異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第6節

 山口と名乗った女性に俺は言葉を紡ぐことなく軽く会釈をした。

「失礼しますね」

 山口は俺とシルヴィに微笑みかけながら、俺から見てシルヴィを挟んだ反対側に座った。
 これだけ広い会議室に何脚もある椅子。なのに俺、シルヴィ、山口と並んで座っていた。

「貴女。高宮の部下?」

 シルヴィが真っ先に山口に問い質したのは所属だった。

「ええ。高宮班長の部下で間違いないわ」

 山口は笑って答え、シルヴィは俺の顔を見て軽く頷いた。その所作は彼女が嘘を吐いていないという証明だった。
 
「えーっと、山口さんは高宮さんに言われてきたんですか?」

「そうよ。手が空いてるなら、早めに顔合わせをすると良いって言われてね」

「早めに?」

「高宮班長も色々と仕事を抱えていてね。高宮班長が頭脳なら私達は手足。だから、黒の剣士さんとポリグラフちゃんの担当は私がすることになったの」

「学校なら担任の先生、病院なら担当の看護師みたいな?」

「そうね。そのニュアンスが近いかもしれないわね」

 うふふと笑う山口にシルヴィが更に質問を投げかける。

「貴女は私達以外に担当する能力者は居ないんですね?」

「ええ。つい先月、私が担当していた方が地方に勤務する事になったの。そこで手が空いた私が貴女達の担当することになったのよ。基本的には担当が受け持つ能力者は一人だけなんだけれど、二人一組のような能力者や貴女達のような訳有りの方は二人一緒に担当する事もあるのよ」

 シルヴィの所作から察するに特に嘘を吐いている様子はないようだ。

「ってことは、ポリグラフも山田さんの管轄ってことですか?」

「ええ。高宮班長からはそう言われているわ。最初に写真を見せてもらった時、驚いちゃったんだから。こんな綺麗な子がいるんだなって」

 山田はそう言いながらシルヴィを見た。確かにシルヴィは北欧の出身で日本人にはない美しさがある。向こうの世界で西洋系の顔立ちに慣れていなければ、インパクトは更にあったことだろう。

「それに君もね。あのヘラクレスを倒した能力者って聞いて、どんな人だろうって思ったら思った以上に可愛い顔をしているし、報告書を見れば面白い子だなって思ったの」

「……」

 自分が童顔であることは認めるが、面と向かって可愛いと言われるとどんな顔をすればいいか分からない。

「……どんな所が面白かったですか? やっぱり向こうの世界の話ですか?」

「そうね。あの猫さんが纏めてくれた報告書は高宮班長も言っていたけど、まるでファンタジー小説みたいね。同僚は最近流行りの成り上がり物のライトノベルみたいだって言っていたわ」

 そう言って笑う山田さん。しかし、その笑いも次第に小さくなって真面目な顔をする。

「でも、本当に命を賭けた戦いをしたことは知っているわ。それも二度。向こうの世界で魔王と呼ばれる存在との戦いと、ヘラクレスとの戦い。どちらも運が悪ければ死んでいた。……別に責める気はないの。それで救われた人達はいるんだから。ただ、貴方は独りで抱え込む性格のようだから心配なの。他の人に頼ろうとしないから。そういう人はいつか必ず折れるわ……」

「……」

 似たようなことを水城にも言われた。きっと、水城の報告書にはそう言った事が書かれていたんだろう。しかし、初対面の女性にまさかここまで心配されるとは思わなかった。所詮はお役所仕事。もっとドライで事務的な対応を期待していた。

「高宮班長からは黒の剣士さんが望まないなら過干渉はするなと釘を刺されているから、あまり強くは言えないけれど今日から私は貴方の担当になるから、言うべきことは言わなきゃいけないと思うの。だから……ね。自分をもっと大事にして」

「……はい」

 山田さんの言う言葉にはどこか重みがあった。

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