異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第103節

 一通り周辺を捜索し、ヨハンの魔石らしきものを発見した。
 カオスの話によれば、決闘の決め事によりヨハンの魔石はハリソンの物になっているらしい。どういう意図かは分からないが、勝手に手をつける訳にもいかないようだ。こいつの処遇に関してはハリソンが意識を取り戻してからの話になるだろう。
 あとは怪しい物も見当たらないためハリソンの下へと集まる。どうやら治療は順調に進み、背中の火傷は随分と回復していた。意識は取り戻していないが、瀕死という訳でもなく、安静にすれば今日明日にでも目覚めるだろうとロージーが教えてくれた。
 カオスが警告していたハリソンの腕に関しても時間が経った今では特に危険はないらしい。どうやら特殊な、恐らく禁術級の魔術をハリソンが使っていたらしく、その効果はあらゆる生物・物質を滅ぼす力らしい。
 危険がないのであればと布を外してみると内側に異様なほどの塵が溜まっていた。カオスの説明によればこれがハリソンの使った魔術の効果のようで手で触れた物全てを塵にする効果のようだ。恐らくは大気そのものを分解して塵にしたために布の内側に塵が積もったらしい。そのせいか布に空いた穴の一部からその塵が溢れ出ていた。
 事後処理を終えた俺達はクロックルームを経由し、宿へと戻った。その際、ルディは目を白黒させていたが説明は後だと断った。
 あとはハリソンをベッドに寝かせ、休息を取らせることにした。この後の振る舞いに関してもハリソン任せであり、俺から関与することは特にない。

「しかし疲れたな」

 俺は和の国に戻り、オセロ子爵の屋敷のバルコニーで夜風に当たりながら夜空を見上げる。
 アイリとロージーにはしばらく暇を与え、森の国でハリソンの看病をさせていた。
 ルディとの契約はヨハン討伐後に打ち切りとなったが、どうやらハリソンとフランがルディを和の国に招きたいとの話が上がっていたらしく、その件に関してもハリソンが目覚めてから話をすることにした。
 ジェイドとアンバーは和の国に戻し、内政をさせることにした。ロージー程ではないにしろ王族の女中ということもあり、教養は有り個人としての素質も高く、下手な人間に任せるよりはいいだろうと選んだ。もちろん比較的幼い二人だけに責任を負わせることはないようにと監督としてオセロ子爵を付けた。
 フランも和の国に戻し、しばらくはオセロ子爵の私兵の訓練に付き合わせることにした。いずれは俺の私兵を訓練させるための練習だ。この提案に関してはオセロ子爵も二つ返事で了承してくれた。

「本当は自分で片付けた方が早かったって思ってるんでしょう?」

 バルコニーには一つのテーブルと四脚の椅子があり、俺の正面に水樹が座っている。

「まぁな」

 果物の皮を浸した水をカップに注ぐ。オセロ子爵のメイドさんが用意してくれたものだ。

「なら、代わりにしてあげればよかったのに」

 水樹はカップを傾けながら俺と同じように夜空を見上げた。

「それじゃあ意味がないんだよ」

「意味がないって?」

 水樹は少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

「俺はヨハンに対して何の恨みもないんだ。自分の奴隷の怨敵だったってだけだからな。やっぱり、ヨハンを倒すとしたらハリソンしかいないだろ。それが筋ってやつだし、道理だ」

「道理ね……一樹って変な所に拘るわよね」

「ほっとけ。……それにハリソンは俺に『代わりにヨハンを倒して下さい』って言ってこなかったしな」

「でも、サラさんが狙われているっていう口実はあったはずよ?」

「……まぁそうなんだけどな。例え、それで俺がヨハンを倒したとしてハリソンから見ればどう映る?」

「助っ人かしら」

 意地悪く笑う。わざと間違っているに違いない。

「どう考えても獲物の横取りだろ」

「そうね。でも、ハリソンさんはあんたの奴隷でしょう? なら、どう思われたっていいんじゃないかしら」

 水樹らしからぬ事を言う。まるで試されているような気分になる。

「……まぁな。別に誰に何と思われようが気にしない」

「なら、アンタが倒しても良かったんじゃない?」

 そうだ。効率を考えればヨハンを倒すのは俺でも良かった。そうすればハリソンはあんな怪我を負わずに済んだ違いない。

「……でもやっぱり、ヨハンを倒すのはハリソンであって欲しいんだよな」

「やっぱりね。一樹が道理とか筋とかを持ってくる時って本音を隠す時よね」

「……やっぱり水樹には隠せないか。まぁそういうことだよ。ヨハンを倒すのはハリソンであって欲しかったんだよ」

「あんたの願望通りになっちゃったわけね。でも、それでハリソンが死ぬことになったかもしれないのよ?」

「言っちゃあ悪いが、その時はその時だと思ったさ。それで、アイリに仇を取るよう頼まれれば今度は俺がヨハンを倒す。これで美談の出来上がりだ」

「やっぱり、そう言う所変わらないわね」

「そう言う所って?」

「わざと嫌われるような言い方をする所。そう言う所、昔からイラっとする」

「言っただろう。誰に何と思われようといいってさ」

「……はぁ。折角格好良いなって思ったのにさ」

「かっこいいって俺がか?」

「ええ。この世界の人達にあんたのことを聞けば凄い人だ。英雄だって言うし、アイリ達に聞いても恩人だって言うしね。昔とは別人だって思っても見たけど、やっぱり変わんないよ」

「三つ子の魂百までってね」

「バーカ。まぁいいわ。この話は終わりにしましょう。それで、この件は一件落着になったし向こうに戻ってくれるって話だったけどいいかしら?」

「そうだな。明日の朝にでも行こうか」

「分かったわ。それじゃあ私は報告のために一度向こうへ戻るわ。明日の朝、電話してちょうだい」

「ああ、また明日な」

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