異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第93節

 ハリソンの作戦の要点をまとめよう。
 目的はヨハンの討伐。手段はハリソンとヨハンの一騎打ちだ。そのために俺達は動く。
 今回の作戦の肝は何と言ってもヨハンを戦場に引っ張り出すことだ。そのために俺がハリソンのために用意した物資の全てを条件付きで商会に格安で売渡した。その条件と言うのが、国中にそれらの商品を宣伝するという物だった。そして、その宣伝にはロウ家に伝わる暗号を織り込むという物。長らくロウ家に仕えていたヨハンならばその暗号は容易く読み取ることができるだろうということだ。
 暗号の内容は端的に言えば二つ。一つ目は一騎打ちの申し入れ、要は果し状だ。もう一つは決着が着いた際の取り決め。ハリソンが勝った場合はヨハンの命を貰う。ヨハンが勝った場合は神器を譲り渡すという物。
 この誘いにヨハンが乗った時、俺達に仕事が回ってくる。
 戦闘が可能な俺、フラン、そして森の国で知り合ったというルディが主な戦闘員。
 魔術の心得があり、治癒魔術が使えるアイリ、アンバー、ジェイドは後方支援。
 現代で用意した無線機を使用することでロージーに情報の統制を任せる。
 そして、そのロージーの護衛役に水城を付けることにした。
 今回の作戦に参加する人数は九名。内訳は以下の通り。
 対ヨハンとしてハリソン。
 露払いの役割として俺とアイリ、フランとアンバー、ルディとジェイドといった戦闘員と支援員の二人一組の三チーム。
 そしてそんな俺達の状況を正しく把握するためにロージーと水城が情報統合支援隊だ。。
 こういった戦略・戦術的な部分は俺に経験がないため、慣れたハリソンと水城で話を詰めてくれた。
 水城が提案した情報統合支援隊という名称はきっと俺の影響かもしれない。それはともかくとして、無線機を使うというのは水城の案はさすが現代人の発想だろう。
 こうして作戦立案後、それぞれに準備を進め、作戦決行日を翌日に控えた今日。ささやかな宴会を開くことにした。
 ――ささやかにするつもりだった。
 何故か今回の話をどこで聞きつけたか、キャス王女が参加を申し入れ、会場手配までしてくれた。
 その結果、キャス王女を含めても僅か十名の宴会にもかかわらず、貴族が出入りするような高級レストラン風の店を貸し切り、絢爛豪華な料理がテーブルを埋め尽くすほどに並べられた。
 こういった場を何度か経験した俺や貴族出身のハリソン達、クリスの下で女中として働いていたアンバーやジェイド、ロトの奴隷となっていたフラン、この場を用意した張本人のキャスは気兼ねなく料理を口に運ぶ。だが、冒険者出身のルディと現代人でこの世界に不慣れな水城が面白いほどに動揺していた。


「……一樹。こういった場は慣れてるのかしら?」


「まぁね。慣れたというか、慣れさせられたというか、まぁこういった機会が少なかったわけじゃないさ」


 現代ですら高級レストランに行ったことが無い俺にとって、この世界に来てクリスから会食の招きに応じた時が初めてだろうか。


「ロウ様、この方が以前お話しに伺ったカンザキ・カズキ様ですか?」


 ハリソンの命令で動いていたルディという名の青年がハリソンに尋ねている。小声ではあるが、耳が良くなったためか十分聞き取れる。


「ええ。魔王殺し、そして和の国の王。今では様々な肩書きを持つ方ですが、優しく、勇敢で、少し変わった所があるお方です」


「まるで英雄みたいですね」


「カズキ様は英雄と言われるのを好ましく思ってはいないようですから、本人には言わないように」


「そうなんですか?」


「カズキ様の弁ですが『陽の国がどうなろうがどうでもいいが、俺の奴隷が奪われて黙ってられるか』といった事を言っていました」


 確かに言ったことがある気がする。


「それって、陽の国よりも奴隷が大事だっていう事ですか?」


「ええ。だから言ったでしょう? カズキ様は少し変わったお方だと。私達の常識がまるで通用しない。だからこそ、一緒に居ると新しい発見や味方、価値観に触れられるのです」


「では、そのカズキ様の隣に座ってる方は? 随分とカズキ様と親しそうですが、まさかカズキ様のお妃様ですか? 着ている服がなんとなくカズキ様と一緒のような気がしますが」


「いえ、違いますよ。昔からの知り合いと言った所でしょうか。実はあの方がこちらに来たのがつい最近のため、私もお二人の間柄については詳しくは知らないのです」


「そうでしたか。それではカズキ様の隣に座っているのはアイリス様ですよね? ロウ様がカズキ様の奴隷だとは伺っていましたが、アイリス様も同様なのですか? それにしてはカズキ様はアイリス様をとても大事に扱われているようですが」


「ええ。カズキ様はアイリスをとても可愛がってくださいます。それも奴隷の身には余るほどに」


「もしや、カズキ様は少女趣味が?」


「当初は私もそう思う所がありましたが、そういった性的な物には一切興味を示しません。それどころか、そういった事を持ちかけるととても機嫌を悪くされますから」


「……まるで自分の子供のように接するのですね」


「そうかもしれません。単純に子供が好きなようで、よくお菓子を子供達に配っていますから」


「……しかし、アイリス様のお歳は……」


「ルディ。そのことはカズキ様も知っています。その上でカズキ様はアイリスを傍においています」


「分かりました」


 

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