異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第70節

 小型魔獣を追うこと数十分。不思議と魔獣に遭遇する事もなく直進する。
 直進している。つまり、他の魔獣の臭いや気配を嗅ぎ分けて迂回しているわけではない。
 警戒を厳にしており、常に臨戦態勢のまま移動するのはさすがに疲れる。肉体的にもそうだが、精神的にもだ。


「…………」


 私達四人は口を開くことなく歩く。
 そうしてさらに数十分。徐々に警戒心も薄れ、適度に給水をしながら進む。


「…………」


 ピタリと小型魔獣は立ち止まった。
 周囲に視線をやるが魔獣に囲われている様子はない。しかし、何かを感じる。この感覚は魔力の流れか。
 アイリス程の鋭敏さではないが、私も魔力の流れを多少は感じることができる。
 今、この場には不自然な魔力の流れが存在する。
 大気の流れ、地下水脈の流れ、木々が地脈から吸い上げる流れ、そういった自然界の流れとは異なる流れ。言ってしまえば人為的な流れだ。
 咄嗟に手鏡を取り出し、周囲の様子を映し出す。
 手鏡にしか映らない一本の木。その木の根元に一本の剣が突き刺さっていた。
 小型魔獣が立ち止まった丁度目の前だ。


「……噂は本当だったんですね」


 噂は噂。主目的はヨハンの追跡のため、噂の真偽はそこまで重要視していなかった。しかし、こうやって見てみると分かる。あの剣は周囲から魔力を集積する性質を持つ物だ。
 木の根に突き刺さっている当たり、周囲の大気からだけではなく地中からでさえ魔力を吸い上げているに違いない。
 あの剣を認識して初めて実感する。単純な魔力の保有量だけならば、カズキ様の保有するカオス様のそれですら上回る。つまりは魔王一人分以上、いや三人分はあるだろうか。
 森の国と呼ばれる所以たるこの森をもう一つ創造できる可能性すら秘める魔力量だ。


「……ハリソンさん? 顔色が悪いですよ?」


 私の顔を覗きこむアンバー。きっと今の私は顔面蒼白になっているだろう。血の気が引いているのを自分で実感できる。


「――太古の主の残滓を纏う者」


 突如として女性の声が聞こえた。それはフランさんでも、アンバーでもない妙齢の女性の声だ。


「今のは貴女の声ですか?」


 恐る恐る剣に声を掛けた。


「ハリソンさん?」


 アンバーが私の顔を更に覗き込む。どうやら、他の人達には聞こえていないようだ。


「――ええ。太古の主の残滓を纏う者、ハリソン。あなたを呼んだのは私です」


 太古の主の残滓。
 太古の主とはカオス様の事だろう。しかし、残滓を纏う者というのが分からない。私以外にもアンバーやフランさんもカオス様の傍に居た者はこの場に居る。
 ――いや、私とアイリスだけはカオス様に触れたことがある。魔力を急激に吸われたあの感覚。あれの事を指しているのか。


「貴女はカオス様のお知り合いですか?」


「――カオス……太古の主のことですね」


「はい。私はカオス様、貴女の言う所の太古の主を存じ上げております」


「……あの方がお目覚めになられたのですね」


「はい」


「ならば、私はあの方の元へ向かわなければなりません」


 そう言い切ると、手鏡越しでしか見えなかった木は肉眼でも見えるようになり、その根元にはやはり剣が突き刺さっている。


「ハリソン、私を手に取りなさい」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く