異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第87節

 月明かりの下、俺は奴と対峙している。
 カオスに纏わり付いた血を拭い、構えを解いて奴を見据える。


「人を殺す事に躊躇が無いってのはいいねぇ。しかも、殺人快楽者でも戦闘狂でもなさそうな真人間じゃねぇか」


 ヘラは笑いながら一歩ずつ近づいてくる。彼我の距離は十五メートル。十四、十三と近づく。


「クロちゃん。もう、大丈夫だから」


 今の俺は自身の肉体を自分の意志でコントロールできる。視力だって上げられるし、夜目だって常人よりも効く。この月明かりしかない暗闇の中でもクロが心配そうに俺を見続けている姿もよく見える。
 クロは手足を蔦で縛られ、その場に座っていることしかできない。そして、目の前で人が殺された光景を目の当たりにし閉口している。その顔色は怯えだろう。
 こうやって再び強敵と相対する時、いつも誰かが囚われる。それが決まって俺の関係者だというのは俺が疫病神だからだろうか。


「来いよ、ゾンビ野郎。生き地獄ってのを教えてやる」


「真人間かと思いきや単なるキチガイか。残念だ」


 一歩で肉薄し、奴の体にカオスを突き立てる。


「オイオイ、互いの名乗りもまだじゃねぇか。侍は敵同士でも互いに名乗りを上げる風習があるんだろう?」


「バカか? お前は敵ですらない。人の物に手を出すネズミ野郎さ」


 奴の腹に突き立てたカオスを腹から胸、首根にかけて切り上げた。その身から溢れ出る血液はカオスに沿って滴り落ち、地面に吸われて跡形も無く消え失せる。クロの毛先を斬った時と同じ現象だ。


「まさか、そこの嬢ちゃんがお前の恋人だってのか? まだ早すぎだぜ。女は三十過ぎてから最高なんだぜ?」


 軽口を叩くヘラ。その身は一言を発する度に再生し、三秒と経たず元の姿に戻る。唯一違うのは服がボロ布に変わったぐらいか。


「あんたの趣味なんざ聞いてねぇんだよ!!」


 再生系能力者の突破口はいくつかある。一つは損傷箇所を炭化、あるいは凍結させ再生を阻止する。
 吸血鬼物ならば銀の弾丸による攻撃でも再生はしない。ただし、炭化あるいは凍結箇所毎切り落とされれば通常通り再生する。
 俺はカオスに高温の熱を纏わせ遊んでいる奴の左手を斬り飛ばす!
 赤い滴を周囲に撒き散らせながら左腕は少し離れ場所に落ち、そして消え、再び奴の左腕に存在する。
 一体何の能力なんだ。単純な高速再生、時間の巻き戻し、そういった能力ではない。不死であるだけの能力ならばこの再生能力にも説明がつかない。


「多芸だねぇ。俺なんて――」


 ッ!?
 止まった呼吸、流れる星空、刺さるような痛みと鈍い痛み。
 腹に大砲でも受けたかのような衝撃を受け、地上を転がり、背中を強く打ち付けようやく止まった。
 受け身を取る余裕も無く、何をされたのかすら知覚できない速度。動きの予備動作すら読めなかった。


「――こんな力しかないのにさ」



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