異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第73節

 今この瞬間、異空間を解くか解かないか非常に迷っていた。
 目の前の連中は放っておくことはできない。この場で殺してしまうのは簡単だが、バンによって俺の能力は封じられている。試しにIGを使用しようとしても紙はただの紙でしかなかった。


「質問だ。こいつの能力封印の効果はいつ切れる?」


 座ったままバンの脇腹を足で小突く。


「バンさん次第です。一応、最長で一週間は能力を封印する事できると聞いたことがあります」


 俺の質問に答えたのはトラスだった。
 一週間か……。能力の封印という効果自体、能力者殺しみたいなものだがその期間も長い。


「こいつを殺しても効果は消えないか?」


「それは分かりませんが、殺しても効果は消えない可能性が高いです」


 トラスはやけにきっぱりと答えた。


「理由は?」


「他人に作用を及ぼす効果は能力者の死後も継続する例が過去にあるからです」


「実例を教えてくれ」


「過去に他人の聴力を奪うという能力者が居ました。バンさんはその能力者によって聴力を奪われ、ヘラさんがその能力者を倒しましたが、バンさんは丸一日聴力が回復しませんでした」


 トラスの言葉の真偽の程は分からない。


「クララ、トラスは嘘をついているように見えるか?」


「分からないわ。嘘を吐いている分かりやすいサインはないから、本当の事を言っているか嘘を吐くのがとても上手いかのどちらかね」


 難しい所だ。


「エイジ、今の話は本当か?」


「確か半年前の話よ。あの時は耳の聞こえないバンを後ろから突いたりして驚かせて遊んだから覚えているわ」


 とりあえずこの話を本当だとすると、今すぐこいつを殺すのはあまり意味が無い。できればこのバンの能力を利用できればかなり戦術の幅が広がる。特に猫にこいつの能力をコピーさせたい。できればアイリみたいに奴隷化できれば話は早いんだが……。


「カオス。一応確認したいことがある」


「なんだ?」


「こっちの人間を奴隷化することってできるのか?」


「奴隷化か。あれは元々、魔族と人族が争いを止める手段の一つとして我が生み出した術だ。原理としては奴隷の体内にある魔力を使用して対象を操るものだ。魔力を持たないこちらの人間を奴隷化することはできん」


 カオスの言葉に少し引っかかりを覚えた。


「……逆に言えば魔力があれば奴隷化できるんだよな?」


「ああ」


 その言葉を聞き、俺は悦楽の王と相打ちした後に俺が何故生きているのかをカオスに尋ねた時に帰ってきた答えを覚えている。
 俺が異世界で飲食をした結果、体内に僅かながら魔力が残っていた。それを掻き集めて怪我を治癒したと。
 元々魔力を持たなかった人間でもあちらの世界の食事を取れば体内に魔力を宿すことができる。もっと言ってしまえば魔力によって構成された物質を体内に取り込めば魔力を宿すことができる。


「もし、魔力で想像した水をこっちの世界の人間が取りこんだらどうなる?」


「……その場合は多少の魔力を宿すだろうな」


「だったら――」


「だが、こちらの人間は魔力を魔術に変換する力はない。貴様が魔術を使えるのは我が宿っているからこそだ。その力が無ければいくら魔力を持った人間に奴隷化の刻印を施した所で何の力も発揮しない」


 今の話をまとめると、こちらの人間を奴隷化するためにはこれだけの条件を満たす必要がある。
 一つ目は対象に魔力で構成された物質を体内に吸収させる。
 二つ目はカオスを体内に宿して魔力を魔術に変換させる力を与える。
 三つ目は対象に奴隷化の刻印を施す。
 今一番のネックは二つ目だ。


「相談だけど、クララに分身してもらったみたいにカオスに分身してもらうことはできない?」


 俺の質問にカオスは少し黙って考えてから答えた。


「……我の分身を宿せるだけの魔石は今の所二つだ。一つ目は我が眠っていた魔石、もう一つはあの魔王の魔石だ。使える魔石はあの魔王から取り戻した魔石のみ。こちらの人間を奴隷化するならば一人が限界だ」


 この場にいる人間は四人。奴隷化するならば誰が最適だ。

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