異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第78節

 こんな時間では電車やタクシーがあろうはずもなく、ファットの申し出により自宅まで送ってもらった。
 一応、忠告として男女二人屋根の下。間違えを起こさないよう釘を刺されたが、俺に関して言えば全く問題はない。
 俺が住んでいる部屋はワンルームなだけに一人だと広く感じるが、二人だと少しだけ狭く感じる。


「ここが俺の家。一応命令しておくけど、逃げ出すな。外部と連絡を取ろうとするな」


「……分かりました」


 従順な姿勢を見せるトラス。これでは命令がきちんと遂行されているのかどうか分からない。
 向こうとこちらで奴隷としての命令の強度がどれだけ違うのか念のため試すことにした。


「泣け」


 俺の命令一つでトラスの目に涙が溜まる。そして一筋の涙を流しながらむせぶように呼吸が乱れ始めた。


「泣くな」


 俺の命令によりトラスは荒くなった呼吸をゆっくりと落ち着かせた。
 俺はトラスの目を赤く腫らせた顔を見ると少しだけ罪悪感を覚え、適当に涙を拭った。


「あの……ニーサンと言いましたか」


 冷静さを取り戻したトラスは言葉を選ぶように尋ねてくる」


「なんだ?」


「あなたのその能力、いえ、力は一体なんなんですか?」


「……だから言っただろう? 魔法や魔術って言われる空想上の力さ」


「でも、あなたはそうして使っています。それに私にかけた呪い。これもあなたの言う魔術なんですか?」


「まあね。俺がお前に使った力は奴隷化の刻印と呼ばれるものだ」


 そういえば、本来の奴隷化の力は主人と奴隷の相互同意の下で行われるもののはずだ。


「カオス。俺達が絶対服従の契りと呼んでる物は主人と奴隷が相互に同意しないと使えないはずだけど、カオスの奴隷化の刻印は相手の意志に関係なく施せるのか?」


「絶対服従の契りか、あれもまた奴隷化の刻印の一種だ。さっきも言ったが人を魔族に隷属させるための手段の一つとして奴隷化の刻印を生み出したのだ。相手の意志に関係なくな。だが、それでは我が介入しすぎると考えた。そこで人に選ばせることにしたのだ。魔族と戦う道か隷属する道かをな。結果、人は魔族との戦いを選び、我は人に力を貸した。詰まる所、絶対服従の契りとは我が人に用意した結末の一つだ」


 人にとってのバッドエンドの一つが絶対服従の契りによる人類総隷属化だったのか。
 俺が抱いた謎は解けたから良しとしよう。


「もう一つ命令を加えておこう。俺が持つ魔術に関する情報を一切他人に伝え無い事」


「……なるほど。確かにあなたから命令を受けると自然な気持ちで義務感を覚えますね。まるでそうする事が当然のように」


「義務感か。そういう気持ちになるのは初めて知った」


 もしも、俺が惚れろと命令すればトラスは俺に惚れるのだろうか。……なるだろうな。しないけど。


「今後、私はどうすればいいのでしょうか? そこにある漫画のキャラクターのようにあなたにご主人様とでも呼べばいいのでしょうか?」


「それでも……いや、やめてくれ。こっちの世界でそれはわりとシャレにならない」


「こっちの世界?」


 少し口が滑ったか。……まぁいいか。この世界で俺の本当の能力を知っていて協力してくれる人間は居てくれた方が助かる。


「話してやるよ。俺の本当の能力について」

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