異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第93節

「――キ!」


「――ズキ!」


「一樹!!」


 闇に揺蕩う意識を掬う声。
 意識は泡沫の如くふわりふわり、上へ上へと昇り、パチンを弾けるように目が覚めた。


「一樹!!」


 煌々と眩しいほどに輝く光。その逆光の中、黒い顏が俺を向いている。


「……なんだ。愛理か」


 声だけで分かる。コーヒーのように苦く甘い声だ。


「猫、起きたか?」


「はい!」


 ブラッドの声がする。
 ……ここは……採石場か。


「……ヘラは?」


「ヘラさんならそこに埋まってるわ」


 声がする方へ顔を向ける。そこにはシルヴィが立っていた。


「……シルヴィか」


 シルヴィの他にもククやファット、あのエレベーターのお姉さんも居た。


「……クララ」


 この状況の説明を求めるためクララに声をかける。しかし、返事が無い。


「……クララ?」


「クララならそこだ」


 クララの代わりにカオスが返事をする。そこだと言われてもどこかは分からない。周囲を見渡してみると唯一クララが居そうな場所。クロにプレゼントした魔石、それを愛理が持っていた。


「クララ、そこにいるのか?」


 今度は周りにも聞こえる声量で訊いた。


「ええ。いるわ」


 愛理の手の中からクララの声がする。


「……ってことは、もしかして」


「ええ、全部聞いたわ。一樹の本当の力」


「まさか、シルヴィが?」


「私じゃないわ」


 シルヴィじゃないとすると誰だ?


「我が教えた」


 まさかのカオスだった。


「……なんで教えたんだ?」


「貴様が死ねば我も死ぬ。ならば、貴様の死を回避するために使える手段は全て使うのは当然だろう?」


 そう言われれば反論できない。


「だけど、俺の力は封じられて魔力の供給は……」


 いや……待て、一人だけいる。
 何故かクララが宿った魔石を持ち、俺を膝枕している目の前の人物が。


「もしかして、あっちの世界に行ったのか?」


「ええ、可愛らしい女の子に助けてもらったわ。確か、アイリス・ロウと名乗っていたわ。一樹がアイリって呼んでる子ね」


「…………」


 ……最悪だ。一番知られたくない人間に知られてしまった。


「なんで一樹があんなに宝石をたくさん持っているのか不思議だったけれど、一樹が使っている物が能力じゃなくて魔術で、魔術を使うためには魔力が込められたこの魔石が必要だったのね」


 そう言って愛理は俺の手に魔石を握らせる。


「……一樹はいつも大事なことは誰にも言わないよね」


「……うるせぇ」


 なんだか馬鹿らしくなった。
 結局、俺がしていたことは無駄だった。無駄に一人で頑張って、無駄で一人で傷つき、最後には他人に助けられる。
 滑稽だ。実に滑稽だ。


「……あの……ニーサン……」


 自嘲している俺に声を掛けてきたのはクロだった。


「今更ニックネームで呼ばなくていいよ」


「……一樹さん」


「なに?」


「その……助けに来てくれてありがとうございました」


「……気にすんな。大したことじゃない」


 一人で助けに来て、相討ち止まり。いや、奴を殺せなかった分、俺の方が負けてるか。


「でもまぁ良かったじゃん。怪我はないんだろう?」


「はい」


「なら、俺の役割は終わったな……」


 俺は本当の能力を隠し、待機命令を無視し、独断専行でクロを助けに来た。どんな処罰が来ようが構わない。


「ブラッドさん」


「なんだ?」


「俺の処罰ってどうなるんですかね?」


「……さぁな」


「さぁな……って」


「今回の件、紅蓮さん預かりになったんだ。お前の本当の能力、確か『非現実のイマジナリーゲート』だったか? それと、魔術って奴に関しても一度調査が必要ってことになった」


「……そうですか」


 当然と言えば当然か。こんな未知の力、放っておくはずもない。
 でも、何故だろう。秘密がバレたのに不思議と気持ちが軽い。


「……すみません。無理しすぎたみたいで体が動きません。少し、眠ってもいいですか?」


 魔朧の反動のせいだろうか。酷い脱力感があり、腕を上げることもできない。首と指、動かせるのはそれぐらいだ。


「休んでろ。あとはこっちで処理する」

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コメント

  • ノベルバユーザー254917

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