異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第3節

「どうしてクロちゃんまでこのチームを抜けるって話になるんですか?」

「俺が受けた説明だと、クロの存在がどうしても新しい作戦に必要だってことらしい。この間の事件の報告書で本部がクロに注目したんだろ。だから、お前ん所でやってるアルバイトってのもおしまいだ」

「……知ってたんですか?」

 ブラッドに指摘され、女子高生にアルバイトをさせたことに若干の後ろめたさを感じた。

「別に俺は教育ママじゃねぇんだ。それに誰が何やろうが、本業に影響がない範囲ならいいが……まぁ簡単な話を聞いた限りだと、あの額は渡しすぎだ。アマテラスが支給してる額より多いぞ。事情を知らねぇ奴があの額を持つクロを見たら売春でもしてるか、金回りのいいパパが居るって思われるぜ?」

「……ああ……」

 確かに言われてみればそうだ。良かれと思ってしていたが、世間の風聞までは気にしていなかった。向こうでの金銭感覚が狂ったせいか、こっちでの金銭感覚も狂っていたらしい。それでも、クロちゃんのアルバイトは終わりのようなので、支給額を改める機会ももうないだろう。
 俺がそう考えていると、ブラッドは自身の発言に何か気がついたらしく、一瞬顔を伏せて考える素振りをした。

「……ああ、そういうことか」

 ブラッドは何か合点がいったのか、歯を見せて笑った。

「どうかしましたか?」

「気にするな。胸の奥のつっかえが取れただけだ」

 よく分からないが、ブラッドの中で何かが解決したらしい。

「今日の予定を改めて話すぞ。向かうのは俺とニーサン、そこの小さいの。そしてネコとクロだ。ファットさんとククは待機だ。人員不足で支部長から休暇命令は出てるが、素直に受理しちまったら補充要員の申請すら受け付けてもらえないからな。その代わり、明日からは休暇だ」

 その言葉をファットとククは聞き入れた。

「向こうについてからだが、まずはニーサンを次に所属するチームのリーダーに会わせる。後は向こうのチームリーダーに従え。その後、クロをプロジェクトチームのリーダーに会わせる。後はニーサンと同様だ。ネコ、お前はどうせ別命が下ってんだろ。好きに行動していいぞ」

「ええ。分かったわ」

 ということは、クロちゃんともお別れになるのか。少し寂しい気もするが、これからも頻繁にこんな感じであっちこっちに異動する事になるのであれば、慣れた方がいいのかもしれない。しれないけど。

「そういえば、クロちゃんが新しいプロジェクトに携わるってことは本部付きになるんですよね? でも、クロちゃんって実家暮らしだったと思いますけど、そこらへんは問題ないんですか?」

 少し気になったので聞いてみた。
 その問いにブラッドは頭を掻きながら答えた。

「その件は問題ない。色んな手段がある中でも穏便な手で済んだ、らしい」

「……穏便な?」

「そこらへんはクロのプライベートに関わる点もあるから、俺からは言えない。ただ、本人の同意の下でそのような決定が下された。お前が心配するような事はない」

 そう言われてしまえば閉口するしかない。

「さて、そろそろ時間だ。ネコ、例のゲートは向こうに届けてあるんだろう?」

「ええ。ただ、前にも話した通り私の能力だと私自身しか向こうに行けないから、全員で行くにはニーサンの能力でしかいけないの」

 そう言って水城は俺に向き直る。

「分かってるって」

 俺は事前に用意しておいたゲートを水城に手渡す。いつでもゲートを設置できるようにストックしていた物の一つだ。
 それを受け取った水城は五分程して戻ってきた。

「設置してきたわ。とりあえず、応接室に通されたからそこにゲートを置いてきたけどいいわよね?」

 それは俺に対してではなく、ブラッドに対してだった。

「人目がなきゃどこだっていいさ。それで、向こうに行くにはどうすればいいんだ?」

 今度はブラッドが俺に訊く。

「とりあえず、自分に触れている人間なら誰でも向こうに渡れますよ」

 そう言って右手をブラッドに差し出し、ブラッドがその手を握る。

「そうか」

 そして左手を水城が握り、クロとシルヴィは俺の上着の裾をそっとつまんだ。

「それじゃあ行きます」

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