異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第2節

 こちらの世界に水城が来ているのはもちろんアマテラスの指令によるものだ。何故水城なのかといえば、水城の能力は俺の能力をコピーできるからだ。
 水城曰く、俺の能力を模倣するには水城が使える能力の枠を全て費やさなければ模倣できないとのこと。つまり、こちらの世界で異能力を使うことはできない。厳密に言えば、こちらの世界で十分な時間を空け、模倣する異能力のカスタマイズを行えば可能だが、基本的に行うつもりは無いらしい。
 だから、水城は俺が初めてこちらに来た時と同様、少し力持ちで少し丈夫な人間程度の能力しか持たない。
 俺の休暇が条件付きで受理されたが、その条件がこちらの世界に水城を同行させるものだった。
 こちらの世界を観測できる者が俺しかいなかった場合、向こうの世界の人間は裏を取ることができない。そのため、俺の調査は俺自身が提出する情報のみとなり、信憑性に欠ける。だが、そこに同行できる人間が一人、水城の証言を合わせることでより正確な情報となる。
 休暇が終わった後、俺と水城はアマテラス本部で色々と調査を受ける。その時に色々と情報が求められるだろう。その時に提出する情報をまとめる時間としての意味合いもこの休暇にはある。
 とはいえ、俺はあくまで休暇の身。実質的な情報をまとめは水城が担ってくれる。だから俺は普段通りにしてくれればいいとのことだ。


 俺の休暇は最短で二週間、この世界の調査がもっと必要だと判断された場合は最長で一ヶ月の休暇となる。この間で俺の国の内政の基盤構築を済ませたい。
 早速、明日にでも俺の国の首都となる土地を見に行くこととしよう。


「水城、こっちの世界はどうだ?」


 飲み物を持たせたアイリを連れ、水城の部屋を訪れた。


「なんだか不思議。私があっちの世界で能力や能力者達の事を知った時もこんな感じだったかな。自分が知ってる世界が崩れるっていうかさ、今まで見聞きしてた物って与えられてきたものだったんだなって感じ」


「まぁ俺もそうだったかな。順番は逆だったけど」


 俺は椅子に腰かけ、アイリに淹れてもらったお茶を飲む。


「一樹はそうなるんだよね……もしかして、あの時に病院に運ばれたのもこっちで何かあったから?」


「うん。初めて魔王と戦って、ボロ負けして、ギリギリの所でコイツに助けてもらったんだよ」


 アイリの頭を撫でるとアイリは少し顔を赤くして照れた。


「そうだったんだ。でも、一樹って身体の再生とかできるんじゃなかったっけ?」


「まだその頃は魔術も使えなかったからな。魔力も持ってなかったし」


「そうだったの……」


「とりあえず俺の知る限りだけど、こっちの世界に来てもあっちの人間は魔術は基本的に使えない。例外としてカオスを身に宿した俺だけが魔術を使える。たぶん、アマテラスの連中もそういった事を考えるかもしれないだろうけど、そう報告しといて」


 ヘラの事もある。能力者を解剖、実験をして能力者を量産できないかと考えるように、魔術を使う者、魔術者を量産できないかと考えてもおかしくない。だからこそ、先に釘を刺しておく。


「分かったわ。でも、カオスを誰かに譲れば魔術者になれるんじゃないの?」


「可能かもしれないけど、その場合は俺は死ぬよ」


「……え?」


「魔王との戦いで俺は瀕死の怪我、具体的には両腕を斬り落とされて死にかけた。そこをカオスに助けてもらった。だからこうして生きている。その結果、俺の身体は魔力によって構成されている。もし、カオスを失えば俺は死ぬ」


「それ、本当なの?」


「ああ」


 俺は何度かそれっぽいことを水城に言った気がする。水城もきっと心当たりがあるだろう。


「この腕、この顏、この色はカオスが人の形をしていた時の姿の一部が俺の身体に現れている証拠だ。俺の腕が斬り落とされて、再び腕が生えた時にはもうこの腕だった。だろうアイリ?」


「はい。間違いありません」


「だったら……だったら一樹は一回死にかけて、それでももう一度その魔王と戦ってまた死にかけたの?」


「まぁそうだね」


「……一樹。あなた、こっちの世界で二回も死にかけて、またあっちの世界でも死にかけたのよ? なんでそんな平然としているの?」


「……なんでだろうな?」


 全部自分で選択したことだ。おかしいというのなら、俺の価値観と水城の価値観が違うだけだろう。


「いいじゃんか。こうやって生きてるんだし、俺が命張って誰かが助かって、おかげで俺は英雄扱いされてるんだ。誰も損してない」


「……死んだら何も残らないんだよ?」


「だったら、俺は自分の命惜しさにこの国を見捨てれば良かったって事か?」


「……普通はそうだよ」


「……だったら、俺は普通じゃないんだよ」


 なんだろう。なんだか無性にイラつく。
 俺はこの国を救ったんだ。凄いだろう?
 そうだね。一樹は凄い事をしたんだね。
 そんなやり取りを期待した。
 こちらの世界での栄光はあちらの世界では評価されない。だけど、水城なら分かってくれると思った。こちらの世界を肌身で感じ、俺を称えてくれる人間がこんなにもいる。なのに水城は俺の功績を否定する。


「あ、あの……」


 気まずい雰囲気に戸惑うアイリ。


「悪いな。アイリ……。水城、俺達は部屋に戻る。この部屋で寝るかあっちに戻るかは任せるけど、朝食はこっちで摂るんだろ? 明日は……」


「ジェイドさんです」


「ジェイドか。あの子が飯を作ってくれる。ちゃんと飯は食いに来いよ」


 俺はそれだけ言い残して部屋を出た。

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