異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第74節

 こちらの世界での奴隷化が現実味を帯び、目の前に実験体が四人。
 ノーは間違いなく危ないから早急に処理したいので実質三択だ。
 バン、トラス、エイジ。どいつを生かして、どいつを見捨てるか。
 強者として力を振るう事は気持ちがいい。あれだけ挑発してきたバンをたったの一撃で地に這いつくばらせる力だ。
 だが、強者として俺は選択をしなければいけない。誰を生かし、誰を殺すかを。
 全員を生かすという選択肢が無いわけではない。ただそれが多分なリスクを抱えることに繋がり、小心者の俺にはそれを見過ごすことができない。


「カオス。分身の魔石を」


 俺の指示で手の平に魔石が一つ現れる。
 こいつをこの中の誰かに飲ませる。そいつだけを生き残らせる。
 ……いや、選ぶというのは間違いか。もう既に誰を奴隷化するかは決めてある。
 あとは他の三人を殺すかどうかの話だ。


「…………」


 時間は無い。バンによって能力が使えないのは俺だけではない。クロも能力が使えないんだ。早急に決断する必要がある。決断とはつまり、決めたことを実行して後の全てを切り捨てるということだ。


「……トラス。こっちにこい」


 俺は動揺する心を抑えて名前を呼んだ。俺の動揺はそのまま異空間にも表れ、遠景が歪み始めてきている。


「なにかしら」


 椅子に腰かけた俺の目の前で立ち止まるトラス。座っている俺より少しだけ背が高い程度の身長。かなり小柄な女性。少し背が高いタイン人のような容姿。


「跪いて口を開けろ」


「……何をするつもりかしら?」


「ちょっとしたまじないさ」


 トラスは警戒しながらも俺の目の前で跪き口を開く。抵抗しても無駄であり、この空間からは逃げることすら許されない。


「これを飲み干せ」


 濃密な魔力を込めた水を握り拳から一滴一滴とトラスの口の中に垂らしていく。味としては単なる水と変わらない。蒸留された水のように一切の雑味が無い純粋な水だ。


「次にこれを飲め」


 カオスの分身を宿した魔石をトラスに手渡す。


「あなた、トラスに何を飲ませようとしているの?」


 エイジは俺に問いかけるが、もう彼女には興味が無い。というよりも、これ以上会話をしたくはない。何故なら彼女を殺すことを決めているからだ。
 トラスはエイジをちらりと見て魔石を口に含んでごくりと飲んだ。


「カオス。奴隷化の刻印を頼む」


「よかろう。刻印を刻みたい場所に手で触れろ」


 椅子から立ち上がりトラスの頭に手を乗せる。ちょうど頭を撫でる形だ。
 その姿勢のまま十数秒が経過する。その間にもエイジが何かを喚いているが全て聞き流した。


「済んだぞ」


「ありがとう。カオス」


 しかし、これで終わりじゃない。まだやらなければいけないことがある。


「トラス。眠れ」


 俺の命令にトラスは力なく俺に倒れ込む。
 トラスに命令をしたのは奴隷化が成功したかを確認するため。そして、俺がこれからすることを見られたくなかったからだ。

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