異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第4節

 ゲートを抜けるとクロックルームに出た。

「これがお前の上位能力か」

 ブラッドはクロックルームに入るのは初めてだったか。

「はい。今までは俺一人しか移動できなかったんですけど、いつの間にかこの部屋に来ることができるようになったんですよ」

「……そうか。……そっちの壁の窓みたいな奴があっちの世界に繋がってんのか?」

「そうですよ。ただ、向こうに行けるのは俺と俺の能力をコピーした猫だけです」

 ざっと見た感じ、ハリソンはまだ目覚めていないようだ。アイリとロージーは部屋に居ないため食事か買い物に行っているんだろう。ジェイドとアンバーはせっせと書類仕事をしているようで、俺の指示をきちんと聞いているらしい。フランはどのゲートからも見えないから訓練でもしているのだろう。

「えーっと、本部へのゲートは……これかな」

 見たことがない室内を映したゲートの前に立つ。人影は無いようだ。
 木目調の壁、床はカーペット、漆塗りの木製のテーブルと黒革のソファー。
 俺達が使っている事務所とはまるで違い、ビジネス用の部屋といった印象を受けた。

「それじゃあ行きます」

 全員が付いてきていることを確認してからゲートをくぐる。
 部屋に入って最初に感じたのは清掃が行き届いた独特な臭い。そして、若干の気圧差による違和感。

「皆、大丈夫?」

 このゲートを使う際の気圧差による体調の変化はあまり気持ちのいいものではない。俺はそこまで顕著な体調の変化こそないが、俺は慣れているからだろうし、能力による副作用という物も影響しているのかもしれない。

「ああ、平気だ」

 ブラッドは特に体調の変化はないらしい。もしかしたら、血流操作なりで気圧差の変化を瞬時に感じて調整してしまったのかもしれない。

「ポーちゃんとクロちゃんも大丈夫?」

「……平気」

 ポーちゃんこと、シルヴィは平気そうだ。

「……はい、大丈夫です」

 クロちゃんの方は若干顔色が悪い。

「クロちゃん。きついなら、休む?」

「本当に大丈夫ですから……。ちょっと立ちくらみがしただけなので」

「なら、いいけど……」

「とりあえず、座らせてやれや。猫、もう呼んできていいぞ」

 ブラッドの言うとおり、クロちゃんを席に座らせて俺達もそれぞれ席に着く。水城はそのまま部屋を出て誰かを呼びに行った。そして、一分もしないうちに猫は眼鏡をかけた白衣の男を連れて戻ってきた。

