異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第1節

「カズキ様!!」


 なんだかこの声を聞くのも久しぶりな気がする。


「ただいま。アイリ」


 俺に抱き着いてきたアイリの頭を撫でる。柔らかな髪は流れるように俺の指の間から擦り抜けていく。


「ッ! カズキ様! そのお顔はどうされたんですか!?」


 俺の右頬にそっと触れるアイリ。


「なーに。あっちでゴタゴタがあってね。今は大丈夫だから」


「本当ですか?」


「うん。それより、皆を集めてくれ。前にこっちに来たかもしれないけど、一応紹介しておきたい人がいるんだ」


「はい、分かりました。食堂でよろしいでしょうか?」


「そうだね。頼むよ」


 このやり取りも久しぶりだ。






 俺は一週間の療養を終え、受理された休暇を満喫するつもりでいる。
 今日が休暇一日目だ。


「皆、久しぶり」


 急な召集のためフランだけはこの場に居ない。この場に居るのはアイリ、ハリソン、ロージー、アンバー、ジェイドだ。俺とハリソン以外はチビッ子揃い。客観的に見て小学校だ。


「今日、紹介したい人がいる。俺の故郷での古くからの友人の水城愛理だ。水城、入って」


「失礼しまーす」


 イメージとしては転入生の紹介みたいな感じ。前置きしてから本人登場だ。


「水城、なんか一言」


「急だなぁもう。初めましての方は初めまして。こうやって自分の言葉で話すのは初めてだよね。私が水城愛理。一樹が話した通り、私も一樹と同じ日本の出身なの。色々あって頻繁にここに来るかもしれないけど、その時はよろしくね」


 水城には通訳の魔宝石を身に着けてもらっている。だから、これで会話に問題はない。


「一応、俺の客人だから警戒しないでいいよ。セシルやレオ達みたいに接してくれたらいいから」


 他の面々の顔を見るにアイリとアンバーは顔見知りっぽい。他は本当に初対面だろう。


「ジェイド、空き部屋がまだあったよな?」


「はい。お客様がいつでも泊まれるように掃除もきちんとしています」


「なら、水城にはそこを使ってもらおう。水城もその方がいいだろ?」


「あ、うん。そうしてもらえると助かるかな」


「なら決まりだ」


 他に何か決めることは……。そういえば、水城の紹介はしたけど、皆の紹介を水城にはしてなかったか。


「ちょっと順番が逆になったけど、水城に自己紹介してやってくれ。まずはアイリから」


「はい。私はアイリス・ロウ。カズキ様の奴隷で身の回りの世話をさせていただいています。何か困ったことがあったら私に訊いてくださいね」


 アイリが奴隷と口にした時、水城が俺の顔を見てきた。いやまぁ……その反応は想定内だ。


「次、ハリソン」


「はい。私はハリソン・ロウ。元貴族ですが、分け合って奴隷の身に落とされました。そこをカズキ様にアイリス、隣にいるロージーと共に救っていただき、このように奴隷の身でありながら過分な待遇で受け入れられております。今の私はカズキ様が公爵としての地位に就かれたため、その補佐をしております。今後ともよろしくお願いいたします。ミズキ様」


 ハリソンが空気を呼んでフォローしてくれた。そのおかげか幾分水城からの視線も柔らかくなる。


「次はロージー」


「はい。私はロージー・ロウ。ハリソンの妻でアイリスの母です。私も二人と同じカズキ様の下で働かせてもらっています。ハリソンは貴族の生まれですが、私は商家の生まれですので、カズキ様に代わり商談をまとめたり家財の管理を行っております。色々とミズキ様とお話しができればと思っています」


「えーっと、一樹? ロージーさんって、その……」


 そういえば、水城はこっちに異種族があることを話してなかったか。一見すればハリソンが少女を妻に迎えているように見え、その娘であるアイリスが同じぐらいの背丈であるなら、混乱してもしょうがないだろう。


「こっちの世界には大きく分けて種族が四つあるんだ。数が多くて俺達と似た特徴を持ってるアベル人、背が高くて色素の薄く、魔力の素養が高いトール人。筋肉質で褐色肌が特徴のシーク人。背が低くて独自の技術を持ち、魔力の素養が無いタイン人。ハリソンがトール人、ロージーがタイン人、アイリスがそのハーフだ」


