異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第102節

「なんなの!? 今の音!?」

 俺達が合流して間も無く、突如として激しく濃い魔力の波が押し寄せたかと思えば妙な熱と魔力を帯びた風が吹き荒ぶ。魔力感知に優れたアイリはその正体に青褪めた表情を浮かべ、単なる爆発として認識している水樹は俺に説明を求めてきた。しかし、俺は説明に窮した。

(……ハリソン……使っちまったのか)

 この爆発……俺が最終手段としてハリソンに渡した物の力だろう。
 ……元々、分が悪い戦いだとは聞いてはいたが……そうか……俺の支援が足らなかったのか……いや、もしかしたらあの爆発の中でもまだ生きてるかも……。

「とにかく様子を見に行きましょう?」

 痺れを切らした水樹が俺の手を取りハリソンの下へ向かおうとする。アイリも自ら行きたいとは言わないが、気になって仕方がない様子だった。
 しかし、この後の事を考えるとアイリになんて説明すればいいかと困ってしまう。
 アイリス達の態度に対し、ロージーの態度は普段通りだ。普段通り過ぎて違和感を覚える。

「……そうだな。あれだけの爆発なら決着が着いたかもな」

 自分で作った魔宝石だ。大体の威力は把握している。
 あの魔宝石は一見、一個の魔宝石のようだがその実、核と外殻の二層構造にしてあり、核は燃焼の魔術を込め、外殻には障壁を施している。
 核の魔術発動に連動して外殻の障壁も発動。外殻によって密閉された内部で燃焼したエネルギーにより内圧が莫大に跳ね上がり、魔術障壁が強度限界を迎えるか、障壁に費やすための魔力が尽きた時、爆発を起こす。その結果、周囲に熱を帯びた爆風が襲い掛かる。仮にその爆風を運よく防げたとしても高温となった大気の中で生存できる生物は皆無だ。
 ……いや、ハリソンのことだ。自分の被害を抑え、効果的に使ってくれたはずだ。

 全員を連れ、爆心地へ向かう。するとどうだろう。開けた空間に爆撃でもあったかのようなクレーターがくっきりと後を残している。そして何故か細い放射線状の無事な地面もあった。俯瞰すればパックマンのようなクレーターができているのだ。

「これは……防がれたのか?」

 嫌な想像をし、背に悪寒が走る。

「ハリソン!!」
「お父様!!」

 二人の声にふと我に返る。
 真っ先に飛び出したのはロージーとアイリスだった。
 その二人に遅れる形で俺も二人の背を追った。そして、その向かう先に俯せに倒れたハリソンの姿を認めた。
 金色の長髪はボロボロとなり、背中は酷い火傷をしており、息が荒い。

「……生きてたか」

 息が荒いという事は生きているという事だ。ハリソンの無残な姿を見た上で安心したというのも不思議な話だが。本当に生きていてよかった。

「カズキ! 二人を止めろ!!」

 突如としてカオスが叫んだ。
 俺は訳も分からず問い直そうとしたが、鬼気迫る声に予断を許さない事だろうと一瞬にして思い直し、二人の前に立ち、静止させた。

「「カズキ様!?」」

 二人の声に応えたいのはやまやまだが、俺だって事情が分からない。

「どうしたんだ。カオス!?」

「そいつの腕には絶対に触れるな。不死身に近い貴様でも一歩間違えば死ぬぞ」

 カオスの忠告に先ほどまでとは違う悪寒が走った。

「手当をする前にそいつの腕を貴様の世界の布で覆え。決して直接触れるな」

「……分かった。二人とも、今のハリソンは危険な状態らしい……いや、この危険ってのはハリソンがってことじゃなくて、ハリソンに触れる側が危険って事だ」

「しかし、カズキ様! ハリソンが……」

「どうしたんだ。ロージー、さっきまでと様子が違うじゃないか」

 肩を掴み正気を取り戻させようと揺する。
 先ほどまでとはまるで別人だ。
 
「……いえ、問答する暇はありません。一刻も早くハリソンの治療をすることが重要です……カズキ様、私は何をすればいいですか?」

 少しは冷静を取り戻したのか感情的にならず、物事の優先順位を付けていた。

「カズキ様。私も何をすればいいですか?」

 ロージーの服の裾を握ったアイリスも同様だ。

「少し待て」

 カオスが言うには腕を布で覆えばいいらしい。
 現代から布をもってくるには少し時間がかかると思い、上着を脱ぎ、それを触れないよう気を付けながらハリソンの腕に巻きつける。

「とりあえずこれで大丈夫だ。ロージーとアイリスは治療に専念してくれ」

 ハリソンのことは二人に任せ残りの面子で周囲の警戒に移る。
 どうやら敵の姿は無く、ヨハンの影も形もない。

「一樹」

「なんだ?」

「ロージーさんの事なんだけど」

 水城は他の誰にも聞かれないよう小声で話しかけてきた。

「ロージーがどうかしたのか?」

「ええ。ロージーさん、ずっとハリソンさんの事を心配してたようなの。一樹、そういうところ気が付いてなかったみたいだから」

 水城の言葉を一瞬疑ったが、人の気持ちを察するのをどっちが長けているのかを考えた。

「……そうだったのか。普段通りだから、ハリソンの事を信頼しているんだなぐらいに思ってた」

「たぶん、それも間違っていないわよ。でも、やっぱり心配なのよ。ロージーさんは『貴族に嫁ぐという事はそういう事』って覚悟はしていたみたいだけど」

「そういう事ってどういう事だよ」

 俺の軽い質問に水城は俺の顔を見ながら言葉を選ぶ。

「……男が命を懸けた戦いに女が言葉を挟む余地はないってこと。……全く、男ばっかり身勝手なんだから」

「いいじゃないか。ハリソンにも意地があるんだから」

「馬鹿。私はあんたに言ってんの」

「……俺か?」

「分かんないならいいよ、もう」

「もしかして、あの時の事を言ってのか?」

 現代でのヘラとの戦い。その時、一番傍に居たのは誰だったか、考えるまでもない。

「……悪い」

「別にいいよ。ただ、あの子に心配させすぎないようにね」

 水城が俺の背後に視線を注ぐ。

「あの子ってアイリスの事か?」

「ええ。あの子、本当に一樹に懐いてるじゃない」

「まぁな。ただ、あの子って言ってるけど水樹より年上だぞ?」

「知ってるわよ。でも、そんな実感が湧かないもの。ロージーさんは子供がいるからとか、落ち着いた雰囲気があるから年上だって実感できるんだけどね」

 水城の言う通りロージーは年相応に感じる。逆にアイリスが幼いぐらいだ。

「とにかく、あんまり無茶はしない事。いい?」

「分かったよ」

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コメント

  • ノベルバユーザー259441

    再開が嬉しい この後の展開も期待

    0
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