異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第101節

 ヨハンは私との距離を詰めようとせず、遠距離からの攻撃に徹する。

「厄介な術だな。だが、禁術とされるからにはそれ相応の代償を必要とするんだろう?」

 そう。ヨハンの指摘通り禁術はそれ相応の代償を必要とすることが多い。例えば魔朧は術者自身の肉体を分解して魔力を強制的に精製する。他には飛行魔術はその難しさから多くの魔術師が死亡する形で数を減らしたため禁術指定を受けた。そして風化もまた同様だ。その魔術の性質から維持するための魔力の消費量が並ではない。本来の私ならば十秒と保てないだろう。だが、宝玉の力によりその制限は大きく緩和されている。しかし、風化を使いすぎれば術そのものに身体が慣れ、魔力の消費量が減る代わりに風化を使っている状態が通常の状態となってしまう。元々、長期戦向けの術ではないのだ。
 こちらから距離を詰め、奴の体に触れる。それだけでこの戦いは終わる。
 奴が打ち出す魔術を両腕で掻き消し、にじり寄る。だが、ヨハンは容易に距離を詰めさせてはくれず、私を中心として円を描くように距離を一定に保とうとする。
 そう。この禁術を使えば必ずこの状態に持ち込むことができる。
 この禁術はその強力な効果によるため近寄ろうとするものはまずいない。居たとしても防ぐ術のないこの両腕を躱すしかないのだ。
 多くの場合、突撃か遠距離攻撃か逃亡の三択を強いられる。そして、勘が鋭いヨハンならば禁術の代償について容易に辿り着き、突撃という選択を取ることはなく、サラ様を賭けている以上逃亡することはせず、魔術にも長けたヨハンならば高確率でこの状況に持ち込むことはできるだろうと算段できていた。
 初代から受け継ぎ、父上から密かに託された必勝法。そして、なんたる偶然か。その必勝法への最大の駒が何も知らぬカズキ様より託されたのだ。

 昨晩、アイリスから受け取った魔宝石。アイリス自身はその魔宝石がどういったものなのかを詳しくは知らなかったようだが、用途・名称は至ってシンプル。『爆弾』だ。指向性を持たず、対象を選ばず、ただただ周囲を破壊するだけの魔術を秘めた魔宝石。
 カズキ様が託して下さった最終兵器。もし仮に私が負け、殺される事になろうとも相討ちに持ち込むことができる。死ぬその瞬間にでも無念とならないようという配慮だが、私にとってはロウ家に伝わる必勝法の最後の駒だ。

 風化を使った状態で魔術の行使はできない。魔宝石を用いての魔術も同様だ。故に魔術への警戒心は薄くなっているだろう。
 そして、折れた剣の柄と私とを結ぶ直線上にヨハンを誘導する。
 これで全ての準備は整った。
 右手をヨハンに突き出し一言詠唱する。

「王手(チェック)」

 その直後、剣の柄に仕込んだ魔宝石から凄まじい魔力の奔流が周囲に溢れ、ヨハンもそれを感じ取ってか障壁を作り出す。そして、一拍遅れて光と音が炸裂し、更に一泊遅れて止めどない熱波が押し寄せた。ヨハンはそれを防ぐために自身の持つ魔力を全て注ぎ込んで障壁を保持する。
 一歩でも動けばその瞬間に障壁は破れ、その身を焦がすであろうことは容易に想像ができるだろう。
 そのいつ止むとも知れぬ熱波の中を唯一私だけが踏み進むことができる。

「王手(チェック)」

 身動きできないヨハンの背中に手を伸ばす。
 衣服は一瞬にして塵と化し、皮膚もまた塵と化し、溢れ出る血液すらも塵と化し、その最奥の心臓を塵と化す。
 魔人は人の形をしており、その器官も人間と同様の働きを見せる。だが、人間と魔族を明確に分け隔てるその核。魔石には触れない……いや……?

 ――魔石がない。

 背後から何者かの気配。

 ――詰み(チェックメイト)だ。

 私は息を止めて身体を反転させ、爆風に身を任せ宙を飛び、そこにいるであろうヨハンに手を伸ばす。

 ヨハンが分身して二体いるとした場合、姿を現さない一体はどこに位置取るかと考えれば私の背後以外に無い。この熱波の中、唯一の安全地帯に偶然(・・)にも居たその一体は仮初の勝利の余韻に浸る私の背後から不意の一撃を与えるために必ず姿を現すと考えていた。
 そして読み通りの展開となった。私の背後に確実にいるであろう奴に向かう追い風。あとはこの身を風に任せれば自然と奴に接近できる。
 奴が突き出した剣を左手で塵と化し、残る右手で奴の頭を抉る。
 手応えはない。しかし、この手応えの無さこそが風化の効力だ。
 受身も取れぬこの体は強かに幹に叩きつけられるのを待ち、意識を落とした。

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コメント

  • ノベルバユーザー192824

    続きを読みたい。

    0
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