異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第95節

 翌朝。準備を終え、それぞれが持ち場に付く。
 景品として扱われるサラは本人の希望で一時的に俺が預かることになった。やはりカオスの傍に居たいらしい。


「朝の森は清々しい気持ちになるな」


 これから戦いを控えてはいるが、不思議と気負うことなく自然体で居られた。


「皆さん、持ち場に着いたかしら?」


 アイリが持つ無線機からロージーの声が聞こえる。


「到着しています」


「……こっちもよ」


「こちらも到着しています」


 ジェイド、アンバー、アイリがそれぞれに応答する。
 区域としてはハリソンを中心として、フラン&アンバー組は北東から北西、ルディ&ジェイドが北西から南、俺とアイリが南から北東を担当する。ハリソンと森の国を直線状で結べば正面に俺達とフラン達が向かい、背後にルディ達が位置取る形となる。


「こちら猫……じゃなかった。水城、敵影無し」


 普段から無線を使っているのか慣れた口調で無線を使っている。言い間違いから察するに向こうでも日常的に使っているのだろう。


「それから無線を使う時は各自、名乗ってから報告するように」


「こちらジェイド。分かりました」


「……アンバー、分かったわ」


「アイリも分かりました」


 アイリの一人称が名前になっているが、いいだろう。
 何か事が起きるまで待機していると、再び無線で連絡が入った。


「こちら水城。森に入る人影を多数確認。総数二十から三十。東、北東、北の三手に別れたわ」


 なら、俺達は東側に回るか。


「アイリ。俺達は東に行くぞ」


「分かりました」


 水城の連絡の直後、真っ先に応答したのはアンバーだった。


「こちらアンバー。北に向かうわ」


「こちらアイリ。東に向かいます」


「こちら水城。陽動のため北東に向かいます」


 それぞれが考えて動く。チーム戦のようで少し面白い。


「アイリ。掴まれ」


「はい!」


 アイリを背負って迎撃に向かう。その中にヨハンが居れば、ヨハンだけは通す手筈だ。
 木々の隙間を縫うように地を蹴り駆ける。
 僅か数十秒で敵影を確認。その場にアイリを下ろす。


「こちらアイリ。敵影を確認し――」


 アイリの連絡を最後まで聞かず、更に速度を上げて接敵する。
 敵影の中にヨハンらしき魔人の姿は無い。
 カオスを手にし、魔力を全身に漲らせる。
 奴らも俺の姿に気が付いたのか、幾つもの魔術を発動させ俺に向かって飛ばしてくる。規模は小さく発動速度重視の牽制目的の魔術だろう。
 しかし、それを容易く吸収して先頭に立つ魔人の胴を薙ぎ払う。すぐには魔石にはならない辺り、まだ生きているのだろうが止めを刺すよりも他の連中の無力化が優先だ。
 接近戦に心得のあるであろう魔人が接近してくるが、今までの経験上心得がある相手に俺はまだ太刀打ちできない。そういった相手には遠距離戦を仕掛ける。
 戦いの基本は如何に自分の得意な舞台で戦い、相手の得意な舞台で戦わないかが大事だと何かの小説で読んだことがある。それは確かにその通りで、遠距離戦が得意なやつには近距離戦で、近距離戦が得意な奴には遠距離戦で戦う。
 そして、俺が得意なのはどちらかと言えば遠距離戦だ。それも広範囲高火力のオーバーキルだ。
 しかしながら戦場は森であり、ここら一体を焼け野原にすれば森の国の心証が悪くなるといった制限はある。そのため、今回は森を過度に傷付けない魔術を用いることにした。


「ウィンド・ボム!」


 以前、考案した風の爆弾だ。
 これの良い点は熱が発生しないため周囲に過度な影響を与えず、飛び道具に対して盾の役割もしてくれる。
 俺と魔人連中との間に屈折率の違う大気の球体が発生したかと思えば、直後に周囲を吹き飛ばす一陣の突風が発生。接近してきた魔人はその突風により簡単に吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。
 そして続け様に魔術を行使。


