異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第87節

「ワシが知っておるのは今、この大陸に点在しておる魔人共がある目的のために徒党を組んでいるという事だ」


「ある目的?」


「……カンザキ公は歴史についてお詳しいですかな?」


「いや、歴史については疎いかな」


 なんなら、現実の歴史にすら疎い。


「では、昔話としてすら語り告げられなくなった物語をお話ししましょう」


 そう言ってブリッツはゆっくりと語った。






 昔々、ある所に四人の人間が居ました。
 一人は赤髪が目立つ黒剣を背負った男。名をアベルと言います。
 一人は胸板の厚い褐色肌の禿頭の男。名をシークと言います。
 一人は背が高く色白で綺麗な女。名をトールと言います。
 一人は手元で器用に短剣を扱う小柄な女。名をタインと言います。


 彼らにはそれぞれ相棒が居ました。
 アベルには黒の片手剣。
 シークには赤の戦斧。
 トールには緑の長杖。
 タインには青の短剣。
 彼らの相棒は意志を持ち、自分で考え、話す事も出来ました。


 そんな四人と四本、八つの意志が向かう先はなんと魔王の討伐だったのです。


 全ての始まりはアベルからでした。
 アベルは農家の長男として生まれ、田畑を耕すごく普通の青年でした。
 普通ではない点を強いてあげるとすれば、彼は一切魔力を持たずに生まれた事だけです。
 しかし、アベルが十二歳になった頃、彼に悲劇が訪れました。
 魔族の大進軍です。
 その時に襲われた何十と言う村々の一つが彼の村でした。
 彼は身を隠して魔族の目を掻い潜り、その村唯一の生き残りとなりました。


 それから彼の長い旅が始まりました。
 まず、故郷を失った彼は都市に向かい、同じく故郷を失ったシークという名の男と出会いました。
 シークは力自慢の荒くれ者で、欲しい物は力づくで手に入れる野党と変わらない者という評価をされていたが、自分を慕う者には優しさを見せる人物でした。
 アベルがシークと知り合って間も無く、シークの仲間が流行病で床に伏せました。そこで、シークは領主の屋敷に忍び込んで金目の物や食い物を調達することを計画しました。
 今まで悪事をしたことが無いアベルでしたが、シークの仲間を助けるという行動に対して自分も力を貸したいと思い、領主の屋敷に同じく忍び込む事にしました。
 結果、アベルとシークは貴金属と食糧を手に入れて屋敷を脱出しましたが、衛兵に顔を見られて都市に滞在する事が出来なくなり、シークの仲間に手に入れた物資を渡して、アベルとシークは都市を出ることにしました。


 二人は行く宛も無く、ただただ交易路を道なりに進み、食料も底を尽き、文字通り野草と言う名の道草を食いながら進んでいると、馬車が一台通りかかりました。
 どうやら女性の一人旅のようです。
 女性は行き倒れになりかけている二人にある条件と引き換えに手持ちの食糧を分け与える事を提案しました。
 二人はトールと言う名の女性からの提案を快く受け入れました。
 女性が出したある条件とは襲われて間もない村に救う魔族の群れを追い払い、村人を助けて欲しいというもの。
 戦う術を知らないアベルは自分に何ができるかを考え、力自慢のシークは魔族を倒すにはどんな武器が良いかを考えました。
 そこで三人は知恵を振り絞りました。
 アベルは魔力を持たないが故に魔族に感知されずに動けることから村人の救出。
 シークはその力を大いに振るい、トールを守護。
 トールは持ち前の魔力による魔術を使う事で魔族を退けることにしました。
 結果、三人は自らの役割に尽力する事で魔族を退け、村人を無事に救出。代償としてアベルは軽傷、シークは重傷、トールも魔力の枯渇による昏睡状態に陥りました。
 そのため村に数日滞在し、体力を回復。そして村人達からお礼の品として食糧や武器・防具の類を受け取りました。
 この時初めてトールはこの村の村人ではなく、単なる通りがかりだと知った時にはアベルとシークはとても驚きました。


 また別の都市に向かう三人は同じことを考えていました。自分達の力は魔族にも通用するということ。特に故郷を失ったアベルとシークは特に強くこのことに考える日が続きました。
 そして、次の都市に着くと更に辛い現実に直面しました。
 村を滅ぼされた難民達が街に押し寄せていたのです。
 その難民の中に一人、小柄な女性が居ました。その女性はアベル達に近寄り話しかけてきました。
 どうやら難民達の受け入れを領主が拒んでおり、難民達が立ち往生しているらしく、中に入るためには抜け道を使うぐらいしかないという事。そして、その抜け道を自分は知っているという事。
 女の名前はタイン。この都市で便利屋をやっている人物だそうです。
 三人はいくらかの金銭をタインに渡すことで、その裏道を教えてもらい、都市の中へ入ることができました。
 その道中、タインはこんな話をしました。今ある都市全てがここと同じように難民が押し寄せていて、難民の数はそのまま襲われた村の数に比例し、村が襲われたことは食糧の調達が難しくなるという現実に直結することを。
 領主は村を襲う魔族を討伐するために軍備を整えるために兵糧を確保し、そのせいで難民達は飢えるという皮肉な現状にタインは苦笑いをしました。
 結局、魔族を討伐しなければ平和は訪れないという事なのです。
 そして裏道を通り過ぎ、都市内部へと入り込むことができた三人。そこでタインは外に出たくなったらここに来てくれと言って別れました。
 三人は村を助けた時に魔族から手に入れた魔石を換金して食糧を調達し、街を見て回ると、タインの話通り、食料は高騰して品切れ。街に活気は無く、沈鬱な空気だけが漂っています。目に映る人々は顔を俯け、聞こえる声は溜め息ぐらいのものでした。
 あまり長居はできないと感じた三人は翌日の朝にはタインの言う場所に向かいました。そこには石造りで簡素な見た目な店構えをした魔宝石屋があったのです。その中に入ると店主であろう女性が現れ、その後に続いてタインが出てきました。
 三人はタインに外に出たい旨を伝えようとした所で、店主がアベルに目を付け、ある提案をしてきました。
 そこに展示している黒水晶に触ってみろ。
 アベルは頭をかしげながらも店主の言葉に従い黒水晶に触りました。すると、アベルはその場にいない何者かの声が聞こえたのです。






「もしかしてそれって……」


 俺は思わずカオスに視線を注いだ。

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