異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第56節

 ルディを連れ宿屋に戻った私達。
 アンバーが振る舞ってくれた夕食を取り、解散となった。
 食事の席ではルディがアンバーの手料理をとても美味しそうに食べていたのが印象的だった。そんなルディの姿に気をよくしたのか、アンバーが珍しくおかわりまで作ってくれた。
 心行くまでアンバーの手料理を堪能した様子のルディにせっかくだから、このまま宿に泊まればいいと提案したが、やりたいことがあるからとルディは夕食を終えた後は食後のお茶を楽しむことなく宿を後にした。
 明日のパーティーの事もあり、私達も身体を休めるため早目に床に就くことにした。


 日が暮れ、人通りが少なくなった頃。
 昨日と同じように、しかし昨日とは違う道を私は歩いた。
 何も異変はなく、冷たい夜風が私の熱を奪い、早く宿に戻れと諭してくれるようだった。
 そんな道中、激しい息遣いが聞こえた。私は気になり、それを探してみると、光の魔術による光球を周囲に漂わせたルディが一心不乱に剣を振るっていた。
 草木の茂るこの土地で、ルディがいる箇所だけは踏み固められたのか雑草の一本も生えていない。それは今日だけ鍛錬をしているわけではなく、日頃からここで鍛錬をしている証拠だろう。
 足運び一つ、素振り一つを丁寧に繰り返し、身体に馴染ませるような仕草に見える。時折、フランさんが見せた構えを真似ては何度も繰り返して剣を振るった。まるでフランさんの剣術を我が物にしようとしているようだ。
 フランさんとまともに斬り合えなかった事が悔しいのか、フランさんの剣筋を真似た直後にルディは溜め息を頻繁に出していた。それでも何度も繰り返し、徐々に洗練されていくのが分かる。
 人の成長は模倣から始まるとは良く言った物で、ルディはそれを体現している。


「あれ? ロウ様?」


 一息ついたルディが私に気が付いた。


「こんな時間まで鍛錬をしていたんですね」


「はい。どうしてもあの剣筋を体得したくなりまして、目が冴えて眠れないんですよ」


 ルディにとって、フランさんの剣筋はそれだけに鮮烈な物だったようだ。


「やはり、フランさんは強いですか?」


「まだフランさんの強さの全容を見たわけじゃないですけど、その片鱗だけで俺にとっては良い刺激になりました。正直な所、本気のフランさんがどれほど強いのか想像もつきません」


 フランさんが本気になった時はあの炎を纏った時だろう。カズキ様が言う『炎姫』と呼ぶにふさわしい姿。全てを焼き尽くす炎のドレスを纏ったあの姿は私にとっても鮮烈だった。


「私達と一緒に行動すればいずれは見る機会があるかもしれませんね」


「その時は誰よりも間近でフランさんの本気を見たいです」


 ルディは心の底からそう思っているようで、笑みを浮かべていた。

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