異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第43節

 キャス王女に手土産を持たせて見送る。
 カズキ様が持ち込むお菓子は女性にとても人気があり、それは王族とて例外ではないらしい。
 朝から来客もあったが、今日も情報収集に勤しむこととしよう。
 朝食を取ったあとはフランとアンバーに自由行動をさせ、私は一人で商業ギルドに訪れてみた。
 私が貴族の頃に世話になった知人を訪ねるためだ。
 知人の名はイゴール。森の国のラルフ商会に所属する商人の一人である。
 ラルフ商会で受付を済ませ、しばらくするとイゴールはやってきた。


「ロウ伯爵! お久しぶりです!}


 この壮年の細身の男がイゴール。トール人にしては顔の彫りが深いことが特徴だ。


「イゴールさん、今はもう伯爵じゃないですよ」


「おっと、これは失礼。では、なんとお呼びすれば?」


「今はただのハリソンと呼ばれている。


「そうでしたか。。では、私もハリソンさんとお呼びさせていただこう」


「ああ」


「色々と話を聞き、心配していたんですよ」


 イゴールは私の父が当主の代から取引をしており、私とも旧知の仲である。


「紆余曲折はあったけど、こうして無事にしているよ」


「そのようですね。肩の荷が下りたような安心感がありますよ」


 商人にとっての肩の荷が下りるとは一般人以上に重い意味を持つ。なにせ行商時代には本当に肩で担いだ商品を隣町まで運んだりする実体験から来ているのだから。


「それで、今日はどういった御用でしょうか?」


「私の今の立場は例の魔王殺し、カズキ様の奴隷という立場なのです」


「ハリソンさんが奴隷? いえ、その前に魔王殺しのとおっしゃいましたか?」


「そうです。陽の国を占拠したあの魔王を倒した人物です」


「確か、魔王殺しはその武勲によって公爵の身分を与えられ、広大な土地を手にし、新興国を作ると風の噂で聞いたことがあります」


「正しくその通りです」


「そして、今のハリソンさんはその人物の奴隷だと」


「世間一般で言う奴隷のような仕打ちは受けていませんがね。単なる部下として扱われていると思って頂ければ相違ないかと」


「なるほど。確かにその人物は少し変わった人物だと聞いたことがあります。それに変わった品々を取り扱う商人でもあるとか」


「確かにそうですね。例えば、これなんてどうでしょうか?」


 私は念のために持ってきていたチョコレートをイゴールに渡してみる。
 親指程の大きさの黒い豆のようなそれは私もたまに食べている。


「これはなんでしょうか?」


「カズキ様はアーモンドチョコレートと言っていました。黒い物はチョコレートといい、その中にアーモンドと言われる豆が入っているんです。実際食べてみてください」


「では、ありがたく」


 イゴールは手にしたそれを口にいれ、少し口の中で転がしてから噛み砕き飲み込んだ。


「……なるほど。これは凄いですね」


「そうですね。今では王侯貴族のご息女が自ら買い求める程に人気な商品です」


 実際、この国の王女様もどうすれば手に入るかと訪ねてくるほどだ。


「……ハリソンさん、今日はどういったご用件でしょうか」


 イゴールは再び私が訪ねた用件を訊いてきた。


「根回しのためですよ」

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