 一応俺が注釈をする。


「ああ、そういうこと。なんだか本当にファンタジーの世界みたいね」


「そうだな」


 今更だけど。


「次はアンバー」


「……私はアンバー。陽の国の王族、クリスティーナ王女様専属のメイド。今はクリスティーナ王女様の命によりカズキ様に仕えております。私の主な仕事はハリソン様の身の回りの世話と助手です」


「一樹、アンバーちゃんもタイン人?」


「いや、正真正銘のアベル人。単純に若いだけ」


「そ、そう」


「次はジェイド」


「はい。私はジェイド、アンバーお姉ちゃんの双子の妹。私もお姉ちゃんと同じクリスティーナ王女様の専属メイドで今はカズキ様に仕えています。私の主な仕事はロージー様の身の回りの世話と助手です」


 これでこの場に居る全員の自己紹介は終わった。


「カズキ様は自己紹介しなくてよろしいのですか?」


 ここでアイリが提案してくる。今更俺の自己紹介をするのもおかしいかと思ったが、この世界における俺の立場はこの場を借りて説明したほうがいいか。


「なら、最後は俺だな。俺は神崎一樹。この国では救国の英雄だとか魔族殺しだとかが通り名になってる。最近はこの国の王様から爵位を受けて公爵、つまり王族の次に偉い身分になった……よな?」


 自分で言ってて現実味が無くなってハリソンに確認してしまう。


「はい。カズキ様は公爵の爵位を受け、この国で屈指の領地をお持ちですよ」


「ということだ」


「……なんだか未だに信じられないなぁ」


 言ってる俺自身が不安になるんだ。聞いてる側も信じられないだろう。


「まぁ無理に信じろとは言わないさ。信じろうが信じまいが何も問題ないし」


「うん……」


 公爵うんぬんの話で思い出した。


「そういえば、ハリソン。俺が手に入れた領地に関する情報ってどれぐらい集まった?」


「そうですね。一番大きいのは地図を手に入れた事でしょうか。今お持ちしますのでお待ちください」


 そういったハリソンはすぐにスクロール状の地図を持ってきてくれた。
 広げた地図には縮尺は書かれておらず、文字も俺が読める物ではない。それでも無いよりはマシだ。


「ここがサニングですね。ここから北に平原が広がり海に面します。魔族共を迎え撃ったあそこですね」


 なるほど。確かに西と東に山が続いている。その東の山の尾根を追っていくと国があるようだ。そこが山の国だろう。


「サニングから交易路に沿って南に向かうと宿場町や村があります。戦争時にロージー達が避難した先ですね。そこから東に向かうと川や山、山林と豊かな土地が広がっています。ここがカズキ様の領地です」


「これ……かなり広いんじゃないか?」


 陽の国の国土の一割、いや一割五分はある。縮尺も不明で測量も宛にならないが身に余るという意味がよく分かる。これは広すぎる。
 サニングとあの村が馬車で五日程度かかるという話からして、俺の国土を西から東に横断する場合、馬車で半月はかかる計算になるぞ。


「そうですね。この土地の中にもいくつかの宿場町や小さな集落があります。ですが、サニング程の大きな街はありません」


「……やっぱり、俺が統治する以上はそれなりの国にしたいな……」


「候補地は幾つかありますが、どうされますか?」


「どこがいい?」


「私は領地の中でも東にに街を造る事を勧めます」


「それはなんでだ?」


「陽の国からは遠くなりますが、陽の国に持ち運ばれるものはこの交易路を必ず通ります。そういった意味では交易路上のどの宿場町や集落を拠点としても同じでしょう。それよりも他国との距離を縮めることが大事です」


「何か政治的な意図があるのか?」


「そうですね。今、カズキ様は陽の国にとっては救国の英雄です。しかし、他国から見れば魔王と同等の力を持つ恐るべき存在。毒にも薬にもなります。そんな存在が一国に居続ければ他国は面白い顏はしないでしょう。近くに置くには危険ですが、時と場合によっては頼りたい。そういった印象を抱いているそうです」


「だから、領地の拠点も他国に近い東側が良いと?」


「はい。国同士の交通で馬車で一週間の距離は近くはないですが遠くもない距離です。それに東には湖の国から流れる川を利用することもできます。湖の国から流れる水は魚達にとって豊富な栄養を含んでいるのか、良質な魚を手に入れる事ができますよ」


「よし、領地の東に俺の国を作ろう」

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コメント

  • ノベルバユーザー254917

    水城が異世界に来た時点で読む気無くした。さようなら。

    1
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