異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第80節

「あの者が既にこの国に……」


 全てを話し終るまで、静かに話を聞いてくれたキャス王女。しかし、私が言葉を紡ぐ度にその怒りは静かに積もっていたようだ。


「今の私は贖罪のため、彼を捕まえようとは思っていません。既に私は森の国の貴族、ハリソン・ロウではありませんから。そして、この件に関しては和の国の使者、ハリソン・ロウでもありません。あくまで私人として、彼との決着をつけるために来ただけの、ただのハリソンです」


 初めからそういう話だ。和の国の使者と言う話もカズキ様が私人としての私に口実を与えてくださっただけ。その恩義に報いるだけの仕事はするが、本懐はそこにない。ヨハンを捕え、悪事を未然に防ぐこと。それこそが私がここに居る理由だ。


「二つ聞きましょう。何故、その話を直ぐに私に明かさなかったのかを。そして、何故今になって明かしたかを」


 彼女の気持ちを考えれば、真の主犯を捕え、処刑を行いたいと思うのも当然だ。彼女は実の弟を殺され、真犯人を捕える事も出来ない代わりに私を罰した。しかし、それで彼女の恨みが消えるはずもない。私を罰したのは体裁を繕うため、また、行き場のない怒りを向ける先として選ばれただけだ。
 真犯人は別にいる。そしてその真犯人はすぐ傍に潜んでいる。その事実を私が伝えたことで、彼女の中で燻っていた怒りを再燃させてしまった。


「一つ目は私の問題に不必要に巻き込みたくなかったため。二つ目は私だけの問題ではない可能性が高くなったため」


「……その理由は?」


「既に国内の大半を調べ、ヨハンは上流階級の居住区と王城敷地内以外にはいないことを確認しています。即ち、ヨハンはそれらのどこかに潜んでいることになります。さらに言えば、そのような場所に潜むためには誰かしらの手引きも必要です。魔人に加担する何者かが、国内に巣食っている。この事に気が付いた以上、ヨハンを捕まえるだけでは話は終わらないことも容易に想像が付きます」


「……魔人の後援者がどこかにいると」


「十中八九」


「…………」


 キャス王女は私の言葉を深く吟味した。


「状況は飲み込めました。それで? 貴方が私にその話を打ち明けた以上、何か要望があるのでしょう? 言ってみなさい」


「国内での大規模魔術の行使の許可を」


 森の国に限らず、国内での魔術の私用は基本的には禁じられている。許されるのは自衛や治安維持、または業務上必要とされる場合等だ。
 大規模魔術ともなれば、王族へ請願書を提出し、許可を貰わねばならない。


「大規模魔術? 具体的には?」


「国内全域への探知魔術を」


 探知魔術とは自身の魔力を外部に放出し周囲を探る魔術。他者の魔術の影響下に置かれた物を調べたり、精度を上げれば物体の輪郭まで知覚でき、熟練の魔術師ならば建物一つを調べることもできる。
 それを利用することで国内全域を調べるというわけだ。もちろん、魔力の出所はサラ様だ。
 ただし、魔力を放出して周囲を探る以上は人々に何かしらの影響が出る。魔力に鈍感な者ならば、気が付かず、敏感な物ならば不快な思いをするかもしれない。
 また、国内全域ともなれば隠されたものまで暴く可能性がある。それが貴族にとって、王族にとって不都合な物があったとしてもだ。


「それは……許可できないわ」


 さすがのキャス王女でも二つ返事で許可はできない。それは分かっていた。
 これはあくまでキャス王女から譲歩を引き出すための提案だ。私にはそれをできるだけの力があり、それを行うだけの理由があり、それを示す。
 私にそれだけの力があると示した以上、無碍に放置はできない。そうすれば、私が独断で探知魔術を行使し、秘匿したい秘密まで暴かれる可能性があるからだ。
 私自身、無許可にそのようなことをすればカズキ様に迷惑がかかることは理解している。しかし、キャス王女にとってはそれが保証となりえない。
 私はあくまで私人として行動している。それを強調しているからだ。


「しかし、ヨハンはこの国内の、私の手の届かないどこかにいます。それが分かっていながら、見過ごすことはできません」


 少なくともこちらに義はある。キャス王女自身もこちらに同調したいはずだ。あとは彼女の私人としての気持ちか、王族としての気持ちか、どちらを優先させるかにある。


「…………」


 綺麗な顔が苦虫を潰したように歪む。


「では、こうしましょう」


 そこで私は助け舟を出した。

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