異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第72節

 炎姫の名に相応しい猛攻。そして、それを受け流し続けるヨハンもまた強者だ。
 その応酬の中、並の者ならば見ている事しかできないだろうが、ルディは距離を取り、武器を槍に持ち替えて隙を見てはヨハンに攻撃を仕掛ける。
 ヨハンはフランさんの攻撃を防ぎつつ、攻勢に転じようとするも、その直前にルディが間隙を突くといった流れだ。フランさんは攻め、ルディはヨハンの攻勢を封じ、ヨハン自身は防戦一方となっている。


「アンバー!」


 私の呼び声にアンバーが瞬間的に光る光魔術を行使。それを合図にフランさんとルディがヨハンから距離を取る。


「ウィンド・ボム!!」


 私の声に呼応し、ヨハンのすぐ傍で爆発が起きた。


「ッ!?」


 予想だにしなかった攻撃を受けたヨハンは私を睨みつける。


「ウィンド・ボム!!」


 そのヨハンの眼前で更に爆発を起こす。それは熱のない音と風圧だけの威力。殺傷能力こそ低いが、動きを封じるには十分。油断して受ければ人一人程度なら簡単に吹き飛ばせる威力はある。
 この魔術はカズキ様との会話の中で生まれた魔術。命名もカズキ様だ。
 大気を魔力の力によって圧縮し、小さな玉状にする。その玉を敵の傍で解放することで圧縮された大気が解放され、瞬間的な突風を生み出す。
 この魔術の優れた点は視認がされにくく、玉を事前に用意すれば連発できることだ。フランさんとルディが稼いだ時間だけ、この玉は作ることができた。
 カズキ様の説明だけでは現象は起こせても原理は分からない。なので、どうしても現象を再現するために魔術名を唱える必要があるが、それは些細な事。現にあのヨハンが爆発に翻弄され、私達に近付く事すらできない。
 ヨハンの四方にウィンド・ボムを設置。それを同時に起爆する事で逃げ場所を封じる。この魔術に殺傷能力こそないが、手持ちの武器を吹き飛ばすぐらいの威力はある。
 ヨハンは私の魔術を受け、武器を手放す。二つの剣は打ち上げられ、枝を切り落とし、見えなくなっていった。
 武装解除。
 カズキ様が好んで使う手だ。


「参りましたね」


 ヨハンは余裕からか、それとも諦めからか、笑って見せる。


「ヨハン。降伏してください」


「……それはできない相談ですね」


 そう言ってヨハンは何かを唱え、一歩後ろに下がる動作を見せた。いや、後ろに下がっていない。
 違う。その場にとどまったヨハンと一歩下がったヨハンがいる。
 二人のヨハン?


「「私も魔王に命じられた身。私に自由意思があったなら、私は今でもロウ様に仕え続けたかったですよ」」


 二重に聞こえる声。同じ声が別々の口から発せられる。


「「私は『逸脱』のヨハン。魔人でありながら、魔人の禁忌を犯す者」

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