異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第90節

「カオス! クララ!!」


 今まで俺自身に掛けていた魔術を全て解き、魔術に費やしていた魔力の奔流を周囲に振り撒く。振るっていたカオスの動きは鈍く、遅くなり、俺がカオスを振るうスピードよりもヘラの回復が勝ってくる。それでもあと少し、こいつの意識を断ち続けなければならない。
 斬り飛ばした傍からポコポコポコポコ頭が生えてくる。その度に斬り飛ばし、残骸は消えていく。
 魔術によるブーストが掛かっていない俺のラッシュはそう続かない。僅か数十秒で息も切れる。


「ハァ……ハァ……」


 恐ろしいほどの脱力感。振るったカオスに身体を持って行かれそうになる。
 ヘラの頭はやはり二秒足らずで完全再生し、頭を掻きながら周囲を見渡す。


「随分と斬り刻んでくれたみたいだなぁ」


 どれだけ斬ってもこの男には無駄だと思わざるを得ない。
 肉体的にも精神的にも参った様子もない。初めて見た時と同じ姿でその場に立つ。


「ハァ……常人なら、三十回は、死んでるよ」


 息を整えながら軽口をたたく。


「馬鹿言え、常人なら最初の一回で死んでるさ」


 ニヤリと笑うヘラ。


「そりゃ、そうか」


「……さっきの車の音、あの娘を逃がすための車だったのか?」


 周囲には俺とこいつ以外に誰も居ない。クロの姿も車の姿もない。


「……まぁね。こちとら、終わらないゲームにいつまでも付き合うつもりは無いんだよ」


 動き回って乱れた髪を掻き上げ、奴を見据える。
 ひんやりと風が吹き、頭が冷えてくる。


「悪いが付き合ってもらうぜ。極東の島に護国神が居ると聞いてきてみたら、それに匹敵する強さの持ち主に会えたんだ。もう逃がす気はねぇよ」


「誰が逃げるって?」


 思わず笑ってしまった。
 逃げるわけないじゃないか。


「あん? 逃げるためにあの娘を逃がしたんじゃないのか?」


「逆だよ。アンタを倒すために逃がしたのさ。俺が描く世界にあんたはいらない」


 再び魔術を俺自身に掛ける。魔術の乗りは悪くない。
 カオスを構え直し、奴と対峙する。ここから先は保身無しの全力だ。


「カズキ。調子が良いのは分かるが、調子に乗りすぎるな。このままでは――」


「分かってる……十分だ。十分以内に片づける」


 覚悟が決まる。
 情報を得、策を弄し、自身を賭し、やっと準備が整った。
 不死の化物退治と行こうじゃないか。

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