異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第94節

 食事も終え宿に戻り、明日に備え各自で休む事となり、俺もまたアイリと二人でベッドに入った。
 電灯の無いこの世界は豆電球のような淡い光さえなく、隣に寝ているアイリの寝顔すら本来ならば見えない。だが、今の俺の目は不思議と夜目が利く。光源もなく、月明かりも差し込まないこの室内でもアイリの目鼻立ちが分かる。そして、アリイがまだ寝入っていない事もだ。


「……アイリ。眠れないのか?」


「……はい」


 アイリにとって明日は父親が戦う日。その相手が強いともなれば心配は重なるだろう。
 こんな時、どんな言葉を掛ければいいのだろうか。
 俺がハリソンの代わりに戦うと言えれば簡単だろう。しかし、今回の戦いはあくまでハリソンが主役だ。だからこそ、今回は俺が裏方に徹すると決めたんだ。
 アイリだって賢いからそのことは重々承知しているだろう。だからこそ、いままで何も言わず我慢してきた。故に安易な言葉を掛けるべきではない。


「……そうだ。ハリソンにこれを渡そうと思っていたのを忘れていた」


 実際は明日の朝に渡してもよかったのだが、口実のためにアイリに手渡した。


「カズキ様? これは?」


「俺様とっておきの奥の手だ。これをハリソンに持って行ってくれ」


 用途・使い方に関しては既にハリソンに伝えてある。
 切札に奥の手、最終手段。切れるカードは大いに越したことはない。


「少し目が冴えたから出かけてくる。アイリはそのままハリソンと一緒にいるのもいいし、戻ってこの部屋で休んでもいいぞ」


「分かりました!」


 良い返事と共にアイリはハリソンの部屋へと向かう。
 そして何故かアイリと入れ替わるように水城が入ってきた。


「一樹。いつからそんな人の気持ちを考えれるようになったの?」


「別に考えたわけじゃないさ。俺がそうしたいって思ったから、こうしたんだ」


「あらそう。少し見直そうかと思ったけれど、変わってないようね。安心したわ」


「そんなことを言うためにわざわざ来たんじゃないんだろう?」


「ええ。支部長から連絡が来たの」


「支部長……ああ、紅蓮の事か」


 こっちの世界でそのワードを聞くとどうしても反応が遅れてしまう。


「簡潔に言うと本部への正式な異動が決定。それで、早急に戻るようにって」


「いますぐの話なのか?」


「一応、こっちの事情は話して延期してもらうように言ったわ。でも、延ばせて明後日の正午までに本部に向かうようにって」


「俺の休暇の予定はまだもう少しあったと思ったんだけどな」


「どうも、発言権の強い本部の研究者からの要望だそうよ」


「なるほどね」


 事情は理解した。しかし、はい行きますと簡単に言える状況ではない。


「悪いな水城。こっちの事情なのに色々と気を遣ってもらって」


「本当に気を遣うならこの事すら話さないって選択もあったんだけどね。ただ、あんたの場合切羽詰ったらこの間みたいに玉砕攻撃だって平気でしそうだもの。だから、今度の戦いでは動けなくなるような怪我はしないように。あんたの事情で私だけ振り回されるのはごめんよ」


「ああ。ありがとう」


「お礼なんていいわ。それともう一つ相談に乗って欲しいんだけど」


「相談?」


「私の能力なんだけど、異能力者を相手にするのと魔法使いを相手にするのって勝手が違うみたいなのよね。あんたならそこらへん実体験でわかっていると思うから聞いてみたかったんだけど」


「分かった。なら、俺が知ってる範囲で教えよう」


 俺は依然、ロイスから聞いた魔法に関わる事を水城に伝えた。


「そういうことなのね。だったら――」


 その後、水城が使える異能力のうちでどれが効果的かを算段した。水城の能力は万能なようでいて欠陥も多い。一つ目は能力の限界だ。保存できる能力は大量だが、実際に使えるのはその中の何個しかできない。二つ目は使用する能力を入れ替えるには睡眠を取る必要がある。そのため、状況に見合った能力にすぐさま付け替える事が出来ない。裏技が一応あるらしいが、今回は使えないとの事。三つ目は能力の反動だ。ファットが使っていた能力ならば、急激な減量による体調不良だ。本来の能力者ならばそういった反動に耐性があるようだが、水城の場合は耐性が無い。四つ目は上位能力が使えない事だ。こちらは今回の戦いではあまり大きな影響ではないが、水城自身が欠陥だと思っている。


