異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第89節

 俺はブリットを先に食堂に向かわせた。


「カオス、さっきの話は本当か?」


「懐かしい話だ」


 カオスは懐かしむ声で応えた。


「……アベルってどんな奴だったんだ?」


「奴の話の通り、一見すればそこら辺の普通の人間と変わらん。実際、特別な何かを持っているということもなかった。むしろ、普通の人間が当たり前に持つ物を持っておらなかった」


「それが、魔力って事か?」


「ああ。それに実の親も居なかったそうだ」


「実の親? アベルって農家の生まれって話だったけど、それは育ての親って事か?」


「そうなるな」


 ……もしかして、アベルは俺と同じように異世界から来たのか?


「そうだ。奴の話を聞いて思い出したが、お前が大切にしていたあの絵」


「あの絵って、あの?」


 俺が初めてこっちの世界に来る切っ掛けとなった絵だ。


「あの絵に描かれている人物。あれはアベルの後ろ姿に良く似ている」


「……そういえば、あの絵の人物は黒い剣を持っていたな。もしかして、あれがカオスか?」


「いつどこで描かれたかも分からんがな」


「……まぁいい。アベルの件は隅に置くとして、さっきの神器の話だがカオスは何か覚えてるか?」


「奴の話の通り、アベル達は魔王を討伐して平和を手に入れ、それぞれ故郷に帰った。その時、餞別にとシーク、トール、タインには神器をそのまま持たせた。その後の消息は我には分からん」


「そうか……」


「ただ、手掛かりはある」


「手掛かり?」


「アベルの故郷は陽の国の近く、そこに我は封印されていた。同じように神器の所有者が故郷に持ち帰ったのならば、その故郷の近くで封印されているとは思わないか?」


「故郷?」


「ブリッツの話通り、あの時代は悲惨な時代だった。人口も少なく、集落の数も少ない。そして、奴らの名前を関する種族の国がある。この符合をどう見る?」


「……つまり、今ある四大国がそのままアベル達の故郷だと?」


「その可能性は高い」


「……クララ、神器について何か知らないか?」


「あんたって、こういう時だけ私の事を呼ぶのね。まぁいいけど。神器については魔王達も関心はあったみたいよ。そこまで積極的ではなかったけれど……そうね。カズキが魔王を倒したきっかけがカオス様の封印を解いたってことを知ってるなら、神器については今まで以上に関心があるはずよ」


「なら、魔人が活発に動いてるのは魔王の差し金か?」


「それはどうかしらね。魔人だって意思を持ってるから、単独で動けない事もないわ。前にも話したと思うけれど、魔王の命令の範囲外なら自由に動けるもの。個人的に興味を持った魔人が一人で勝手に動くって場合も十分に考えられるわ」


「でも、ブリッツの話だと組織だって動いてるように聞こえたけど。少なくとも単独という訳でもなさそうだし」


「そこが分からないのよね。魔人が魔人を使役出るわけないし」


「……いや、そこはどうなんだ?」


「何かおかしなこと言ったかしら?」


「人間が人間を使役することはあるぞ? 魔人が魔人を使役したっておかしなことは無いだろう?」


「いえ……でも……そうね……カズキの言う通りできないこともないわね。人間社会に溶け込んでいれば、魔人同士で金銭的な契約の下、主従関係が成立することもないわけではないもの。魔王と魔人のような絶対的な命令こそできないけれど、魔人が魔人を動かす上での問題ならそれでも……」


「なら、話は簡単だ。その神器、俺らが貰っちまおう」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く