異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第96節

「こちらアイリ。敵部隊全滅」

 魔人を全滅させ、魔石を拾っている傍らでアイリが報告する。

「こちらアンバー。同じく敵部隊全滅よ。ただ、ヨハンは居なかったわ」

 アイリの無線機からアンバーの報告が聞こえる。
 となると、水城の所にヨハンが向かった可能性が有るか。
 見に行きたい気持ちはあるが、持ち場を離れるわけにもいかない。陽動は俺がするべきだっただろうか。
 俺が考えていた所で無線の受信音が聞こえた。

「こちら水城。ヨハンらしき人物が居たわ。予定通り通したけれど、目の前に魔人が八体残ってるわ」

「こちら神崎。応援はいるか?」

 念のために訊いてみた。

「大丈夫」

 その直後、遠くで枝葉が擦れる音が聞こえたかと思えば、すぐに巨大な何かが倒れる音が聞こえた。音のする方へ視線を向けると、数十羽の鳥達が飛びだって行く姿が見えた。
 そこで俺は今日の水城の装備を思い出していた。
 目算にして二メートル程の細長い棒を抱えていた。水城曰く、それはハーフ&ダブルによって縮小された状態とのこと。最小で二メートル、最大で八メートル程にまで伸縮自在の武器だ。しかも材質は鋼鉄。本来ならば縮小しても重すぎてまともに使えないだろうが、この世界は現代より重力が軽いのか、体感ではアルミ程の重さしかない。
 仮に八メートルの鉄の棒が脂肪遊戯の力で振り回されたら、木ぐらい簡単に折ってしまうだろう。
 薙ぎ倒される木々の音はあたかも爆撃でも受けたかのように響き渡る。

「あいつ、一体何と戦ってるつもりなんだ?」

 台風が通ってもあんな惨事にはならないだろう。そう思えるような轟音は一分余りの時間の末、終息した。

「こちら水城。敵部隊戦意消失」

 俺の耳がおかしくなければ、水城の報告が敵部隊戦意消失と聞こえた。

「こちら神崎。確認だが敵部隊全滅ではなく、戦意消失なんだな?」

「こちら水城。ええ、敵部隊は武装解除し、こちらに投降すると言ってるわ。その代わり条件を提示されたの。受け入れるべきか判断に困ったから、一樹の判断に任せるけど」

「連中が出した条件は?」

 魔人が命乞いをすることに少なからず驚きながらも、相手の要求を聞いてみた。

「力を貸す代わりに殺すなということらしい。私が持っているこの銃に入ってる魔宝石のような姿となり、助力するとのこと。期間は私の死後まで……らしい」

 魔人を魔宝石化するためには俺がクララと契約したようになんらかの契約が必要らしいが、なるほど。相手を力で屈服させれば、こうして魔宝石を得ることもできるのか。

「その条件は呑んでもいいと思うぞ。ただし、契約はシンプルかつ明確にしておけ。この手の約束事は穴を突かれる可能性があるからな」

 土壇場で裏切られたらたまったもんじゃない。

「分かったわ」

 水城の報告から少しが経過。

「一樹の言うとおり、全員の条件を呑んだわ。ところで、この魔宝石はどうしたらいいかしら?」

「まぁそいつは戦利品だし、水城の好きにしてくれて構わないよ。それにしても、よくあの魔人達を屈服させられたな」

「私の仕事は殲滅任務より制圧任務の方が多いからかしらね。つい、威嚇してしまったの」

 あの轟音が威嚇だって? 何言ってんだコイツ?

「……ジェイド、そちらの様子は?」

「あ、一樹! 今、引いたでしょ!? これは職業病みたいなもんだから!! 私だって手加減ぐらいできるんだから!」

「水城。お前が話すと他の無線の受信が取れない」

 しばしの静寂。一向にジェイドからの連絡がない。

「こちら一樹。ジェイド、聞こえるか?」

 もう一度尋ねるも返事がない。と思ったら無線が受信音を発した。

「カズキ様! すぐにジェイドの所に行ってください!!」

 その声はアンバーだった。普段の落ち着いた声とは全く違う。

「アンバー。どうしたんだ?」

 アンバーの焦りの声に俺自身も焦らされているのを自覚しながら務めて冷静な口調で尋ねた。

「……それは……秘密です。とにかく、ジェイドは助けを求めています!」

 珍しくアンバーが半ば怒気のような物を込めてお願いをしてくる。それでも俺は持ち場がある。こういった時のために自由に動ける人間を一人用意したんだ。

「……一樹、あんたがルディ君の所へ行って。私とロージーさんがアイリスさんと合流するわ」

 今回のチーム戦は主な指揮は水城に任せてある。本来なら俺かハリソンが指揮するのが筋だろうが、餅は餅屋。こういった状況に慣れた人間に任せるのが良いとの判断だ。

「それだと俺の役割が哨戒から陽動になるぞ?」

「……そうよ。私とあんたの役割を入れ替えるの」

 水城は何か含みを持った良い方で俺の指示を出した。

「戦ってみて分かったけど、あの魔人達はハリソンさんじゃなくて、あんたの事を探しているみたいだったわ。陽動をするなら目立つ人間の方がいいもの」

 なるほど、そういう理由か。

「あんた、奴らからなんて呼ばれてるか知ってる?」

 水城の言い方から察するに降伏してきた魔人達が俺に二つ名のような物を与えているらしい。

「……なんて呼ばれたんだ?」

「黒き風だって」

「……恐ろしく中二的だな」

 まぁ悪い気はしないが。

「あんたが少しでも動けば、魔族にとってそれが全て悪い結果に繋がるからって言ってたわ。悪い噂しか齎さない存在。だから黒き風だって」

「黒猫って呼ばれたなら『不吉を届けに来たぜ』とでも決め台詞を言ってやるんだがな」

「生憎と猫の席は埋まってるわ」

「そうだったな。まぁ二つ名に相応しい新しい決め台詞でも考えておくか」

「無駄口はいいから、さっさと行きなさい」

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