異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第6節

 俺が住んでいる屋敷の敷地は広い。自慢できるほどに広い。しかし、それでも想定されている広さはある。
 馬車が出入りするには十分な門。馬車を数台は駐車できるであろうスペースもある。だが、現代のバスでは少々狭いようだった。なにせ二頭引きの馬車を縦に並べているような大きさだ。
 その巨体にさすがのこの世界の住人達も驚いている。そして、水城も驚いている。


「一樹! バスってマイクロバスとかじゃなかったの!?」


「いや、バスって言ったらこれだろ」


 俺が乗ってるバスは一般的に言われているあのバスだ。決してマイクロバスではない。


「こんなの私だって乗れないよ!?」


「大丈夫だって。この世界は道路交通法なんて無いんだから、バスを運転したからって無免許でしょっ引かれることもないし」


「もう……」


 水城は呆れたように溜息を吐いた。


「じゃあ、ハリソン。乗ってみようか」


 それが元々の目的だ。


「え!? 私が、これにですか!?」


「ああ。練習がてらオルコット商会まで行ってみるといいよ。水城、後は頼んだ」


「頼んだじゃないでしょう……」


 後の事は水城に任せ、俺は次の仕事に取り掛かる。


「アイリ、行くぞ」


「はい」


 杖を取り出して浮遊させ、その上にアイリを座らせて俺も跨る。


「カズキ様? もしかして、飛行魔術を?」


「ああ。練習したらできるようになった」


 この世界では飛行魔術は禁術指定を受けている。理由は簡単で過去に何人もの魔術師が飛行魔術の失敗により数を減らしたからだ。
 俺自身も自分の肉体を魔術の対象にして飛べるわけではない。あくまで魔術によって飛んでいる杖に乗っているに過ぎない。
 まぁ小難しい話は置いておこう。
 地面を軽く蹴り、ふわりと宙に浮く。大型バスを見下ろす程度の高さに到達したところでハリソン達に声を掛けた。


「俺は領地の視察に行ってくる。後は頼んだぞ」


 そのまま杖の先を南東に向け出発する。


「カズキ様、あのミズキさんという方はカズキ様の古いお知り合いなのですよね?」


「まぁな」


 さすがにこのスピードを出すと寒い気がする。
 防寒のために防具を取り出す。生地が厚いだけに保温性も高い。
 マントでくるりとアイリを覆い抱き寄せる。


「あ……ありがとうございます」


「気にするな。この方が俺も温かい」


 杖に跨り両手で杖を握り、その両腕でアイリが落ちないよう固定する。


「ところで、偶然ってあるんですね。ミズキさんも私と同じアイリって名前なんですよね?」


「ああ。俺の国じゃ愛の理って意味の字で書くんだ」


「愛の理ですか……」


「アイリの名前にも意味があるのか?」


「はい。ありますよ」


「どんな意味なんだ?」


「お父様が仰っていました。私が生まれた翌日に綺麗な虹が出ていたそうです。お父様はその虹が忘れられず、お母様に話したそうです。そうしたらお母様が古い言葉で虹の意味を持つアイリスって名前が自然と浮かんできたそうです」


「ってことは、アイリスって名前は虹って意味があるのか」


「はい。なんでもタイン人だけが使える魔石術には古い言葉が使われているそうで、今ではその言葉はタイン人にしか受け継がれていないそうです。お母様曰く、アイリスという名前を魔石術で使うと本当に虹を見ることができるそうですよ」


 嬉しそうに笑うアイリスが可愛くてぎゅっと抱きしめた。


 

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