「ゲーム感覚で言えば攻撃力・防御力・回復力・移動力。ここらへんが揃っていれば陽動には事欠かないんじゃないか?」


「……やっぱり、そうなるわよね。でも、私の能力の限界上、何を取って何を捨てるかって事なんだけど……」


 ゲームでのキャラメイクで言えば俺は攻撃偏重だが、実際の戦場では早死にするだけだ。
 水城の役割は陽動と護衛。その場合、優先されるのは移動力だ。


「俺の能力のコピーなら移動力はかなり高いんじゃないか?」


「ダメね。アンタの能力を使うには他の能力を削らないといけないから」


 そういえば、使える能力は数ではなく質に影響されるらしい。だから、単純に何個かという物でもないようだ。


「こうなると、この組み合わせかしら」


 水城が提示した能力は知っている物と知らない物があった。
 一つ目がファットの能力、移動力に秀でた脂肪遊戯。反動のリスクこそあるものの、優秀な能力だ。
 二つ目が体感速度を操作するテンカウント・ワンミニッツ。十秒を一分に引き延ばす能力、と言えば強そうだが、実際は自分の意識のみの能力であり、相対的には思考速度を六倍にする程度のもの。それでも不意打ちを受けた時や高速移動をする相手には有用な能力だ。但し、連続使用はできない。
 三つ目が物質体積操作のハーフ&ダブル。使い方によっては人間砲台にもなれば、武器を伸縮自在の如意棒として扱うこともできる。但し、制限としてこちらの世界の物質は向こうと理が違うためか異能力の影響を受けない。そのため、使う武器は予め持ち込む必要がある。


「まぁいいんじゃないか? 並の相手なら脂肪遊戯だけで事足りそうだけど」


「並の相手だけじゃないかもしれないから相談しに来てるのよ」


 しかしながら、あれだけのスピードに対応できるのはこの世界ではレオ以上の実力者だろうと俺は思っている。そのレオより上の存在ともなれば魔王クラスだろう。


「この世界だと私の使える能力の内、物質操作系はほとんど使えないし、どうしても身体強化系に偏るのよね。でも、身体強化系の中から選ぼうとしたらどうしても脂肪遊戯一択になるし、あとはそれを補助する能力になるのよね」


「そればっかりは仕方がない」


 逆に言えば、俺だってあっちの世界で魔術を使って物質を動かせないんだ。


「なら、水城も魔法少女の真似事でもしてみるか?」


「魔法少女って……あんたって少女向けのアニメはあんまり見なかったはずだけど?」


「俺だって魔法少女ものぐらい見るさ。ライトじゃなくてヘヴィな方だけど。いや、そうじゃなくてこれをな」


 自力で魔術を使えるようになり、逆に使わなくなった魔宝石を材料にして作った一品。


「魔術で拳銃を再現できないかと色々と細工をして作ったんだ」


 形状は回転式拳銃。俗にいうリボルバーという奴だ。


「これってどうやって使うの?」


「相手を狙って引き金を引けば魔術が発動する」


 理論は単純で魔宝石と魔石が接触することで魔力が流れ、魔術が発動する。弾倉には魔宝石を込め、引き金は魔石と連動させている。グリップには普通の拳銃の弾薬のように魔石が入っている。魔石の魔力が切れたら手動でスライドを動かすことで空になった魔石を排出できる。


「これって威力はどれぐらいあるの?」


「現代人に向けて撃てば死ぬか骨折する程度の威力だな。普通の拳銃と違って貫通力と弾速はないけど、代わりに衝撃力が高い。それに火薬を使わない分、音も大きくない」


 現代の一般人でも死なない程度かと思うかもしれないが、向こうとこっちの一般人の肉体的強度は全然違う。実際、一般人代表の俺がシーク人並みかそれ以上と評されたこともあるのだ。その事を鑑みれば並の魔人ならば十分に通用するだろうし、有効打を与えられなくとも牽制には使える。
 本当ならば、これもハリソンに渡そうか迷ったが慣れない武器は使わせない方が良いと思い、結局は俺か水城が使うという事で妥協した。


「この弾倉の中って違う石が込められてるけど、もしかして弾の種類も違うの?」


「ああ。地水火風の四属性と無属性の質量体を打ち出すこともできる」


「この空の部分は?」


「そこはまだ開発中だ。雷属性を付けたかったんだけど、使用者本人が感電するという欠点がまだ克服できてない」


「……そう。まぁありがたく使わせてもらうわ」


 水城はそういって立ち上がる。


「明日は頑張ろうぜ」


「そうね。じゃあ、また明日」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く