異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第98節

 森の中にぽっかりとできた大きな広場。
 その昔、ある魔術師がここで実験に失敗し、大爆発を起こして草木も残らぬほどに大地を抉ったとされる。その時の影響からか、長年この一帯には草木は生えず、虫の巣さえない。

「ようやく会えたな。ヨハン」

 木々の間から姿を現したヨハン。

「まさかこのような形で俺を呼び出すとは思わなかった」

 ヨハンはそう言い、街中で配った広告を懐から取り出し、わざわざ私の目の前で破って見せた。

「隠れた貴様を誘き出すにはこうする他無いからな」

 ヨハンは破った広告をその場にばら撒き、ゆっくりと剣を抜き、構えた。
 森を吹き抜ける一陣の風が散った紙をどこかへ運ぶ。

「決闘の条件はあの通りでいいんだな?」

 私から提示した条件は三つ。
 一つ目は一対一の決闘にて命を賭けて勝敗を決める事。
 二つ目は私が負け死んだ場合、サラ様の所有権がヨハンに移る事。
 三つ目はヨハンが負け死んだ場合、その核となる魔石は契約の下、魔宝石となり私に力を貸す事。

「ああ。あの通りだ」

 私もまた剣を抜き、構える。
 緊張のためか握る手に力が入り、剣の切っ先が僅かに揺れ、自分の中の僅かな迷いが現れていた。
 あれだけ手酷い裏切りに合いながらも、ヨハンは実にロウ家に尽くしてくれた。その事実は私に色濃い影響を与えていた。一時期はヨハンとアイリスを結ばせ、養子として迎え入れようかと思ったこともあった。
 そして私はそんな相手を命を賭けて倒さなければならない。
 実力差は明白。本気になったヨハンの実力は計り知れない。開幕の一太刀で地に伏すかもしれない。
 まずはなによりも、ヨハンと対等に戦えるだけ力が必要だ。
 地力で敵わず練度も劣る。ならば、何かで補う他無い。
 カズキ様より頂いたこの魔宝石。いえ、カズキ様はこの魔宝石をこう呼んでいましたか。
 ――宝玉、と。

「それはなんだ?」

 私が取り出した宝玉にヨハンは僅かに眉を顰めた。しかし、それに素直に答える必要は私には無い。そして、その余裕もない。
 この宝玉の使い方はとても簡単。ただ飲みこむ。ただそれだけ。それだけで莫大な魔力を引き出す。
 カズキ様の説明を受け、私は迷うことなくそれを使うことを決めた。もちろん、それ相応のリスクがあると知った上で。

 宝玉を口に入れた瞬間、口の中が一瞬で痺れた。思わず吐き出しそうになる本能を押さえ付けながら、呼吸を止め、一息に飲みこむ。まるで溶けた鉛が食道を通っているかのような錯覚に陥り、涙があふれ出てくる。そして、宝玉は腹の底から熱を発し、その熱が目に見えるようになったかのように体表に現れ始めた。
 ――魔朧(マジック・ヘイズ)。
 レオ様が使っていた禁術に酷似している。しかしあれは才ある者がその才を代償にして行使する物。それに引き換え、私の身に起きている事はカズキ様がご用意した宝玉を飲みこむだけ。しかし、原理は非常に近い。魔朧は己の肉体を純粋な魔力へと変換することで莫大な魔力を手に入れる。私の身に起きているのは己の身ではなく、宝玉そのものから魔力を得る。この現象をカズキ様はこう呼んでいた。偽・魔朧(フォルス・マジック・ヘイズ)。
 魔石や魔宝石から直接魔力を得るのとは違い、宝玉を体内に宿すことで魔力を得るという事は一時的に自分の実力以上の魔力を常に発し続けることができるという事だ。私の魔力が小川ならば、宝玉は豪雨、そしてこの体表に現れる視認できる程に濃い魔力は洪水。制御もなく、ただひたすらに溢れ出てくる純粋な力だ。

「勝負だ!! ヨハン!!」
 
 まるで熱に浮かされたかのように軽い身体は彼我の距離を無い物とする。視界に入る全てが間合い。そう錯覚するほどに溢れる力。
 それだけの力を持ってしても私の斬撃は受け止められた。手の平に伝わる衝撃と僅かに走る手首への痛み。

「驚いた。並の力じゃないな」

 それでも昔とは違い、片手で受け止められたわけではない。ヨハンはきっちりと踏ん張った上で両手で私の斬撃を受け止めていた。確実に実力の差は埋められている。
 受け止められたという事は私の斬撃に力が足らない。力が無いならば足せばいい。
 斬撃とは即ち速さと重さだ。私は父から指南を受け、重さより速さを重視した剣術を使っていた。
 それに対し、カズキ様の剣術、もとい武術は重さを重視した物だった。あえて不利となるような武器の重量化。更には踏み込む自身の重化。私の戦い方とはまるで真逆だ。
 しかし、カズキ様はこうも教えてくれた。『攻撃の威力は質量に比例するし、速さの二乗に比例する』と。言っている意味はよく分からなかったが、カズキ様が噛み砕いた説明では『重さが半分になっても速さが二倍になれば威力は二倍になる』とのこと。益々分からなくなったが、要約すれば速さを重視する私の剣術は優れているという事だった。

 鍔迫り合いに持ち込まず、一度間合いを空けてからもう一度切り込む。今度は先ほどより速く、更に速く――。

 ――ギン。

 鈍い金属音。それは私の剣からか、ヨハンの剣からか。いや、それは両方からだった。
 私の剣は折れ、ヨハンの剣は刀身に罅が入っていた。
 私は剣を振り切った体勢。ヨハンは剣を受け止めて体勢を崩している。
 ヨハンは私が武器を失った事を認め、口角を上げた。武器の有無は戦闘の大勢に大きな影響を与えるのは火を見るよりも明らかだ。
 しかし、私はここを勝機と捉えた。
「穿つ風槍(セン・フウ・ソウ)!」
 今の私は体表全周に魔力を放出している。即ち、通常のように手や口といった発動しやすい部位以外からも打ち出すことができる。
 私の体表を漂っていた魔力は一瞬で旋風を形成し、私の右肩から放たれヨハンを貫こうとした。それは短槍のような武器を超越し、馬上槍のような兵器というに相応しい威力を持っていた。

 ――それでもなお、ヨハンは倒れない。

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