異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第89節

 互いに一歩も退かずの乱打戦。
 奴の身体を木端微塵にしたのは両の指じゃ足りない程だ。それに対し、俺も手の骨が何度かイカれ、その度に魔力を消費しての回復を行う。
 最初こそ奴の不規則且つ人知を超えた動きに面を食らったが、動きに目も慣れ、実際に攻撃を受けることで学習することもできた。


「こんなに長い戦いは久しぶりだぜ!!」


 狂気の笑みを浮かべたヘラは鋭い回し蹴りを放ち、それを腕で防ぐ。
 ヘラ自身の肉体の耐久を超えたその蹴りにより、鈍い音が俺の直ぐ傍で鳴りつづける。この音にも慣れた。
 折れた脚をまるで関節が増えたとばかりに更に振り回し、踵落としを決めてくる。この攻撃もさっきやられた。折れた箇所から膝側を手で受ければ折れた箇所から先が俺の頭を襲う。だから、この攻撃が来た時は折れた箇所より足先を手で受けるのが正解だ。
 だが、この時に足が千切れれば剥き出しの骨を使って俺を刺そうとする。体勢からして前蹴りが来る頻度が高いため後ろに避けるのではなく左右に避けるのが正解だ。
 次に突きだした足が再生によってリーチが伸びるため、ギリギリで躱さずに余裕を持って距離を取ることが大事になる。この瞬間的なリーチの伸び縮みに対応するのにも慣れるのに時間がかかった。


「あんた! 何のために戦ってんだよ!!」


 奴の動きは能力だけではない武術の動きが見て取れる。何の武術かは分からないが、武術をする者特有の構や呼吸、動き等が必ずある。
 距離を取った時には必ず構え直し、その構えからゆったりと動き始める。その独特のルーティンが確かに存在する。
 能力者になる前から体得した武術なのか、能力者になってから体得した武術なのかは分からないが、その武術を手に入れるには何かの目的があったはずだ。


「簡単さ! 人類最強の男である事を証明するためさ!」


 眼球狙いの特殊な拳の握り。あの攻撃も何度か受けそうになった。しかし、逆に言えば顔面を狙う頻度が高くなる。まだ顔面に迫る攻撃に恐怖を覚えることは多いが、そこはもう度胸で立ち向かうしかない。それに今の俺は普通の人間じゃない。眼球を潰されても時間さえあれば再生できる。最悪、片目を失っても戦闘自体は続行できる。


「だが! 能力者は格闘家として活動はできねぇ!! そりゃそうだよな!? ドーピング程度で騒ぐぐらいの甘ったれた世界じゃ俺の力は振るえねぇ!! だったら、本当の戦いの世界で命を賭けた戦いをするしかねぇんだよ!!」


 ヘラは一言一言、一発一発に感情を込めた一撃を放つ。
 奴は俺やファットみたいな能力による身体強化をしているんじゃない。
 良く聞く話だが、人間が発揮できる力は脳によって制限されている。この制限を振りほどくことで一般的に言う火事場の馬鹿力を生み出す。それは自身の肉体への負荷を無意識の内に避けるようになっているからだ。
 だが奴は自身の肉体への負荷なんていうのは勘定に入っていない。それどころか、人間が発揮できる力以上の物を発揮した結果として目の前で四肢を千切り、身体の中身をぶちまけ、それでも闘志は衰えない。生粋のファイターだ。


「それで強者を捜してんのかよ!!」


 俺の言葉にヘラは攻撃の手を緩めた。


「そうさ、強者は強者を知る。強い者に挑み、より強い者を知る。この連鎖の果てに人類最強があるのさ」


 それこそが奴自身の生きる目的だと確信させた。


「……なんのために人類最強を目指すんだ?」


「ここまで付き合ってもらった礼だ。……サンガが言っていたメイドのミヤゲを持って行ってもらおうか」


 発音が微妙に気になる。それではまるでメイドさんのお土産みたいだ。


「安心しろ、長話はしない。……俺は元々格闘家を目指していた。だが、時代が悪かった。俺はソビエト連邦軍に徴兵され、その頃にこの能力に目覚めた。軍は新たな戦士を生み出すためにと言って俺に様々な人体実験を行った」


 そういえばシルヴィが言っていた。ヘラは毒物に耐性があると。もしかして、その頃の実験が原因か?


「能力者の秘匿は軍事機密だ。今世界にある能力者の秘匿だって冷戦時代のその流れみたいなもんさ。少なくとも俺はそう思うぜ。そうやって数年、俺はモルモット扱いだ。その時の俺はまだ格闘家としての夢は捨てていなかったんだ。だが、聞いちまった。俺は能力者であり、能力者は表舞台に立てない。だから、総合格闘家としての夢はその時点で潰えちまった。だったら、俺は何のために生きてるのかってな」


「夢か」


「そうさ、夢さ。だが、新たな夢も生まれた。何も表舞台の最強にこだわらなくてもいい。裏社会、それも能力者としての最強だ。そのために軍から脱走して銃弾を受けながら裸同然で凍土を踏破し、亡命した」


「…………」


「俺は不死者だが、不老者ではない。年々老いれば衰えもする。だが、老いても夢は捨てない。俺の能力には肉体的敗北はあり得ない。だが、精神的敗北はあり得る。それを支えるのは俺の中にある夢だけだ」


 夢。俺とは違う形での在り方。
 ヘラは夢を叶えるために努力を積み重ねた。
 俺は憧れを叶えるために何をしたんだろうか。


「この夢を叶えるためならば、どのような犠牲、代償も払う。お前は何のために戦うんだ?」


「俺は……」


 俺はクロを助けるために……。
 ――いや、違う。
 俺がヘラに勝ちたいから……。
 ――いや、違う。
 俺の利益のために……。
 ――いや、違う。


『俺が望む世界を手に入れるためだ!!」


 魔剣カオスを創造して奴に切り掛かり、防ごうとする腕ごと頭を両断し、口から上を切り飛ばす!
 この場合、体の方から頭が生えるように再生する。そして、頭が再生しきるまで胴体は動かない。いくら不死者の化け物とはいっても基本構造は人間のそれだ。司令塔たる脳が無ければ体は動かない。
 頭部の完全再生は平均して約二秒。短いようで戦闘時間に置き換えれば長い。
 遠くから車の音が聞こえてきた。
 待ってたぜ。

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