「待たせてしまってすみません」

 背が高く、腰の低い男は大量の資料を片手にやってきた。

「久しぶりですね。高宮さん」

「ああ、ブラッド君。お久しぶりですね」

 高宮と呼ばれた男は笑みを浮かべてブラッドに会釈をした。

「ブラッドさん、知り合いなんですか?」

「個人的な親交があるわけじゃないが……例えるなら俺が生徒で高宮さんが保険医みたいな所だ。高宮さんはアマテラスの能力者の研究機関に所属している研究員なんだ」

「研究員?」

「はい、そうです。私自身は能力者じゃないので、コードナンバーやコードネームは無いので本名ですが、アマテラスに所属する構成員の一人ですよ。えーっと……」

 そう言いながら高宮は手元にあった資料をテーブルに広げて、少し探してから目的の一枚を取り出す。

「コードナンバー10023、コードネーム『黒の剣士』、通称は『ニーサン』。改めて初めまして。私は特殊能力研究開発局開発部所属の高宮です」

「初めまして」

 高宮に対して軽く会釈を返す。
 そして高宮は再び資料の中から一枚を取り出す。

「そちらがコードナンバー9653、通称は『クロ』さん。初めまして」

「初めまして」

「それからそちらが、仮称『ポリグラフ』さんですね。初めまして」

「……どうも」

「高宮さん、クロは同席させていいんですか?」

「そうですね……このまま同席していただきましょう。クロさんはこのまま本部に転籍する上で色々な話を聞いた方がいいでしょうから」

「分かった。それと、一応聞いておくけどニーサンの転籍先は高宮さんの所ってことでいいんですよね?」

「ええ。こう見えて、出世しましたから今では班長。君の言うところのチームリーダーになりましたから」

「まぁ高宮さんはら遅かれ早かれそうなるとは思ってましたよ」

「お世辞が上手いですね」

 高宮はそう笑いながら、壁に掛けてある電話機に手を掛けた。

「何か飲み物を用意させましょう。ソフトドリンクなら一通りありますよ」

 まるでカラオケのドリンクサービスのようだ。

「全員緑茶でいいです。それより本題に入りましょう」

「ブラッド君はせっかちですね」

 高宮は笑いながら人数分のお茶を頼んで席に着いた。

「そうですね……まず、何も知らされていない人が大半だと思いますので事の経緯から話しましょう」

 高宮はそう言って複数枚の束になった資料を取り出した。

「事の始まりはヘラクレス事件の報告書が回ってきたことが始まりだったんです」

「ヘラクレス事件ってあの?」

「ええ。ヘラクレスは本部の方でもマークしていた危険人物の一人だったのですが、こちらの調査網を掻い潜り、貴方がたに接触したと」

 そういえば、ヘラクレスの仲間に結界使いが居たか。そいつが調査員達の目を欺いていたんだろう。

「その報告書の中で特異な点が数箇所ありました。その中でも私が一番目を引いたのは異世界の存在でした。その報告書に目を通した直後、上の人たちに無理を言ってニーサンをこちらに呼び寄せる手筈となったわけです」

「ってことは、俺がこっちに転籍するのは高宮さんの舌先一つってことですか?」

 高宮の説明を聞いて、文句の一つも言いたくなる。見ず知らずの他人からちょっと来いと言われて、所属をころころと変えられたとあっては腹も立つ。

「その件は本当に申し訳ないと思っています。部長からもこの件に関しては各方面から苦情が来ていると注意を受けました」

「……」

 各方面からの苦情の中にはブラッドの物も含まれているのだろう。

「……まぁいいや。話を続けてください」

「はい。その手筈を整えている間にも猫さんから送られてくる報告書には目を通していました。まるで創作世界の設定資料集の様で童心に返りながら読ませていただきました。そして、それと同時に汚い大人の言葉で選ばずに言うなら宝の山だと思いました」

「まぁ実際、大量の宝石を放流して資金を荒稼ぎしましたからね」

「そうですね。実際、あれだけの量の宝石を換金するのは大変骨が折れたとの報告書にも目を通しています。……そうですね……すみませんが、この場でその宝石を出すことはできますか?」

「いいですよ」

 魔力を吸い出しきった俺にとっては無価値に近い石を手の平の上に出す。

「なるほど……確かに報告書にあった通りですね。そして、この宝石が魔族の核なんですね」

 高宮の口から魔族という言葉を聞いて真っ先に猫の顔を見た。

「猫、そこらへんまで報告書に書いてるのか?」

「だって、それが私の仕事だもん」

「……まぁそりゃそうか」

 別に隠すことでもないし、それを知られたからといって高宮が向こうの世界に干渉できるはずもない。

「ちなみにあとどれぐらいの貯蓄があるんですか?」

「まだまだありますよ。種類を選ばなければこのテーブルを埋めれるぐらいには」

 俺の身体は既に異世界の物質で構成されており、魔力を必要とする。こっちの世界では魔力の補給はできないため、向こうの世界ではこつこつと魔石集めもしていた。ジェイドやアンバーの仕事の中にも魔石の収集は優先順位を高く設定している。

「分かりました」

 高宮は俺の情報が書かれていた資料に何かを書き込んでいく。

「そうえいば、俺からも質問いいですか?」

「なんでしょう?」

「特殊能力研究開発局ってなんなんですか?」

 これから自分が所属する組織の事ぐらい知っておいたほうがいい。

「特殊能力はそのままニーサン達が持っている能力のことですね。研究開発というのは研究部門と開発部門を合わせた組織。そして、私が所属しているのは開発部門。開発部門は主に能力を利用して社会の発展に貢献する事を目的にした部門ですね。研究部門は特殊能力そのものを何なのかを突き詰めるための部門ですね。分かりやすく言えば、研究部門は基礎で開発部門は応用です」

「なら、俺が開発部門に所属ってことは俺も社会に貢献しなきゃいけないんですか?」

「それはまだ未確定です。まずはニーサンについて色々と調査をして、望ましい形で活躍して頂く。そういう流れで今後は私達がサポートしていくつもりではあります」

「サポートってことは俺はある程度自由に動けるんですか?」

「そうですね。報告書にはニーサンには向こう側での立場、それも決して低くない地位があると認識しています。ですから、今までよりは自由に行動できるかと思います」

 それは俺にとっては少なくないメリットだ。

「それで、今までどおり宝石の買取もしてくれるんだよな?」

「そこは大丈夫です。むしろ、そうして頂ければこちらとしても大変助かります」

 今までの待遇よりは良いなら強い反発もない。

「そういえば、クロちゃんはどこに所属することになるんだ?」

 自分の事に納得すると今度はクロちゃんが気になった。

「クロさんには研究部に所属していただくことになると聞いています。上位能力の発現の予兆がある方は毎回データ採取の協力を求められるんです」

「まぁサンプリングの数は多い方がいいもんな」

「そういうことです」

 そう区切りがついたタイミングで頼んでいたお茶が運ばれてきた。何故かそのお茶組みがアイエフだったが、この人がどこに現れようと驚くことはないかもしれない。

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