異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第86節

 空をかけること数十分。
 初めは迷走していたような軌跡も徐々に南へと方角を変えていた。
 その方角に杖を向け街を越え、森を越え、開けた場所で急に痕跡が薄くなった。
 そのまま軌跡を追うか急に痕跡が薄くなった原因を探るか迷い地に降りた。
 周囲の魔力の痕跡を調べていると月明りでわずかに光る宝石を発見した。それはクララの分身が宿った魔石だった。
 中に宿っているはずのクララは既に居ない。だが、薄く続くこの痕跡は何だろうか。奴らが魔力を持っている訳もなく魔石を持っている分けも……。
 いや、魔石を持っている奴が一人いる。クロだ。
 空の魔石で作ったマイヤーさんのストラップを俺はクロに渡している。あれは魔力こそ持っていないがクララの分身を宿すことは可能だ。
 ……危なかった。
 痕跡の薄さからして魔力残量はほぼ底打ちだろう。もう一日待っていれば追う事自体難しくなっていたかもしれない。いや、もしかしたらブラッド達に助けを求めている間にもこの痕跡が消えていた可能性すらある。
 結果オーライ。独断先行上等。


「もしかしたら、俺はついてるかもしれないな」


 神はまだ俺を見放してはいなかった。いや、神よりよっぽど頼りになる魔神様が俺に力を貸してくれてるんだ。
 なんたる偶然、なんたる伏線。
 たんなるプレゼントが俺をクロの下へ導く道しるべになるとは思わなかった。
 浮かれるのもいいが、時間が無い現実が目の前にある。行動は迅速に頭はクールにそして心は情熱的に。
 だが、この巡り合わせこそが俺の心を高揚させる。
 先程までのセンチメンタルな気分な間のドロドロした魔力の流れが今ではサラサラと流れ、留まるところを知らない。


「待ってろよ。クロ」


 杖に跨り今出せる全力で空を駆け抜ける。
 そして終着点には三人の人影があった。クロ、ヘラ、サンガの三人だ。
 どうやらここは採石場のようだ。露出した地面は全体的に白く、窪地になっている。その真ん中に三人が立っている。まるで俺が来ることを見越していたかのように。
 敵を確認した俺は紅蓮にブツの配達場所の変更を伝え、奴らの眼前に降り立つ。


「どうも。誘拐犯さん」


 初めから臨戦態勢で全身に魔力を漲らせる。身体が魔力によって構成されたせいか、今まで以上に魔術の乗りが良い。


「……お? 助けはお前独りか?」


「ああ。あんたら程度には俺一人で十分、いや、十二分だ」


 俺は鼻で笑った。


「ダイアは来ないのか?」


「……ダイアの正体は分かったのか?」


「ああ、もちろんさ。戦えば分かる」


 あっさりしたもんだ。


「あのまま決着がつくまで戦わせて欲しかったが、仕方がなかったからな。再戦の印としてこいつを預かった」


「再戦の印か……」


 あくまでファットと戦うため。もっと言えば強い奴と戦うため。そのためにこいつは日本までやってきたんだ。


「だったら俺がダイアの代役だ」


「お前がダイアの代役? 前線にも出てこないお前がか?」


「退屈はさせないさ」


 俺は上着を脱ぎ、代わりに例の防具を身に着ける。


「なら、まずはサンガと戦ってみろ。一撃でもこいつに入れられたら俺が相手をしてやる」


 サンガと呼ばれた男。俺達と同じアジア系の顔だが彫りが深い。東南アジア系だろうか。
 シルヴィからもある程度話を聞いている。
 サンガの能力は簡単に言えば結界使い。同一の物体を四つ用意して十メートル四方にそれぞれ配置し、その物体同士を結んだ辺を境界とし、その境界と境界内にルールを設けるというもの。同一物体とは石でも草でもいいらしい。また、十メートル四方は必ずではなくその範囲を狭めれば狭める程ルールの効果が強くなるらしい。
 その効果は能力者の能力を無効にする物もある。ブラッドの攻撃を防いでいたのはこの効果によるものの可能性が高い。


「…………」


 サンガは無言で俺の前に立つ。背は俺と変わらないぐらいだが、俺より肉付きがいい。


「カオス」


 魔剣カオスを片手にサンガに向かい合い、目の前のサンガを一薙ぎして見せた。


「悪いな。今の俺は能力が使えないんだ」


 一瞬にしての絶命。


「能力が使えないってのはどういうことだ?」


「それを説明する意味は無いだろう? あんたは強い奴と戦いたい。俺は自分の強さを証明した。それだけだ」


 圧倒的な熱量を持つ火球を生み出しサンガを包む。
 焦げ臭い肉の臭いや煙が一切無い。塵一つ、灰一つ、骨の一欠片さえ残さない完全焼却。


「いいねぇ」

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