異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第17節

「イオネさん?」


 服装がお姫様然としたものではなく、まるで冒険者の様な軽装をしている。
 絹のドレスではなく布の服。貴金属や宝石の代わりに無骨な剣を腰から下げており、如何にもこれから戦いに行くといった感じに見える。


「おや? これはこれは、カンザキ公ではないですか!」


「お久しぶりです」


「ああ、久しぶり。どうしたんだい? 爵位を持って領地も手に入れ、悠々自適な貴族暮らしをしているかと思いましたが」


「まぁ貴族暮らしをするための一環みたいなものです」


「その一環で私達の国に?」


「ええ。山の国には優秀な職人がたくさんいると伺っていましたので、何人か雇えないかと思いこうして足を伸ばしたんです」


「公爵自ら人材調達とは人手が足りてないのかな?」


「そうですね。新参ですから、信頼できる仲間は少ないですね」


 そこでイオネは周囲を見渡し、空いてる席を見つけるとその席を指差す。どうやら、ゆっくりと腰を下ろして話したいらしい。
 どうせロージー達の交渉は長引くだろうし、俺一人ぶらついて時間を潰すぐらいならイオネと話して見たかった。


「ところで、イオネさんはどうしてそのような恰好を?」


「ああ、さっきまで訓練をしていてな。ヒル家は男女問わず、全員が武芸を嗜むのが習わしで、私のその例に漏れない。その訓練でコイツをダメにしてな。訓練用とはいえ愛着ある一本だから、修理しようかと思って、ここに来たんだ」


「それならば職人ギルドに行った方がいいのでは?」


「そうすると無駄に接待を受けて時間を食ってしまうからな。ここなら昔からの友人がいるから、そいつに頼んで匿名で修理してもらいたかったんだ」


「そういうことだったんですか」


「ああ。ところで、さっきの話だがカンザキ公は領地を得たわけだが、どんな国にするのか決めたんだろうか?」


「ええ。陽の国、山の国、森の国、湖の国、それらを結ぶ丁度中央に位置する国という事で和の国と名付けました」


「和の国か」


「はい。俺の国では和とは平和や調和、そういった穏やかでバランスが取れた状態なんかを指す言葉です」


「カンザキ公は博愛なのだな」


「そういうわけじゃないですけどね」


「カンザキ公が描く国はきっと良い国になるだろうな」


「そう思いますか?」


「ああ。人を大事にする王は大成する。逆に人を蔑ろにする王は失脚する」


「過去にもそう言うことが?」


「そうだな。例えば、この国と湖の国の間ぐらいに小国があるのだが、そこの特産品は人間なんだ」


「特産品が人間?」


「要は交易品が奴隷なんだ。そこの領主はタイン人で優れた魔石術の使い手だったらしい。しかし、その息子はあまり優れてはいなくてな。代替わりした後、研究資金が枯渇し、新しい政策と称して奴隷として子供を産み育てることを推奨したのさ。だから一部の国民は産んで育て、売る。そういった生活が当たり前になってる所がある。あの国はあと数年で終えるだろうな」


「どうにかしないのですか?」


「結局は他国の話だし、奴隷を欲しがる奴もそれなりだ」


「…………」


「カンザキ公はそういう王にはならないでくれよ。少なからず、私もカンザキ公には期待しているから」


「期待?」


「魔王殺しの英雄。私がよくアーサー姉さんに読み聞かせてもらった英雄みたいだと思ったんだ」


「魔王殺しの英雄……」


「おっと、すまない。私の友人の手が空いたようだから失礼させてもらう。和の国が落ち着いたら、いずれ招待してくれ。必ず行かせてもらう」


 そういってイオネはここの従業員らしき女性と話しながら奥へと向かった。


「カオス。魔王殺しの英雄って知ってるか?」


「それはたぶん、アベルの事だろう」


「アベル?」


「ああ。アベル人がアベル人と呼ばれる所以もそこから来ているのだろう。我を所有していた一人目の人間だ。二人目は貴様だがな」


「ああ、あの緑の防具とかもそいつが使ってたって言ってたっけか」


「ああ。昔はシーク人やトール人、タイン人なんて種族は居なかった。人と言えば今のアベル人だけを指していた。我とアベルとで魔王を倒し、長い時の中で種が分かれたのだろう」


「そっか」


「結局、アベルは魔王を倒してからどうしたんだろうか。我は奴の手を離れ、いつの間にか眠り、気が付けば貴様の手に収まっていた」


「記憶は無いのか?」


「ああ。遠い昔と最近の記憶だけだ。アベルと共に戦ったという事実は覚えているが、どんな戦いだったかは思い出せない」


「エピソード記憶の欠落か」


「エピソード記憶?」


「人間の記憶の種類の一つの事。まぁそれがカオスに当てはまるか分からないけどな」


 と、そこで俺の名前が呼ばれたような気がした。
 周囲を見渡すと水城が俺に向かって手を振っている。どうやら交渉は終わったらしい。

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