味だから年上の山口さんは狙われないという論法で安全という意味なのか!?

「いや……でも……」

 俺が持つエロゲのジャンルは多岐に亘るが、比較的幼い容姿のキャラは多い。それまでが報告書に描かれていたとしたら、俺の性癖は全て高宮や山口さん、そしてそれを書いた水城にばれてしまっていることになる。もし、そんなことになったら俺自身を殺すか、世界を殺すしかない。

「玄関に立たれると私が入れないんだけど」

 若干非難めいたシルヴィに声で邪魔になっていたことに気が付き、慌てて靴を脱いで中に入る。
 短い廊下の先にある扉を開き、中に入って室内を見渡すと内装はいたってシンプルであり、一通りの家電や家具は揃っている。レイアウト上、必ずリビングを通る形になっているようだ。

「一番奥が黒の剣士さんのお部屋、その向かいがポリグラフちゃんのお部屋。私はポリグラフちゃんの隣の部屋ね。お手洗いはこっちで洗面所はそっちよ」

 そういいながら、新居のレイアウトを簡単に紹介してくれた。

「……ここって家賃どれぐらいなんですか?」

 勝手に割り当てられた以上、家賃は請求されないだろうがどれぐらいの物件なのかは気になった。

「そうね。私もきちんと調べたことは無いけれど、立地とこの間取りなら賃料で言えば月で二十万は超えるんじゃないかしら」

「に、二十ですか……」

「あら、二十ぐらいで驚くの? 黒の剣士さんがその気になればこのマンションそのものを買い取る事だってできるのに。ウフフ」

 山口さんはそう言って笑った。
 そう言われれば確かにその通りなのだが、身近でない物品を買う時は金銭感覚が麻痺するが、身近な物だと元の金銭感覚に戻る。
 俺が戸惑う傍らで山口さんは白衣を脱いで椅子の背もたれに掛ける。
 
「二人共、座ってちょうだい。今、飲み物を用意するわ。お茶とソフトドリンクがあるけど、どっちがいいかしら?」

「俺はお茶で。シルヴィは?」

「私は何でもいいわ」

 俺とシルヴィはテーブルに着く。飲み物が既にあるという事は山口さんが既に一度、ここに物を運び入れたことがあるということだろう。

「あら、黒の剣士さんって普段はポリグラフちゃんの事を名前呼びなのね」

 山口さんは冷蔵庫の中からペットボトルのお茶と小振りのプラスチック容器のヤフルトを取り出した。
 事務所や本部みたいな場所ならコードネームを使う事を意識していたが、こういった私的空間だとつい油断していた。

「まぁ……そうですね」

「そう固くならなくてもいいわ。ここなら他の人の耳目があるわけじゃないし、無理してコードネームを使う必要は無いもの。神崎君」

 プラスチックのコップにお茶を注ぎ、ヤフルトのフタを剥いでこちらに戻ってきた。
 俺は遠慮なくそのお茶に口を付け、シルヴィもヤフルトに口を付けてチビチビと可愛く飲み、山口さんも同じように思ったのか、微笑んでヤフルトを飲む。
 ふと、そのヤフルトに何か引っかかるものを感じた。目の前のヤフルト自体にではなく、ヤフルトをきっかけとした自分の記憶について。しかも、それを山口さんが飲むことでだ。
 ここ最近、買った記憶も飲んだ記憶も無い事からアニメや漫画、創作で見た記憶なのかすぐには思い出せない程の昔の記憶か。

 あとは男女で住む以上の簡単な取り決めや地元に置いてきた家具類の移動や処分の段取り決めをし、山口さんは一度本部へ戻った。その際、山口さんは俺達に出かけるならきちんと鍵をかけるようにと言って合鍵を俺とシルヴィに渡した。
 しかし、俺もシルヴィも出かける気も無く、部屋に戻って休むことにした。

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く