異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第10節

 本題に入った。


「私は和の国の首都たるルクスをヒノモトと改名し、治めたいと思っています。しかし、私一人では手に余る。そこで信頼できる仲間に任せたいと思っています」


「カンザキ公は歯に衣着せぬ人物だと聞いております……つまり、私は不要と?」


「時と場合によってはですが」


 俺は一区切りしてお茶に口を付ける。


「この街に来て少しだけオセロ子爵の評判を聞きました。どこの住民でも同じことを言うかもしれませんが、税が重いと耳にします。この評判に関して、オセロ子爵はどうお思いですか?」


「……確かにこの街の税は周辺に比べ、高いのは間違いない」


「では、何に税を使っているのかお聞かせください」


「カンザキ公は私を試しているのですか?」


「そう捉えてもらって構いません」


「……マージョリー。帳簿を」


 帳簿?


「畏まりました」


 マージョリーは部屋を出て、少ししてから羊皮紙を重ね、紐で縛った本を手に戻ってくる。


「カンザキ公は学が高い方だとお聞きしております。こちらに目を通していただければこの街の財政が分かるかと思います」


「拝見いたします」


 オセロから帳簿を受け取り、その本を開いてみる。字は読めないが、こちらの国の数字ぐらいなら分かるようになっている。だからこそ、この帳簿とやらはきちんと収支計算がされている事も分かる。そして何より、帳簿を取っている事自体に驚いた。そしてそれが複式簿記ともなれば驚きだ。
 俺も経理については詳しくないが、簡単に言えば普通の帳簿と言えば家計簿のようなお金の出入りのみに着目したものが単式簿記。それに対して物品等の価値やそれ以上のものを視野に入れたものば複式簿記だ。もっと簡単に言えば、この世界においてかなりレベルの高い財政管理をしているという事になる。
 そうなると、この帳簿で一番気になるのはお金の使い道だ。
 帳簿をめくると資産が大きく目減りしている部分がある。これはお金で物を買ったから資産が減ったという物ではない。複式簿記の特徴は現金が減っても等価値の物品が手元に残るからこそ資産は一定に保たれるのだ。


「クララ、これはなんて書いてあるんだ?」


「傭兵の雇用だそうよ」


 傭兵か……。
 同じ文字が羊皮紙をめくるたびに出てくる。
 普通街には兵士が居る。なら、わざわざ雇う必要はないはずだ。にもかかわらず雇っている。それは兵士の数が足りていないということだ。
 兵士が足りていない時とはどういう時だ? 戦いが多い時だ。
 戦う相手は誰だ? 魔族?


 つまり、魔族と戦うために傭兵を雇った。だから、収支の均衡を保つために税率が上がったというのか?
 更によく見てみると収入の部分だが、徐々にだが増えている。これはつまり、経済成長をしているという事の裏返しだ。基本的に税収というのは『経済規模』×『税率』で決まる。税率が大きくても経済規模が縮小すれば税収は増えない。
 住民は税率が高いと言っているが、ここ数年は税率は維持されている。にもかかわらず税収が増えているという事は経済規模が少しずつ大きくなっているという事だ。
 無能領主かと思ったが、意外や意外。正直驚いた。


「ありがとうございました」


 俺は帳簿をマージョリーに返した。


「納得していただけましたか?」


「……正直、期待以上でした」


 単なる坊ちゃんではなかった。少なくとも、財政管理に関しては俺以上。もしかしたら、俺達の財布管理人であるロージーと同格以上かもしれない。


「オセロ子爵。今後もこの街の管理人として働いていただけますか?」


「もちろん。喜んで」

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