「リキッド・ボム!」


 湿度の高いこの森では水を得ることは用意。そしてそこに俺の魔力を混ぜることで粘度を高めて爆発させる。勘が鋭い者や初めから防御に徹したもの以外はその水を浴びることになる。
 それ自体は単なる水であるが、粘度が高いため容易に拭えない。
 そして魔術の性質だが、術者の魔力が込められた物質は術者の魔術の影響を受けやすくなり、他者からの影響を受けにくくなる。この状態で付着した液体を熱したらどうなるか。答えは簡単である。


「ボイルド」


 魔人連中が浴びた水は数秒と経たないうちに沸騰を始めた。
 必死に水を拭い取ろうと手で払ったり、地面を転げまわるが、そんな簡単には逃れられない。その中でも地面を転げまわった者の体表は泥塗れとなった。
 それを見て、咄嗟の思い付きで更に魔術を行使する。


「硬化!」


 事前に用意した魔術でないため即興の詠唱となるが、それはまぁいい。
 魔人の体表の泥は流動性を失い、全身を覆う泥岩となる。傍から見れば一瞬にして石の人形に作りかえたようにも見えるだろう。単なる泥岩ならば力尽くで壊すこともできるかもしれないが、俺の豊富な魔力によって結合力は単なる泥岩に留まらない。
 すぐさま魔石にならない辺り、まだ生きているのだろう。生きながら石人形の苦しみを味わっているのだ。
 今のやり取りだけで魔人の数は半分に減った。そして最初に切り伏せた魔人も息絶え、魔石と化した。
 残りは一、二、三、四人。内訳は勘が鋭い魔人が二人、専守防衛が二人か。
 俺が残りの人数を確認する一秒か二秒の間に全員が体勢を整え、勘の鋭い二人が俺に肉薄してきた。
 それぞれの獲物は剣と短槍。俺の実力じゃまともに相手をしても分が悪い。
 剣はカオスで受け止め、短槍は物理障壁を展開することで防ぐ。


「カオス!!」


 俺の呼び声に呼応して吸魔の力が強化され、剣士の魔力を一瞬で三割から四割程を奪い取った。
 それでも勘が鋭いのか反応が良いのか、根こそぎ奪う事は出来なかった。
 短槍の魔人もそれに追随して離れる。
 近づけば吸魔の力で疲弊させ、遠距離では俺の魔術が炸裂する。
 こういった距離ならボム系のような範囲型魔術より射出型の魔術がいいだろう。


「バレット!」


 無属性質量体の攻撃。発動速度は早く、射出速度はそこそこで連射速度もそこそこ。
 物理障壁で遮られるし、剣や盾でも簡単に弾かれる。短所はあるが、質量の調整によって簡単に威力の調整が可能という長所もある。
 間を置かない連射を剣や槍、あるいは物理障壁で魔人が防ぐ音がカカカと響く。そして、徐々にその音は間欠的なガンガンガンという重い音へと変わり、剣士の得物は刃こぼれを起こし、短槍は柄から折れ、途切れる事の無い攻撃により物理障壁すらも貫通した。
 本来、物理障壁というものは維持をするのが大変なのだ。現象としては飛来する物体の運動エネルギーを一瞬にしてゼロにするという事だ。単純な物理の話だが、魔術でも近い性質がある。等速の物体が飛来するならば、重い方がエネルギーは多い。
 それを休みなく受けるという事は全力疾走を長時間行えと言うのに等しい。
 更に付け加えるならば、攻撃側は点の攻撃、防御側は面の防御。燃費で行っても攻撃側が有利なのだ。
 こうしてみれば、出会って全滅させるまで僅か一分足らず。


「やっぱり、戦術を持って魔術を使うってのは大事だよな」

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