異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第75節

 異空間を解き、少し冷えた空気を吸い込む。熱を帯びた焦げた空気が肺から追い出される感じが心地よい。
 トラスを担ぎ、クロを探して周囲を見渡す。しかし、クロの姿はどこにもなかった。


「カズキ!」


「どうした? クララ」


「さっきまでここに私の分身が居たみたい」


 クララの分身がこの場に居た。そこから導き出される結論はここにブラッドと戦っていたあの男、あの隠れ家の庭でクララの宿った魔石を拾ったあの男がこの場に来たという事だ。そしてクロが居ないという事はそういうことだろう。


「……チッ」


 クロを助けるためにこの場に残した結果、また別の奴にさらわれるというイタチゴッコ。俺は最善のつもりだったが、間に合わなかったようだ。
 後悔や反省は後だ。
 まずはブラッドに連絡を取る。


「もしもし。ニーサンです」


「お前か。一体何があったんだ? 急にあの異空間は解けるわ、敵が逃げるわ、参っちまうぜ」


「率直に言います。クロちゃんがさらわれました」


「……分かった。とりあえず、こっちに合流しろ。猫とククもこっちにいる」


「どこに向かえばいいですか?」


「奴らが拠点にしていたあの家だ。今は誰も居ない」


「分かりました」


 通話を切り、トラスを抱えてマンションの屋上から降りる。
 現状、俺はバンから受けた能力のせいであちらの世界に行けない状態だ。そのせいで俺が魔術を使っている時にそれが能力であるものだと猫に誤解させることができない。そのため今の俺は能力が使えない体で居なければならない。なので民家に向かう手段は表向き徒歩という事になる。
 女性を背負って道を歩くのは多少怪しさがあるが、時間が時間だけにすれ違う人間はいなかった。
 目的の場所に辿り着くとファットが玄関で出迎えてくれた。


「ニーサン。大丈夫だったかい?」


「ちょっとまずいことになりました」


「詳しい話は中で聞こうか。その女の子、あいつらの仲間だよね?」


 俺はトラス背負いなおして奴らの隠れ家に足を踏み入れた。


「その話も含めて中で話しましょう」


 中に入ると他の三人はこの家の中を物色している真っ最中だった。


「来たか。猫! クク! こっちに来い!」


 物色中だったブラッドは俺を見るなり二人を呼び寄せた。
 二人は呼び声に反応しすぐにやってくる。


「さてと、話を聞こうか」


 リビングのソファーにそれぞれが座り、話を聞く姿勢となっている。
 俺は今までの話を多少誤魔化しながら話した。
 記憶や姿を消す敵、能力を封印する敵、そういった厄介な連中にクロを人質に取られて仕方なく異空間を解いた。その後、隙を見てその場に居たクロ以外の全員を異空間に再び取り込むことでクロを開放した。その異空間の中で能力を封じる能力者に俺の能力が封じられ、引き換えに敵のほとんどを倒した。その敵の生き残りがトラスという女性だけだった。そういう話をだ。

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