異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第85節

 そして、時間は過ぎ去り夕食時。
 オセロ子爵のメイドがブリッツ達を屋敷内にある食堂に案内する。
 ブリッツ達一行はブリッツ自身を含め三人。こちらからは俺とアイリスとロージーとフラン、それからオセロ子爵と奥さん。ジェイドは給仕役を、水樹は遠慮して自室に閉じこもっている。
 まずは簡単な挨拶を交わし、お互いの情報を交換する。
 ブリッツ達のメンバーの中で一際目を引くのが細い体にも関わらずお腹がぽっこりと膨らんだ女性だ。言葉を選ばずに言えば、妊婦さん。名前はシャルル。もう一人は初めに俺を怪しんでいた青年だ。初めのような敵対的な態度ではなく、少し緊張した様子だ。こちらの名前はボイル。
 そんな中、給仕達は各々の目の前にあるグラスに酒を注ぐ。


「コラコラ、妊婦に酒を注いだらダメでしょ」


 俺はさも当たり前のようにシャルルさんのグラスに酒を注ぐ名も知らないメイドについ注意してしまった。


「も、申し訳ありません!」


 メイドは何か粗相をしたのではないかといった様子で畏まって頭を下げる。


「ああ、いや。怒ったわけじゃないんだけどさ、俺の故郷では妊婦にアルコール……酒を飲ませるとお腹の中の赤ん坊に悪い影響を与えるって言われてるからさ」


 俺の言葉に周囲がざわつく。聞き耳を立てれば、そんな話は聞いたことがないと言う声と、カンザキ様が言うなら本当なのかもというよく分からない信用の声が聞こえた。


「お気遣い痛み入ります」


 シャルルさんは笑顔で礼を言ってきた。
 しかし、この妊婦さんは随分と若い。まだ二十歳になってないのではなかろうか。いや、そもそもなぜこの場にこの妊婦さんを連れてきたのだろうか。
 各々に飲み物が回り、オセロ子爵の乾杯の音頭によって会食が始まった。


「かなり大きいですけど、何か月目ですか?」


 俺はグラスを傾けつつ、シャルルさんに尋ねた。


「もうすぐ3ヶ月目。もう少しで出産です」


 シャルルさんも水の入ったグラスを傾けて答える。


「三ヶ月目、ですか」


 俺は少し驚いた。あまり妊娠に関する知識はないが、少なくともシャルルさんのお腹は臨月と言われても容易く信じられる程度には大きい。


「ロージー、こっちでは妊娠から出産までそんなに間もないのか」


「それは種族に依ります。たぶん、胎児はタイン人なのでしょう」


「……そういうもんなのか」


 そういえば、シャルルの魔力の量は少ない。こちらもタイン人の血が混じっているのだろう。
 俺は失礼にならない程度にシャルルさんに視線を向ける。


「実はこの二人は夫婦でしてな」


「め、夫婦……ですか」


 二人共随分と若い。絶対俺より若い。リア充か? リア充なのか?


「二人は紛れもない人間。ワシら全員を受け入れられなくとも、この二人だけは受け入れていただけないでしょうか?」


 ブリッツは目を伏せ、頭を垂れる。どの口がそれを言うかとも思ったが、実は本当に良い魔人だったりするんだろうか。
 少なくとも、目の前にいる二人は魔人でないことはブリッツに言われずとも俺には分かる。人間だ。もっと言えば、シャルルの胎内にいる赤ん坊も魔人でない事まで判別はつく。


「俺としては二人だけでなく、皆さん全員を受け入れる意向はあります。ですが……」


 どんな形であれ、定住ができればいいというのであれば未開拓の地を開墾してもらってそこに住んでもらう。そういう話であれば、今すぐにでも口約束ぐらいはできる。できるが、まだ問題がある。


「ブリッツさん。少し二人だけで話はできませんか?」


「ワシは構いませんよ」


「では、こちらへ」


 俺は誰の耳目も気にせずに済む自分の部屋にブリッツを招くことにした。

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