異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第35節

「私がカズキ様とですか?」


「そうだ。お前も年頃になって恋の一つでもおかしくない。カズキ様に恋というのは的が外れているかもしれないが、連れ添いたいと思ったことはないか?」


「……考えたこともありませんでした」


 アイリスにとってカズキ様を恋愛の対象と見るのは私が思った以上に難しい事なのかもしれない。
 この子は賢くもあり素直な所もある。だから、奴隷が主人に恋愛感情を持つべきでない。そう無意識のうちに思っていたのかもしれない。
 カズキ様はこの世界の人間ではないが、非凡な知識を持ち、高い道徳心を持ち、魔王に挑む勇を持つとても優れた人物だと私は思っていた。きっとそれはアイリスも同じだろう。そうなれば、アイリスがカズキ様を意識しないはずがないのだ。


「カズキ様はお前を特別視している。もしかしたら、お前を妻に迎える可能性もあるんだ」


「特別視なら、それこそミズキさんがいますよ?」


「…………」


 さすがにアイリスもよく見ている。


「しかし、カズキ様がミズキさんを妻に迎えることはない」


 カズキ様が言う現代という世界では私達の常識が当然のように通用しない。貴族ともなれば、正室に側室をもうけるのは当たり前だ。これは色を好むからという理由だけではなく、子孫繁栄を為すためにも推奨されている。しかし、カズキ様はどうにも愛する人は一人でなければいけないと考えている節もある。だからなのか、一夜の過ちというものを決して起こさない。
 カズキ様は女性を選べる立場でありながら、選ばないのだ。


「でも、だからといって私を選ぶとは思えません」


「カズキ様の世界で特別な存在はきっとあのミズキさんなのだろう。しかし、私達の世界でカズキ様が特別に想っているのもアイリスに違いないんだ」


「……本当にそうなのでしょうか?」


「ああ」


 一奴隷に対してあれほどまでに執心する姿を見せれば誰だってカズキ様にとってアイリスが特別な存在だと分かるはずだ。


「アイリス。今すぐに答えは出さなくてもいい。ただ、もしその時が来た時。どちらを選ぶのか決めておきなさい。愛する者と結ばれるのか、愛さぬ者と結ばれるのか」


 カズキ様はこういった恋愛に関し、無理強いはしない方だと私は思っている。しかし、カズキ様とて人の子であり、男だ。本気になれば、アイリスの気持ちすら操って妻として迎え入れる可能性も0ではない。
 そのためにもアイリスには覚悟をさせなければならない。


「アイリス。私は長らくこの土地を離れ、お前の傍に居られない」


 アイリスを抱き締めた。
 私が死んだら……、そう言いかけて止めた。
 それはきっと、アイリスを悲しませるからだ。

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