異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第85節

 杖を使って空を飛び、クララの分身の気配を追う。
 方向は猫が言っていた通り森に向かっている。


「カオス、クララ」


「なんだ?」


「どうかしたの?」


「色々と世話になったな。本当、二人のおかげで助かった」


 空を見上げれば朧月夜。淡い月光が少しだけ寂しく感じる。


「いいのよ。これも私とあんたとの契約だし面白い物も見れたわ」


「ああ。俺もお前らが居て楽しませてもらったよ」


 杖に足を引っかけてぶら下がり街を見上げると無数の光点が後ろに流れ虚しさを覚える。


「貴様、何か妙だぞ?」


 カオスは何かを訝しんでいる。しかし、何を訝しんでいるのか俺に心当たりはない。


「いつも通りだろ。自分の肉体が自分の物でなくなったせいでちょっとセンチメンタルな気分になってるだけだ」


「そうか?」


「ああ」


 単なる気持ちの問題だ。きっと。


「クララ、この街の風景を覚えておいてくれ」


「言われなくても見聞きしたものすべて私の中にあるわ」


「そうか。なら助かる」


「それがどうかしたの?」


「なに、俺の必勝の策に必要なのさ」


 結局、この時間になっても俺の能力は戻らなかった。魔力の底も少し見え始めている。本当の意味で必勝を狙うならばきちんと魔力を回復させるべきだろう。だが、時間が無い。
 クロはきっと俺達の助けを待っているはずだ。
 俺がブラッド達に自分の能力を伝える程信頼ができない以上、俺単身で助けるしかない。俺は最後まで誰も心から信頼できなかった。だから独りでどうにかするしかない。これが俺の選択だ。
 物語の主人公達はどうしてああも人を信頼できるのだろうか不思議に思った事は多々ある。それでも、信頼できる仲間の有無が勝敗を分けた。だったら俺は負けるのかも知れない。
 本当にクロを助けたければ俺の力をブラッド達に伝え助力を乞い助けに行くのが筋なのだろう。だけど俺はクロを助ける道を選びつつもブラッド達の助けは乞わなかった。
 それはきっと俺が特別視されたいからだ。特別な能力を持っている自分を演じたいからだ。異能力と魔術の二つを使えるチート能力者。そんな主人公を演じたいからだ。
 単身で強力な能力者に挑み勝利する自分に酔いたいからだろう。子供染みた我儘。そのために攫われたクロをヒロインに仕立て上げ、俺自身をヒーローに配役する。
 あわよくば助けたヒロインから好意を寄せられる。そしてエンディングだ。


 妄想で済んだら良かったのに。

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