異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第88節

 受けた衝撃は大きいが肉体的なダメージはそれほどでもない。内臓が軋むような痛みが走り、呼吸するたびに筋肉が硬直する程度だ。戦えないわけじゃない。


「カオス、回復頼む」


「よかろう。だが、回復すればするだけ魔力の消費は激しくなる。その点だけ気をつけろ」


「ああ、分かってる」


 身体の回復はカオスに任せ、俺は戦闘に集中することにした。
 擦りむいた傷が徐々に癒され、ヘラの回復速度ほどではないが十秒も経たずに完治する。


「……お前も再生系能力者じゃねぇよな……確かにこれは単なる能力者じゃねぇ。ハハハ! 面白れぇ!!」


 ヘラはゆっくりとこちらに歩み寄り、一歩、また一歩と加速してきた。
 俺が目で追える限界寸前での強力なラリアット。
 剣で受け止めようとするも、お構いなしに片腕を自ら両断し、残った肩から肘だけで向かってきた。
 チッ!
 自ら後方に飛ぶことで威力を殺しながら距離を取る。
 まさか、自らの身体を傷付けながら戦う敵の相手がこれほど厄介だとは思わなかった。
 こちらは回復するために魔力というリソースを使う。それに対し、向こうは何の制約も何の制限も無さそうだ。つまり、力押しではこちらが一方的に魔力を消費し負けることは必至だ。
 いや、弱気になれない。弱気になればそれだけ魔力の流れは滞り、消費量が跳ね上がる。こちらにはとっておきの秘策があるんだ。条件が揃うまでもう少し。
 斬撃は奴には効かない。だったらこちらも素手で戦うしかない。その代わりに悦楽の王が使っていたグローブを嵌める。


「カオス! 加重と身体強化を限界まで引き上げろ!!」


「……良かろう」


 僅かな躊躇いの後にカオスは俺の指示に従ってくれた。
 体感として、身体が重くなったような気はしないが俺が地面を蹴るたびに地面が抉れる。


「いいねぇ!! やっぱり、戦いは既に限るよなぁ!!!」


 奴の動きはなんとか見える。しかし、見えるだけにその独特な動きが俺を惑わせる。
 不規則な緩急と型の無い攻撃。拳や脚、肘や膝、頭や指、果ては骨さえも。その全身が武器となって俺を容赦なく攻めてくる。人間の身体が実は武器なのではないかと錯覚するほどの手数の種類の多さ。そして、常人には真似のできない身体の使い方。前者は常人でも極めれば可能かもしれないが、後者はこいつにしかできない戦い方だ。
 関節の可動限界を無視し、急所である頭を平気で武器とし、剥き出しの骨で突いてくる。
 まるで骨を持ったスライムと戦っているような気分になる。自ら身体を傷付けている当たり、痛みを与える事さえあまり意味を為さないだろう。
 身体強化と加重の力で身体は動くし多少の攻撃ならば怯む事すらないが、こちらの攻撃を防ぐことも無く平気で受けるヘラの相手はやりにくい。
 今の俺の一撃は腕だけの力のパンチで40キロ走行の一般自動車ぐらいの威力はあるはずだ。現に俺の一撃を受けた奴の左手は手首から先が吹き飛ぶか多量出血と骨折を繰り返している。それでもすぐに再生するんだから手におえない。こういうのを暖簾に腕押しとでもいうのだろう。
 しかし、手応えはある。不死の正体が実は分身や幻影といったオチでもない。もしかしたら、本当の意味での不死者かもしれない。
 そして、何度か攻撃する内に分かった事がある。
 当たり前だが、手首から先と肩から先を失った場合の再生時間は完治するまでに秒単位で違いがある。
 また、頭だけを潰した場合は体から頭が生える。頭と全身を切り離した場合、頭から全身が生える。何度か試したが、同じように再生した。つまり、再生するにも優先順位があるようだ。第一に優先されるのは頭だ。次に胴体、そして手足だ。
 そして最後だが、超再生は奴の任意ではなく自動であることだ。
 これらの情報から何とか打開策を見つけられればいいが。

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