異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第92節

「カズキ、そろそろ十分が経つ」


「……分かった」


 十分経過を告げたカオス。俺自身の魔力の残量も著しく減っている。
 あと一回、異空間を作れるかどうかといったところか。


「どうした? 万策尽きたか?」


 俺の僅かな動揺を見抜いてか、挑発的な笑みを浮かべる。


「いや、まだ策はあるさ」


 魔剣カオスを戻し、徒手空拳で構える。
 奴は基本的に防御や回避にあまり関心が無い。だからこそ、俺の攻撃のほとんどは当たるには当たる。
 後ろ回し蹴りで奴を大きく吹き飛ばし、その吹き飛ぶ奴の背後に回って蹴り上げ、上空に舞い上げる。この時点で奴の腹と背は俺の足跡が深く刻まれ、意識は吹き飛んでいる。
 上空に舞い上がった奴を跳躍で追いかけ、その身体を両腕で拘束。そのまま全身の骨を砕くように締め上げ、垂直に頭から落とす。


「カオス! 解け!!」


 周囲が陽炎のように揺らめき、眼下には突如として現れた灰色の沼。
 俺はヘラを拘束したまま灰色の沼に頭から突っ込み、常人ならば首が折れて当然の衝撃を耐える。
 全身がヒリヒリと焼けるように痛み、呼吸はできない。浮くこともできず、そのまま窒息しそうになるが、意識を手放さず、魔力を無理矢理体内で生み出す。


 ――臓器の一つや二つぐらいくれてやる!


 魔力の不足は身体で補う。足りなきゃ足でも腕でも持って行け。
 あの時、レオがやってのけた芸当と同じ。魔朧マジックヘイズ。身体を無理矢理魔力に分解することで一時的に魔力量を底上げする禁術の一種。


(……カオス、頼んだ)


 先ほどまでの戦闘と緊張により急速に体内の酸素は失われ、二十秒も持たずに酸欠状態になる。
 繊細な魔力制御は不可能であり、そこはカオスに頼らざるを得ない。
 後は俺が思い描く世界を作り出すだけ。その思いをカオスが汲み取り構築する。
 ……少し疲れた。




 俺が弄した作戦は単純な物だ。
 シルヴィから聞いた話から察するに体が斬られようが刺されようが折られようが再生する。再生するからには損傷個所から本来の器官が生える。腕を肩から斬られれば肩から腕が生える。当たり前だ。ならば、斬られた箇所に別の物体があったとしたらどうだろうか。例えば全身をバラバラに切り刻んだヘラを生コンクリートに入れた場合、再生するだろうか。
 石の中に埋め込まれた人間は普通、動くことができない。仮に再生したところで空気がない。空気が無ければ意識は戻らない。意識が戻らなければ実質死んだも同然だ。
 やってることはファンタジー世界で倒せない不死の強敵を封じるそれだ。それを現実で実行した。ただし、魔力や能力といった不可思議な力ではなくコンクリートに埋めるといったとてもに現実的な作戦だ。
 紅蓮に頼んでいたのはこのコンクリートだ。人一人を閉じ込めるために必要以上の量を用意してもらった。あの時の車の音はこのコンクリートを搬送してもらうための物だ。クロを逃がすための車ではない。
 では、なぜクロがあの場に居なかったかと言えば簡単な話であの採石場と同じ異空間を創造し、俺とヘラだけを移動させただけだ。魔力で生み出した空間だからこそ魔力で構成された大地を操り大蛇を作ることもできた。
 あとは穴を掘ってコンクリートを流し込む時間を確保するのが俺の策だ。十分という時間はそのためだけの時間だ。
 あとはヘラを無理やり生コンの中に頭から突っ込み、俺だけが異空間で脱出する。そういう手筈だ。だが、思った以上にヘラとの戦闘で魔力の消費が激しかった。だからこそ、足りない分は体で補う。
 ……だが、足りないという事は既に俺の最期が近いという事だ。まぁ化物の封印の代償が術者の命なんてのは良くあることだ。向こうの世界に戻る事さえできれば魔力の補給なんて簡単だったんだけどな。
 あのバンって野郎、最後の最後でとんでもない置き土産をしていったもんだ。
 ――でもまぁクロちゃんを助けられたからいいか。

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