異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第99節

 私の全力の魔術はヨハンの外套と右の袖を吹き飛ばした。ただそれだけだった。
 ヨハンは右腕を盾にし、防いだようだ。良く見れば籠手には魔宝石が埋め込まれていた。

「念のため準備してきてよかったぜ」

「……魔術障壁。いや、風除けの魔宝石か」

「ああ。あんたの得意な属性は知ってるからな」

 ヨハンから見れば私は格下。しかし、対策は怠っていないという事か。

「なら!!」

 溢れ出る魔力は術後でも充実している。
 ――しかし、その反動は確実に私の身体を蝕んでいく。
 右半身にぬるりとした液体が這う感触。

「多水弾(タ・スイ・ダン)!」

 水属性の魔術は得意ではないが不得手でもない。
 左手をヨハンに向け、魔術を放つ。握り拳大のつもりだったが、頭程にも大きい水玉が計七つ。それらがヨハン目掛け一斉に襲い掛かる。
 しかし、ヨハンはそれらを余裕を持って躱す。

「不意を打つならともかく、正面から打つだけでは俺には当たらん」

 いつの間にかヨハンの背後に浮かぶ岩石。それは一見一つに見えたが、地に映る影は長く一列に伸び連なっていた。

 ――まずい!!

 私が飛び下がったのが先か、石が放たれたのが先か。
 一瞬前まで私がいたそこに飛来する石。魔力で強化した今の私でもまともに受ければ負傷は免れない。
 それらが緩急をつけて私を襲う。咄嗟に飛び避ければ着地点を狙われ、動き続ければ動作線上に布石を敷かれる。
 全てを避けることは叶わず左手と右足に一発ずつ喰らった。手は握力を失い、足は踏ん張りが利かない。折れてはいないが、満足には使えない。しかしそれも数十秒の話だ。僅かな時を経る毎に痛みは引いていくのが分かる。これもまた宝玉の効力か。
 しかし、その数十秒の休息すら与えられない現状。

「ハァッ!!」

 素手の私に容赦なく襲い掛かるヨハン。
 私の動きの鈍りに付け込み執拗に私の左半身を狙ってくる。特に私の足を更に奪おうと無傷の左足を狙ってくる。
 その攻撃に抗うため苦しい中でも足を止めず、僅かな痛みを自覚しながらも魔力の充足は怠らない。そして、防御一辺倒にはならないよう攻撃の手も緩めない。詠唱不要の呪文、『射る風矢』を単調にも射続ける。それは多少の効果を見せたのか、ヨハンは左手を剣から離して魔術を弾くように籠手を翳した。
 しかし効果としてはこれ以上を望めない。武器は無く魔術の対策もされている。ならば、更なる打つ手を考えなければならない。少なくとも最後の切り札以外の何かを。

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