異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第71節

 剣の声に導かれ、私は一歩踏み出した。


「ハリソン様、お待ちください」


 突如響く男の声。それはこの場の誰でもない者の声。しかし、その声には聞き覚えがあった。


「……ヨハン」


「未だ私の名を覚えて頂けていたのですね」


 ヨハンが木の影から姿を現した。
 トール人並の身長、シーク人の褐色肌に引き締まった身体。
 髪は剃っており、私の傍に居た頃のような気品さは無く、野性味が表に出ている。


「貴方を探していましたよ。ヨハン」


「そのようですね。ハリソン様が私を探していると知った時は心底驚きましたよ。なにせハリソン様は領地経営が不振となり、身を売られたと聞いておりましたから」


 悪びれる風もなく、ヨハンは腕組みをして首を振った。


「しかし、何のために私を探していたんですか?」


「……貴方を捕獲するためです」


「捕獲? ハリソン様が私を?」


 ヨハンは何が面白いのか、声を大にして笑った。


「可笑しな事を仰いますね。どうしてハリソン様が私を捕まえようとするのか分かりません」


「貴方に理解してもらおうとは思いません」


 ヨハンは基本的な冒険者の服装だ。基本を革装備としており、急所は金属のプレートを施している。また、武器は幅広の片手剣を両の腰にそれぞれ下げている。


「ルディ、フランさん。手を貸して下さい」


 手持ち全ての魔石を使ってでもヨハンを捕える。
 私の声に呼応し、ルディとフランさんは一瞬でヨハンに接近し、剣を振るう。そして、それを難なく受け止めるヨハン。
 右手の剣でルディの、左手の剣でフランさんの剣を受け止めている。
 ヨハンがあのような剣の使い方をした姿を見るのは初めてだ。


「貴様、双剣使いか」


 フランさんはヨハンの剣を押し返すように弾き、ヨハンは自ら後ろに飛んだ。


「そこの少年はまだまだですが、貴女の剣技は素晴らしい。女性のしなやかな筋肉に魔術的な補助、そして熱を操る複合魔術。それを当たり前のように、それこそ手足を動かすレベルで操る技術。感嘆に値します」


「それはどうも」


 フランさんは剣を一振りする。その剣の軌跡には赤い火の粉が舞い、徐々にその火の粉はフランさん自身からも溢れ初め、遂には体を覆うような赤と橙色の混じったドレスのような姿となった。

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く