異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第1節

 こちらの世界での出来事が収束した新たな朝。俺は約束通りアマテラスの本部に出向く運びとなった。その準備にと一度自宅に戻ると朝食の用意をしていたシルヴィがそこにいた。

「おはよう。シルヴィ」

「お久しぶりです。カズキ様。食パンだけならありますよ」

 しばらく放っておいたせいか、シルヴィの言い方に刺を感じる。急に戻ったせいか朝食の用意は一人分だ。

「いや、大丈夫。それより一人にさせて済まなかったな」

 別に彼氏彼女の会話ではなく、急に居場所が変わって不安であろう中、あまり関わることができなかったための謝罪だ。

「いいんです。アマテラスの人達は良くしてくれていますし、たまに来る依頼をこなせば少なくない報酬も貰えますから」

 シルヴィは席に着き、食事を始める。チーズトーストとサラダと牛乳といったシンプルな朝食だ。
 不自由の無いように見えるシルヴィだが、その立場は非常に不安定なものである。元々はアマテラスを襲ってきた不死身の能力者ヘラクレスという名の人物の仲間であった彼女は紆余曲折を経て、名目上は俺の監視下にあることになっている。その最大の理由がアイリに施した奴隷契約と同種の物を彼女にも施しているからだ。俺の命令一つで彼女は記憶や感情、身体の動きといった全てに干渉ができる。泣けといえば涙を流して泣き、笑えといえば涙を流すほど笑うだろう。

「そうか」

 俺も同じく席に着き、コップに牛乳を注いで飲み干す。

「あの人から聞きましたけど、今日からアマテラスの本部に行くそうですね」

「あの人ってアイエフか?」

「そうです」

 アマテラスは各都道府県に支部を構えており、その支部の一つ一つに能力者は配属されている。アイエフもその能力者の一人だ。今までから察するに支部長の紅蓮の直属の部下といった人物でもある。

「私もカズキ様と同行して本部に行くようにと命令を受けています」

「え。シルヴィも行くのか?」

 それは初耳だ。

「はい。名目上、私はカズキ様の監視下にある立場。そのカズキ様が本部に行くならば、私も同行するべきだ。そして本部に向かうならば検査を受けたほうがいいという理屈だそうです」

「……そう言われればそうするしかないけどさ」

「それと他に猫さんとクロさんとブラッドさんも同行するそうです」

「なんでそこでクロちゃんとブラッドの名前が出るんだ?」

 猫、もとい水樹が同行するのは分かる。他の二人が意外だ。特にクロちゃんがだ。

「なんでもクロさんが上位能力に目覚める兆しがあるらしいの。いつもなら支部でも検査はできるそうだけれど、カズキ様の能力があれば気軽に本部に行けるってことが分かっているからし、同じチームだから頼みやすいって事らしいわ。ブラッドさんは渋ってたみたいだけれどね」

「ブラッドがか?」

「ええ。今回のやり取り、カズキ様が本部に行く事からクロさんの検査まで本部と支部長の方でほとんどが決まっていたらしいの。簡単に言えば決定事項がブラッドさんにポンと渡されただけなの。それでブラッドさんが臍を曲げちゃったわけ。本人は隠しているつもりかもしれないけど、態度には出ていたらしいわ」

 下々はお上のお達し通りにするしかないってことか。

「特にチームの六人の内三人が本部に行くってことだから、通常業務にも支障を来すという事で臨時休業扱いらしいわ。だから、ファットさんとククさんは長期休暇を取ることにして、ブラッドさんはチームリーダーとして同行するって事になったらしいわ」

「じゃあ、今回本部に行くのは俺とシルヴィと水城とクロちゃんとブラッドの五人か」

「そういうことになるわね」

「……分かった。それじゃあ、全員を一カ所に集めるか」

「三人は朝から事務所で待機しているらしいわ」

「そうか。なら向かうか」

 俺は簡単に支度をし、シルヴィはも食器を洗った後、クロックルームを経由して事務所に向かった。

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