異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第69節

 木の洞で夜を明かし、朝方には出発する。
 方角としては南。今までの傾向からいえば、魔獣との遭遇率は徐々に高くなっているため、南に向かう事は間違っていないはずだ。


「徐々にですが、魔獣の個体としての強さも上がってきていますね」


 フランは魔獣を薙ぎ払った大剣を背負いなおし、魔石を拾いながら言う。


「そうですね。それに身体が大きくなってきている気もします」


 ルディも魔獣を貫いた槍を背負いなおして魔石を拾う。
 一言で魔獣と言っても個体差がある。四足歩行の犬型の物から、飛行する鳥形、木々を渡る猿形もいる。ここでは四足歩行型が多いが、中には牛に近いほど大きい魔獣もいる。
 それほどまで大きくなると、片手剣程度の武器では有効打が狙いにくい。その点、二人が持っている大型の武器ならば効果的だろう。


「魔獣の強さがそのまま秘宝へ近付いている証拠となってくれればいいですが」


 私とアンバーで周囲を警戒する。
 一つ一つの戦闘時間は短いため、今まで囲まれたことはないが、油断はできない。


「ハリソンさん……アレ」


 アンバーが指差す先には子犬に似た魔獣がいた。
 ……たぶん、魔獣だ。
 魔人と人間の区別がつかないように魔獣と動物の区別も非常に難しい。殺して魔石が出れば魔獣で肉が残れば動物だ。
 これだけ魔獣が生息する領域であれほどまでにか弱い姿の動物が生き残れるとは思えない。
 原則として魔獣は魔獣を殺さない。ゆえにあの子犬も魔獣だろう。


 くぅーん。


 逃げるわけでもなく、威嚇をするわけでもなく、こちらに訴えかけるような鳴き声を向けてくる。


「今のが親……というわけでもなさそうですね」


 そもそも魔族は人間と違って血の繋がりで繁殖はしない。姿形こそ似ているため錯覚しそうになるが、魔族は根本的に生物としての作りが違う。
 極論を言えば、犬猫と魔人を比べれば犬猫の方が生物として私達に近いのだ。それほどまでに魔族と言う存在は私達と異なる在り方をしている。


「……どうやら、敵意は無さそうですが」


 アンバーはじっと小さな魔獣を見つめている。


「それも処理しましょう」


 フランは大剣ではなく片手剣を抜き、ゆっくりと小さな魔獣に歩み寄る。
 見た目は小動物であり、可愛らしさを感じなくもないが、それは見逃す理由にならない。
 しかし、あの小動物の仕草は何か不自然な所がある。


「フランさん、少し待ってください」


 私の静止の声にフランさんは立ち止まり、抜いた剣を納める。


「何か考えが?」


「気になる点が。アンバー、あの魔獣の仕草。なんでしょうか」


 小さな魔獣はフランさんが歩み寄るとお腹をさらけ出し舌を出している。


「……敵意が無い事は分かりますが……構ってほしいのでしょうか?」


「……やっぱり、そう見えますか」


 どう見てもそういうポーズを取っている。魔獣らしからぬ仕草だ。もしかしたら、本当に魔獣ではないのかもしれない。殺せば分かるが……。


「ルディ、フランさん。魔獣がこのような仕草を見せることは今までありましたか?」


「俺の知る限りないですよ」


「私もないです」


 二人がそういうなら間違いない。


「あ、ハリソンさん。どこかに行こうとしてます」


 小さな魔獣は立ち上がるとこちらに背を向け歩きだし、十歩ほど歩いてこちらを振り返り、立ち止まった。


「ついてきて欲しそうですね」


 私達が向かっている方向と少しだけずれているが、概ね南の向きだ。ついて行っても全くの無駄という分けでもない。


「フランさん、あの魔獣について行ってみませんか?」


「……いいでしょう。ただし、警戒を厳に」


 警戒を厳とはこの場合、臨戦態勢で移動するという事。常に武器を構えての移動となるわけだ。


「分かりました」


 私達は罠の可能性も考え、あの小さな魔獣を追う事にした。

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