異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第34節

「お父様!」


 私を見つけたアイリスは間髪入れずに駆け寄ってくる。


「アイリス、カズキ様から貰った仕事は捗ってるかな?」


「はい。きちんと進めています」


 アイリスはロージーに似て器量の良い子だ。私自身、心配してはいない。
 私は身を屈め、アイリスと目線を合わせる。
 私の目と髪の色を継いではいるが、やはりロージーの血が色濃く表れている。芯の強さと可憐さが同居している相貌は本当にあの頃のロージーにそっくりだ。


「お父様?」


「お前はだんだんとロージーの若い頃に似てくるな」


 私とロージーの娘だ。これほどまでに愛おしい存在がいるだろうか。
 私はアイリスを抱きしめた。
 その温もりはロージーに感じた物と同じ温もり。


「アイリス。私はしばらくお前に会えない」


「どこかに行くんですか?」


 きょとんとした声で尋ねるアイリス。


「そうだ。カズキ様の勧めで森の国への使者として発つことになった」


「……それはいつですか?」


「決まってはいないが近日だ。カズキ様のご用命さえあれば明日にでも発つ」


「……そうですか……」


 アイリスだって幼い子供ではない。自分の気持ちを口にしない程度には成長していた。
 私にとってアイリスはいつまでも子供であり、守らなければならない存在だ。しかし、そんなアイリスから離れ、森の国に行く。それも一歩間違えれば死ぬかもしれない道だ。


「アイリス。カズキ様の言う事はきちんと聞くんだぞ」


「大丈夫ですよ。お父様。私はいつだってカズキ様の命令には忠実ですから」


「……そうだったな」


 奴隷と言ってもアイリスと私達とでは意味合いが違ってくる。私やロージーは社会的奴隷だ。それに対し、アイリスは心身共にカズキ様に捧げた従者だ。アイリスは今でこそこうしてある程度の自由があるようにみえて、その自由ですらカズキ様のお言葉一つで簡単に摘み取られる。
 しかし、カズキ様はアイリスに指示は出しても滅多な事では命令はしない。カズキ様自身もその命令の強制性を忌避している節があるのだ。
 アイリスはそんなカズキ様を慕ってか、カズキ様の指示は忠実に守っている。


「アイリスはカズキ様の事をどう思ってる?」


「カズキ様は尊敬するご主人様ですよ」


「尊敬か」


 その言葉に男女間の感情が込められてはいないように思える。
 そういえば、アイリスが誰かに恋をしたという話を聞いたことが無かった。
 本来ならばアイリスは結婚していてもおかしくない年齢だ。
 血の事もあり、良い相手を私が用意することはできなかった。ゆえに、この年までアイリスは独身だ。
 その血もカズキ様はあまりお気になさらない。
 私からしてみれば、カズキ様程アイリスの結婚相手に相応しい人物もいないような気がする。
 しかし、アイリス自身にその想いが無ければ私がとやかく言う話ではない。言う話ではないのだが。


「アイリスはカズキ様と結ばれたいとと思ったことはないかな?」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く