異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第84節

 待機命令を受けて数時間。昼から昼下がり、夕方を迎えて宵となった頃。


「そろそろ動き始めようか」


「動くとは?」


「ヘラを倒しにさ」


 倒す算段も付けた。後は俺の舞台にヘラを招待するだけだ。
 本当ならばヘラとファットを戦わせたかったが、結局の所ヘラを倒さなければこの事態に収拾はつかない。
 それに倒す手段を俺が思いついてしまった以上、俺が動かなくてはならないと思ってしまった。


「もしかして一人で行くのかしら?」


「ああ。俺が能力以外の力を持っている事は俺が選んだ人間にしか教えないことにしているんだ。だから、俺は一人で行くさ」


「そう。私に何か手伝えることはあるかしら?」


「そうだな……」


 一つ一つの命令をするのも面倒だ。


「俺の秘密を一切誰にも伝え無い事。俺の敵にならない事。その範囲で自由に動いて構わない」


「分かったわ」


「でも、急に協力的になったのはなんでだ?」


「あなたがそれを聞くのかしら?」


「奴隷化か?」


「そうよ……思った以上にあなたの言う奴隷化ってとても強力な物みたい。あなたの言う事に従わなくてはいけない気になるし、命令には逆らえない。あなたが傍に居ると安心できるし、あなたに褒められると嬉しくなる。まるで自分が自分でないみたい」


「カオス。これも奴隷化の作用なのか?」


「ああ。我は決して人間に辛い目に合わせようとこの術を編み出したわけではない。新たな幸福の形として用意した作用だ」


 ……まるで薄い本のネタのような作用だが、カオスにとっては本当に人間のために考えた末の効果なのだろう。
 この作用自体が良い物なのか悪い物なのか分からない。


「あなたに言っても仕方ないわね。私自身、もう諦めているわ。あの窮地の中、私を生かしてくれたことをあなたに感謝するのが今の私には似合っているのでしょうね」


「……あんまり卑屈にならないでくれ。俺も辛くなる」


「あら、ごめんなさい。でもそうね……あなたがヘラさんを倒してくれたら私は本当に諦められるんでしょうね。もう助けは無いって」


 そうか。シルヴィにとってヘラという存在が最後の希望になるわけだ。仲間だった三人が殺され自分だけが生き残り、奴隷として俺の下についている。この現状を覆せるのは唯一ヘラのみだ。


「分かった。だったらその希望を俺が圧し折ってやるよ。そしてここをお前の新しい居場所にしてやる。泣いても叫んでも逃がさない」


「酷いわね。……でも、優しい嘘」

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